第26話 娘から

「もしもし?」

「はいはい?」

いつもの声でいつもの会話の始まりだ。

「今日の晩ごはん、何か決まってる?」

「今日はねー、親子丼」

「食べたい。私の分もある?」

「あるけど、ダンナさんは?」

「出張中」

「ほな、いらっしゃい」


「今夜、娘が来るって」

ダンナにLINEした。

また電話が鳴った。

出ない。

〜娘には言ってない、言うつもりはない〜

そうLINEを送った。

これから出産を迎える娘に言える訳ないよね。


娘が来るまでの時間で話しが解決する訳ない。


私はわざと家へ帰る時間を娘と合わせた。

娘と同時に帰宅。

ダンナは帰宅していた。

私は目を合わさない。

怒りを表現したつもりだった。


ご飯の支度していると

娘が言った。


「もうすぐ結婚30周年じゃん、今年の旅行はどこへ行くか決まってる?」


涙が込み上げてくるのを必死でこらえた。

「まだよ」

振り返らず答える。

「まだ行ってないけど行ってみたいところとかある?」


もう無理。

涙が溢れそう。

これ以上は普段通りの声のトーンで

娘と会話ができそうになかった。


「ん〜

お父さんに聞いてみて」


「ママが行きたいところならどこでもいいよ」


何故かムカついた。

おかげで涙がひいた。


はなちゃんへ

あなたの家族はあなたの喜ぶ顔が見たいと

言ってくれますか?

私達夫婦には喜ぶ顔を見たいし、

見せたい家族がいる。

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