第2話 おかしいぞ 私がモテモテだ
結論から言うと、私はいぢめられはしなかった。
「巻き込んでしまって申し訳ない。アナタの生活の面倒はみますのでご安心を」
「はぁ」
私にだけ謝るのも違うよなぁ、と、思いながら、頭を下げるアーサー王子のつむじ辺りをマジマジ眺める。
「マリモっ。私たちはずっと一緒だからねっ。ずっ友だからねっ」
「はぁ」
なぜかアリサが私の腕を抱えて離さない。
返してくれないかなぁ、私の右手。
そっち使えないと、お菓子が食べにくいんだけど?
「マリモさまのお部屋もキチンと用意しますので」
ニコニコしているカーク神官は、私とアリサを神殿にお持ち帰りする気満々だ。
「いや、アリサさまが神殿預かりなのであれば、マリモさまは王宮預かりでよいのでは?」
「アーサー王子。年頃のお嬢さんたちなのですから、ひとりにされるよりも二人一緒の方が安心できますよ」
「いやいや、カーク神官。それではバランスというものが……」
「どう人員を配置すればいいんだ? オレはマリモさまの護衛に就きたいんだが、アーサー」
「スノウ。公の場での呼び捨ては止めろと言っただろう? いくら従兄弟といっても、他人の目がある所でそれは……」
「不敬だって? いいじゃないか。そんな堅苦しい国でもないんだし」
「いや、だって。聖女さまとマリモさまが見ている……」
「……」
なんだか小さく揉めている。
私たちはどうなるんだろう?
万が一に備えて、お腹をいっぱいにしておきたいんだが。
いい加減、右手返して貰えるかな? アリサ。
結局、アリサは神殿預かり。私は王宮預かりということで決着がついた。
聖女であるアリサを守るには、神殿の方が都合が良いらしい。
「心配だわぁ、マリモ。変なことされないように注意してね」
「それを言ったらアリサ。アナタこそ気を付けて」
正直に言おう。
聖女であるアリサは、とても可憐だ。可愛い。綺麗。美人。
ツヤツヤサラサラの黒髪は長くて、その手触りもしっとりしていて気持ちが良いのを私は知っている。
お肌も白くてツヤツヤしている。
ぷっくりした唇は桜色。ちなみに形のよい爪も桜色だ。
黒目がちの大きな目は、長い睫毛に囲まれていて。
小さな顔にキュッとしまったアゴ。
鼻は少し小ぶりだけれど、鼻筋はシュッと通っている。
細身の体にボンッと出るべきところは出ているし、お尻は丸い。
とても魅力的な少女なのだ。手ぇ出すなよ、神官ども。
対して私は、というと……。
「マリモさまは我が国のラッキーアイテムに似ていますね」
「ラッキーアイテム?」
「コレです」
カーク神官が差し出したのは、何やら丸い物体。
緑の球体に、思い切り笑っている目と口が張り付いている。
……鼻はどうした。
「ああ、それか。何かに似ていると、私もずっと思っていたんだ。マリモさまは、ラッキーアイテムに似ているのか」
「ラッキーアイテムの名前は、何というのですか?」
「アリサさま。コレはラッキーアイテムという名前なんですよ」
「あら、変わっているのね」
「ええ、変わっているのですよ。いま、王都で大人気のマスコットキャラクターです」
「そうなのね。……うん、確かにマリモに似てるわ」
「……」
緑の球体に目と口付けたって……マジもののマリモのキャラクターみたいじゃないっ。
「このマスコットキャラクターは、森の精霊をモデルにしているのです。癒し系です」
「そう……なんだ……」
こう、さっきから周囲から注がれる視線がですね。とても暖かくてですね。
異世界から来たビューティーを見る目ではなくてですね。
完璧にこう……カワイイ動物を愛でるとか、ジイちゃんバァちゃんが孫を見守る目とかですね。
そっち系なんですけど……。
「マリモの可愛さは異世界でも通用するのね」
「……」
いや。なんか違うっ。
「マリモさま、殿下に変なことをされたら即、神殿の方へ引き取らせて頂きますので、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「はぁ」
「マリモ―。別々は悲しいよぉ~」
「アリサー。私もだよぉ。寂しいよぉ~」
「アリサさま、神殿のお部屋はフカフカのベッドを整えてございます。お風呂もありますよ。大浴場をアリサさまのために貸し切りにしてあります」
「マリモさま。王宮のシーツはシルクですからスベスベツルツルで気持ちいいですよ。お風呂には薔薇の花を散らしてあります。さぁさ、参りましょう」
カーク神官とアーサー王子は、それぞれのアピールポイントを言ってきたが。
微妙に違わないか、それ? 感半端ない。
「夕食は一緒に摂れるよう手配しましたので。まずはお部屋へ」
「なら、いいわ」
「さっさといきましょう」
ライの言葉に促され、ふたりの育ち盛り女子高生は足早にそれぞれの部屋へと向かったのだった。
「マリモさまは、本当にラッキーアイテムみたいですね」
「そう?」
意味わかんないけど、と、思いつつ適当にアーサー王子の相手をする。
「丸くてカワイイ」
「……」
ボソッと言ったの聞こえたぞ。
それは、思春期の女子高生には言ってはならん言葉ではないのかね、キミ?
確かに私、森下マリモは丸い。
なぜマリモって名前を付けた? と、両親に詰め寄る程度には丸い。
丸い顔に丸めの体。
天然パーマで髪まで丸い。
セミロングなのにショートヘアとはこれいかに。
髪の毛がクルクルしてるから、ふわっとしちゃうんだよねぇ。
引っ張って伸ばせば、肩の下くらいまであるんだけど。
目も髪も日本人としては、少し茶色っぽい。
それに対して、肌の色は少し濃くて。
見た目にはコンプレックスがあるんだよね、私。
アリサが可愛い、可愛い、言ってくれるから普段は忘れてるんだけど。
「……と、いうことなんだが。よろしいだろうか、マリモさま?」
「ふぇ?」
なんも聞いてなかったわ。ヤバい。
「ええと。それはどちらの意味かな?」
「アーサー。それは廊下を歩きながらする話ではない」
「ウルサイなぁ、スノウ。私は少しでも早く、決めてしまいたいのだ」
「……」
決める? 何を?
「それはマリモさま次第だろう? 第一、両陛下に話をする方が先だろうが」
「……」
だから、何を?
「それはそうだが……」
「……?」
何の話だろう?
「第一、お前がそうくるなら、オレにだって考えがある」
「なんだ?」
「オレもマリモさまに結婚を申し込む」
「ふえっ⁈」
なっ、なんだってー⁈
いったい、いつからそんな話になってたんだー⁈
「マリモさまはラッキーアイテムに似ているせいか、とても親しみを持てるのだよ。一緒にいて癒されるというか……」
「オレもそうだ。アリサさまと違って、マリモさまはとても近寄りやすい」
「……」
褒められている気がしないのは気のせいか?
「私は王太子という立場のせいか、気を許せる相手が少ない。でも、アナタが側にいてくれたなら、緊張感ある日々のなかでもリラックスできると思うのだが」
「それはオレも同じだ。騎士として命を張る場面の多いオレの側にいて、癒しとなってくれないだろうか? マリモさま」
「……」
えーとぉ、どうした? お前たち。正気か?
聖女の召喚に巻き込まれた女子高生に対して何言ってんの?
癒してくれ? リラックスできる?
知らんがなっ。
いきなり知らない世界に召喚されて。
しかも、私は巻き込まれで。
元の世界に戻れるのかどうかも分からない上に。
この世界へ定住確実になる結婚を申し込むとは何事ですか?
お前たちは大人だろうがっ!
ちったぁ常識でモノを考えろやっ!
こちとら平然として見えても子供やぞ⁈
異世界召喚って誘拐やぞ⁈
しかも巻き込まれてって……。
泣くぞ? 泣いていいのか?
ごっつ気分悪くなると思うぞ。
めっちゃ後ろめたい思い、させたろか⁈
「あー、ちなみにラッキーアイテムは私も持っているのだが……」
「オレも持っている。森の精霊をモデルにしたもので……カーク神官殿が持っていたのは顔だけだったが。本来はこのように細い手足が付いているのだ」
アーサーとスノウは自分の持っているラッキーアイテムを私に見せた。
ソレには確かに長くて細い手足が付いていた。
顔はカーク神官に見せて貰ったモノと同じなのだが……。
トクン。
私は恋に落ちた。
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