第45話 違う


 レーベル【BreakMusic】からのスカウト。


【神域ノ女神】紅伊織からの引き抜き。


 そして八種先輩のバンド加入問題に、夏祭りライブ。


 と、まあそんな事がここ一週間であり、練習やらなんやらで忙しい日々を送っていた。


「あの刹那さん。そろそろお部屋に戻られては如何か?」


「えーっ、そんなに邪険にするでないぞ、春くぅん」


「あ、はい」


 ウッゼー!と思いながら僕は置いてあるお茶を飲む。落ち着け、僕。


「ところでおにーちゃん」


「ん?」


「あの紅さんって人に惚れてませんよね?」


 ぶふーっ!!っと噴き出しそうになり、口を慌てておさえる僕。なんかデジャヴ感が。


「......んな、わけ。つーか、お前やっぱり、ごほっ」


「ふふん。でも助かったでしょ?」


「え、ああ、まあ」


「さっすが私!デキる妹は違うなあ!」


 そーだね!デキる妹だからもう勝手に部屋に入らないでくれますかねえ!......まあ、今回助かったのも事実だから何も言えないですが。


 ハッ、もしやこれも計算の内か!?なんて賢い妹なんだコイツは!!


「?......どったの、おにーちゃん?面白い顔して」


「え、いやなにも。ところで、なに?刹那ちゃんは深宙と結構頻繁に連絡取り合ったりしてるわけ?」


「うん!最低一日一回は!」


「おおう、仲良しだな」


「うん!だからね、おにーちゃんが浮気なんかしよーもんならソッコーで報告するからきをつけたまえよ!」


 ニカっと白い歯を見せる妹。


「しねえよ!って、ん?浮気?」


 あれ、僕と深宙がそういう仲だって......こいつ知ってたっけか?いや、言ってなくね?


 と、僕が疑問に思っているのが顔に出ていたのか、刹那が答えた。


「ふっふっふ。私、おにーちゃんが深宙ちゃんとお付き合いしてるの知ってるよ」


「え、え?なんで......あ、深宙が?」


 深宙が言ったのか?まあ秘密って訳ではないから別に良いけど。そんなことを考えていたら刹那が笑顔で頷いた。


「深宙ちゃんにカマかけたら吐いた」


 怖っ!!何平然と言ってんだ......カマかけんなよ。フツーに聞いたら良くねーか。いちいち怖いんだよね、刹那ちゃん。


「あの、フツーに聞いたら教えてくれると思うからフツーに聞いたらどうっすか?なんなら自分も答えるんで」


「いやいやあ、おにーちゃんは絶対誤魔化すっしょ。知ってるもん。何年妹やってると思ってるんでい!」


「あ、はい」


「ていうか、深宙ちゃんも恥ずかしがって言わないからカマかけたんだよ。仕方ないよね」


「そうか......すまない」


 深宙、僕のせいでカマかけられたんか。今度から妹には素直になるから許してくれ。


「まあ、そんなことで紅さん好きになったらダメだからね」


「......まあ、それは言われずともだよ。僕は深宙しか異性として好きにはならないさ」


 うんうん、と満足そうに刹那が頷く。


「よし、安心した。紅さんと会話してるおにーちゃんがデレデレ鼻の下伸ばしてるから心配したんだよね」


「誰がデレデレしてたんだよ!おらっ!」


 ガッ、と妹を抱きかかえる。そしてお姫様だっこに移行する。いい加減部屋から退室していただくぜ!


「はっはっは!モテモテやのう、おにーちゃん」


「だまれ、妹!」




 ◇◆◇◆◇◆




「あ、八種先輩」


「!、佐藤くん......」


 三階にある三年生の教室。八種先輩のいる3Cへ向かおうとしていたら道中彼女の姿が見えた。


「こんにちは、先輩」


「あ、ども」


「あの、例の件なんですが......お待たせしていてすみません。今日、お時間ありますか?」


「あ、う、うん」


 緊張してるな。そりゃそうか。ウチのバンドに入れるかどうかのテストみたいなものだしな。てかなんだ周囲の視線が......?学祭でいいだけ目立ったから注目されるのも仕方ないけど、なんかそれとは違うよーな。こう、好奇の目で見られているというか。


 まあ、いいや。


「それじゃあ今日は一緒に帰りましょう」


「よ、よろしくお願いします」


 ひゅーっ!と何故か周囲が囃し立ててくる。い、意味がわからん......しかし全員先輩なので何も言えない。まあ、年下だろうが上だろうが何も言えないんすけどね、僕は!チキンだから!


「えっと、それじゃあまた後で!」


 頷く八種先輩。ひらひらと小さく手を振っていた。


「サトー」


「......!」


 八種先輩との約束をとりつけた帰り道の廊下。向かいから現れたのは赤名だった。


「よお。元気?」


「......まあ、それなりに」


 あれ以来赤名はクラスの片隅でひっそりとしている。以前のように僕にちょっかいをかけてこなくなったし、いじっても来なくなった。だから、もう関わることもないと思っていたけど。


「突然で悪いんだけどよ。サトー、お前らのバンドさ......今度あるイベントライブに出てくんねーか?」


「え、イベントライブ?」


「ああ。俺さ、お前らのライブ見て、なんつーの?価値観がかわったつーか?......新しいバンドくんでんだよ」


 新しいバンドか。軽音楽部で結成したバンドは解散したって八種先輩も言ってたしな。


「それでその新しいバンドでイベントライブにでるんだけど、お前らもどう?学祭の時は悪いことしたからさ、お詫びというか......どうだ?」


 罠?けど、ライブはしたい。出来るだけ多くの実戦を重ねて経験を積まないといけないのも事実。それに、またハメる気だとしても......負ける気はしない。


 話だけでも聞いて皆に相談してみるか。


「いつなの?そのライブは」


「お、意外と乗り気か。今度の土曜の夜だな。だから五日後......時間は19時開演。場所はALIVEってハコ」


「ALIVE......わかった。ちょっとバンドメンバーと相談してみる」


「おー、了解。頼んだわ」




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