1話 秘宝探しの旅へ
日が沈みかけた森の中は夕焼け色に照らされていた。私と皐月と、アキラの3人で森の中を歩いている。
アキラの発言がその通りだとして、近くの旅宿が燃え尽きているとしたら、旅宿とは逆方向の都会に向かった方が良いと判断した。皐月は、アキラを全く信用していないのか先程から不貞腐れた顔をしているが、私はどうしてもこの男が嘘をついているようには見えなかった。私のことをイヴだと思っていることや、発言がよく分からないところを除けば特に嘘をついているようには見えない。
「アキラは、どこから来たのよ」
「ん?杏奈は俺に興味出てきたかい?んん?」
「あの、質問に答えてくれると……」
話している途中で、アキラが振り返り、私たちが来た方向をじっと見つめた。
「来るな」
「あ?何がだよ。おい、聞いてんのか」
アキラは一方を見たまま動かなかった。こちらの声が聞こえていないように見える。
「それに匂うな。火の匂い。モンスター自体が燃えているのか、何かを燃やす力を持っているのか」
「モンスター!?近くにいるの?」
「いや、まだ大分遠いだろうけど、こっちに近づいてるよ」
「姉さん、何か匂うか?」
「ううん、何も。森の匂いしかしないわ」
「姉さんが何も感じてないのに、何でわかる」
「これさ」
アキラはポケットから銀の細工の中に青いガラスのようなものが入っているものを見せた。
「5キロ先にいるモンスターを感知するものだ。今は4キロ範囲にいるな。だんだん近づいてる」
「姉さんが感じないのに、なぜ匂いまでわかる」
「それは、俺が嗅覚と視覚と聴覚の能力を上げる術を受けているからさ。今だけな。まあ、猫耳族と同程度だけどね」
私と同程度。確かに、今ほんのりと燃えるような匂いがしてきた。1キロ以上は離れている。
アキラは、腰につけてる鞄から小さいカプセルを出した。開けると中から、剣がでてきた。
「この早さじゃ逃げられないな」
「ま、待って。アキラの話だと、群れのモンスターの可能性が高いのよね。どうやって戦うつもりなの」
「そうだね。4匹なら何とかなるかな。たぶん、逃げてもすぐ追いつかれるし、こちらに確実に近づいてきているから、嗅覚か視覚がとても良いだろうから、隠れても無駄そうだし」
「4匹なんて無理よ」
「杏奈は、俺の戦う姿でも見ててよ。きっと惚れ直しちゃうよ」
「まず惚れてないんだけど」
皐月はギッとアキラを睨んだが、アキラは気づいていないようだった。こいつ、私しか見えてないのか。
「姉さん、隠れた方がいい。このアホは放っておいて」
「そうよね。アキラも」
「俺は大丈夫。杏奈は隠れてな。標的になったら俺が守るけどね」
私は不安だったが、皐月に連れられて、すぐ側の茂みに隠れた。後ろからも横からも見えないように、草で覆った。
アキラは相変わらず獣道にいて。モンスターが来るであろう方向に剣を向けていた。
だんだんと焦げ臭い匂いがしてきて、森から煙が上がっているのが見えた。山火事になるのではないか。
「来る!」
アキラがそう言い放つと、森の影から燃えた角のある鹿のようなモンスターが現れた。4匹きた!アキラは先頭に出た1匹の耳を削いだ。そのモンスターは痛がり、身を引いた。
他の3匹がアキラに襲いかかる。
アキラは剣を振り回し、3匹の獣の顔に傷をつけた。ぎゃんという声とともに3匹ともうろたえ、最初に切りつけたモンスターにアキラは素早く近寄り首を落とした。
剣が燃える中を舞う。アキラは火を避けながら走るが、少し服に燃え移っている。それをはらいながら、もう1匹の口を切り裂く。血がドバドバと出ていて、私は思わず悲鳴を出しそうになった。皐月が口を押さえてくれなければ出ていた。
鹿や鳥などは何頭も殺して、捌いて、食べてきたが、モンスターが殺される所は初めて見た。
「水よ」
アキラはポケットから、またカプセルを出し、そこから紙を出して片手で持った。
「浄化の水よ、俺の呼びに答えて、放て!」
紙から水が飛び出し、2匹の魔物に当たり、火が消える。
スクロールだ。初めて見た。魔法が使えない猫耳族やヒュー族などが使う高価な紙で、紙に書かれた呪文を読むと紙に込めた魔法が飛び出すのだ。
紙は青い炎で燃え尽きた。アキラは、魔法が使えないヒュー族だったんだ。
火が消えたモンスターはまたもやふらつき、アキラはその隙を見逃さず、胴を首を真っ二つにした。そして、口を裂いたモンスターの脳天に剣を当て、脳を揺らし、その隙をついて首を切り落とした。
アキラはふうと息を吐き、剣を振り、血を払った。布を取り出して、剣の血を拭う。
「さあ、杏奈。終わったよ。怪我はないかい?」
アキラは手を差し伸べ、にっこりと笑った。
私と皐月は、茂みから出た。皐月は、アキラの戦いぶりに呆然としていた。
私もそうだけれど。
「強いのね、あなた」
「それほどでも。まあ、街の中じゃ自警団に入ってましたから」
そう仰々しく言って、私の手を取り、手のひらにキスをした。
「は!?えっ。何を」
私は驚いて手と身を引いた。
「おい!姉さんに何を」
皐月はアキラに近づきガンを飛ばした。
アキラは、はははと笑い。剣をカプセルにしまう。
「ほら、惚れ直しただろ」
「だから、元々惚れてないんだけど」
私たちは鹿のモンスターから、角をとった。角をとっている最中、モンスターの体が灰のようになくなっていった。
「灰化かな。初めて見た。本当にモンスターは倒すと消えてしまうんだ」
皐月はボソッと呟いた。私も皐月も、狩猟に出て鹿や鳥を殺すことはあるが、凶暴なモンスターと言われるものは殺したことはなかった。
「灰化する前に体から外せば、素材として持って行ける。杏奈たちは、見たところ無一文だろ。金になるものはあった方がいい」
そうだ。お金も服も何もかも、あの村は燃えてしまったから。私たちにあるのは、弓と少しの矢、今日とった獲物しかない。獲物も持ち歩ける分だけとって、あとは村において来るしかなかった。
「ありがとう、アキラ。あなたがいなかったら、私たち死んでいたかも」
「なるほど、そういう見方もできるか。やっぱり、今日この日に君と会ったのは運命だったんだな、イヴ」
「そのイヴって言うのやめて」
「そうだった、杏奈は杏奈と呼んでほしかったんだね」
アキラは私の頭をぽんと撫でた。私はそれを払い除ける。
4匹の鹿の角をとり終えて、アキラが出したカプセルの中に角をしまった。
「さっきから、思ってたけど、あんたってお金持ちなの?高価なカプセルや、戦ってた時に出していたスクロールも」
「まあ、ちょっとね。さあさあ、日が暮れる前に野営場所を探さないとね」
アキラは立ち上がり、辺りを見渡していた。
なんだかはぐらかされた気がする。アキラは今日会ったばかりで、何考えてるかさっぱり分からないし、私の事をなぜかイヴという人だと思ってる。おかしな奴だけど、なぜか嘘をついているようには見えない。直感だけどね。
3人で交代しながら寝ずの番をした。皐月はアキラが起きている時に何か変なことしないか気にしていたが。
ようやく朝になって、私たちは都会へと出発した。実は行くのは初めてで、ちょっとワクワクしていた。
昼くらいまで歩いていると、ようやく都会の証である壁が見えてきた。街をすっぽりと覆う壁。中にある大きな時計台が見えた。
「あれが、都会。すごい!皐月、見て見て!大きな時計台よ!」
「姉さん、俺にはまだ時計台には見えないよ。でも高いな。壁も大分高くできてるんじゃないか」
「はしゃぐ杏奈も可愛いね」
「お前は喋るな、アキラ。姉さん、もう少し頑張ろう。角で金ができれば宿にも泊まれるだろう」
私たちは逸る気持ちを抑えながら、都会へと足を進めた。
道中は、アキラの持っていた銀の細工に青いガラスが入ったサーチャーという、モンスターを探知する魔道具を使って、モンスターを避けながら歩いた。これも、高価なものみたいよね。本当にアキラは何者なのかしら。
都会の壁の前には大きな門がついていた。壁は3メートルはあるかな。大抵のモンスターなら、この壁を越えようとすら思わないかも。
門の前には、門番2人が立っていた。
「旅のものか?」
「旅券交通証を持っているか?」
「俺は持ってるよ。こっちの2人は、近くの村の人だよ。村がモンスターに焼かれたんだ」
「報告にはあるな。最近、村の近くの旅宿もやられた」
「生き残りがいたとは」
「話が早いのね。もう村のことが知られてる」
女の門番が私に、男の門番が皐月に近寄り、手持ちのものを見せるように言ってきた。体も何か持っていないか確認された。
「よし、いいだろう。もし、旅をするなら旅券交通証を、都会に滞在するなら中央役場に申請を出してください」
2人ともが敬礼をすると、門が開いた。重たいのか軋む音がする。
門が開くと、中の街が一気に広がった。いくつもの建物に、色んな色の服を着た人がたくさん。
私たちは門をくぐり、中へと入っていった。
「すごい!すごいすごいー!皐月、見てよ、あれ露店かしら。初めて見たー!」
皐月の服の袖を引っ張って、あちらこちらに目が奪われた。
良い匂いのする露店に、歩いている大勢の人、土壁やレンガの建物。どれも私にとっては珍しいものだった。
「姉さん、はしゃぎすぎ。田舎者丸出し」
皐月は、はあとため息をついた。
「だって、初めてなんだもん!お金があったらなー」
「何か買ってあげようか?杏奈」
「結構です。ほどこしは受けないわよ」
「それは残念。さあ、まずは角を換金しに行こう」
私と皐月は、頷きアキラの後ろを着いて行くことにした。
しばらく歩いていると、アキラが立ち止まった。
「迷った」
「何でよ!」
「いや、この街初めてなんだよね」
「じゃあ、何で意気揚々と歩いたんだよ。バカかよ!」
「いや、杏奈にいい所見せたくて」
「逆効果なんだけど」
私たちは、角と狩猟でとった肉を換金した。
角は、新種のモンスターのものらしく、高めに売れた。
「ほくほくね〜。これがあれば1ヶ月は過ごせるわね」
「初めてこんな大金握ったな」
「さすが、貧乏人は言うことが違うね」
「それ、姉さんにも言ってることになるぞ」
「あ。杏奈のことじゃないぞ」
「悪かったわね。田舎者の貧乏人で」
ごめんと叫ぶアキラを横目に、私たちは宿屋へと向かった。途中で噴水のある広場に出た。大勢の人が噴水の前に立っていた。
何だろうと思い、私たち3人もその群勢の中に身を投じた。
人をかき分けて、噴水の前まで行くと、木の看板が立っていた。
『ここから、山を2つ、川を1つ越え、洞窟の中にある病を治すと言われている秘宝を取ってきた者に、金貨3000枚を渡す 領主』
と、書いてあった。
私たちは、人混みから出た。金貨3000枚なんて、聞いたこともない。金貨すら見たこともないのに。
「すごい!そんなにもらえるなんて!」
「それだけ、大変ってことじゃないのか」
皐月がもっともな事を言っているが、それを無視した。
「それだけあれば、当分、ううん、一生暮らせるかも!」
「うんうん。杏奈、取りに行こうか?一緒に」
「なんで一緒になんだよ。第一取りに行くわけないだろ」
「お前には関係ないだろ。皐月」
2人はまた睨み合った。
そんなことより、金貨3000枚よ。私と皐月では、モンスターを毎回倒してお金を稼ぐっていうのは現実的ではないし、ここは一攫千金を狙って、秘宝を探しに行くのも手なのではないかと思った。
村では、物々交換が基本で、肉を取りさえすれば生きていたけど、都会ではお金が必要みたいだし。
「よし!皐月、秘宝を探しに行くわよ!」
「えー!姉さん、もっと冷静に考えて」
「いいの。早速、今のお金で装備や食料を調達しましょ。善は急げよ」
嫌がる皐月を引っ張って、私たちは街の中へと繰り出した。
アキラも一緒に来てるけども。
「あんたはもう来なくてもいいわよ」
「何言ってるんだい。杏奈とはずっと一緒だよ。ね?」
「ね?じゃなくて!何でそうなるのよ」
「そういう運命なのさ」
「はあ。もういいわ」
でも、アキラがいた方が便利なのは確かよね。戦えるし、モンスターを感知する魔道具を持っているし、一緒に来てもらった方がいいかも。
「一緒に来てもいいけど、山分けする時は私の言う事を聞くこと。わかった?」
「あー俺、金貨は、いいよ。杏奈の自由にしなさい。俺は杏奈と一緒に居られればいいから」
また意味のわからないことを。金貨3000枚よ。それとも、お金持ちみたいだし、興味ないのかな。というか、本当にいつまで着いてくる気なのか。
私たちは、旅の準備を整えて、旅券交通証を発行し、明日の出発を目指して、今日は宿屋に泊まることにした。私が1人部屋。皐月とアキラが一緒の部屋。あの2人仲悪そうだけど、大丈夫かな。
次の日、皐月とアキラは目の下に隈を作って部屋から出てきた。
「どうしたの、2人とも」
「別に。……真似するな!」
2人は同時に同じ言葉を話していた。仲良くはなってないよね。
私たちは、街から出るために門の前に行ったが、門の前にはたくさんの人だかりができていた。
「出られるかな」
「みんな秘宝を探しに行くつもりなのか」
皐月が顔をしかめた。
「これじゃあ、先を越されるんじゃないかしら」
「あなたたちも、秘宝を探しに行くのかしら」
後ろから突然話しかけられて、私たちは振り向いた。そこには、兎耳族の女性が立っていた。
初めて見る兎耳族に私は目を奪われてしまった。キレイな長い耳だ。
「そうだけど、あなたは?」
「私は、みずほ。私も秘宝を探しに行くんだけど、この街から全然出られやしないのよね。そこで、協力して街を出ない?どう?」
「え?門以外から出られるってことですか?」
それなら、好都合かも。でも、そんな方法あるなら、みんな使うのではないか。
「そうよ。でも、1人じゃ無理なのよね。4人からなの」
「どういうことですか?」
「まあ、行けばわかるわ。さ、行きましょ」
私たちが返事をする前に、みずほさんは歩き出してしまった。私たちは、この行列を待つ訳にもいかず、みずほさんの後を追うことにした。
歩いて、10分ほどのところに、裏路地があった。1人の男の人がそこに立っていた。
「みずほ、連れてきたのか」
「ええ。これならどうかしら?」
「いいぜ。4人なら通してやる。1人1銅貨でな」
私たちは言われるがまま、銅貨を払った。
「この先は、モンスターも出る危険な道だ。4人なら、1人くらい外に到達できるだろう。じゃあ、幸運を祈る」
そう言って男は、足元にある丸い蓋を開けた。私は皐月の方を見つめた。皐月は、はあとため息をつき、姉さん帰るなら今だよと呟いた。
「ううん。行きましょう。さっきの行列を待ってたら、秘宝を取られちゃうかもしれないもの」
私たちは、深い深い穴の中へと入っていった。
穴の中、深い所へ降りていくと、薄暗い通路についた。通路には、水が流れていて、壁には光が灯っていた。光の魔法が込められているのかな。薄ぼんやりと光っている。足元がギリギリ見えるくらいの明るさだ。
「みずほさん、ここは?」
声が反響した。
「ここは、下水道よ。街で使われた水をろ過装置がある建物まで運んでいるの。途中、メンテナンスをするための入口が街の外につながっているから、そこから出られるわ」
「詳しいんだな」
皐月が警戒するように言った。
「あら、当たり前じゃない。何も知らないで入るなんてしないでしょ」
「確かにな。姉さんみたいに無謀な人はそうそういないよ」
「どういう意味よ!」
「そのままの意味だよ!何も聞かずにこんな所に入って……無謀でしょ」
そう言われるとそうだけど、皐月だって止めなかったじゃないと言ったら、止めたって行くだろと言われた。
確かに止められても行ったかもしれないけど。
「まあまあ、杏奈は俺が守るから安心して進もうぜ。街の位置からすると、行先はこっちだな」
「そうね、先へ行きましょう。他の人に先を越されては意味がないもの」
みずほさんは、先陣を切って行った。
道幅は狭いので、みずほさん、アキラ、私、皐月の順で進んだ。聞こえるのは、みんなの足音と水が流れる音だけだ。
「みずほさんは、どうして私たちに声をかけたの?」
「それはね、勘よ。勘」
私は驚いた。何かもっと大層な理由があるのかと思ったのだ。
「勘は大事にした方がいいわよ。あとは、縁ね。勘と縁はバカにできないわ」
私は、そうですかと頷いた。
考えてみると、私もよく勘で動くなと思った。皐月は怒るけども。
「杏奈、止まった方がいい」
「どうしたの?」
「サーチャーが反応してる。モンスターが地下にいる」
アキラがサーチャーを取り出して言った。
みずほさんは、それをちらっと見て前へ向き直った。
「こちらに来ているのかしら?」
「そうですね。まだ遠いですけど、かなり多いですね。あと、こちらに向かってます」
「やっぱりね」
「やっぱり?どういうことだ」
「ここにモンスターが住んでるってことよ。だから、4人で行けと言われているのよ。4人いれば、1人くらいは通り抜けられる。そう言われているのよ」
私は、そういう意味なのかと驚愕した。
私たちは一旦足を止めた。
「どのくらい多いんだよ、アキラ」
「わからないな。サーチャーが観測できないから、10体以上ではあるな」
「どうしましょう。あなたたち、戦う心得は?」
「まともに戦えるのはアキラだけですね。私と皐月は、弓を扱えるくらいです」
「そう……」
みずほさんは、指を唇に当てて、考えるような仕草をした。
足音が私の耳にも聞こえてきた。たくさん来ている。でも、足音が軽い。小さいモンスターなのかも。
「そうね。駆け抜けちゃうのも、ありかしらね」
みずほさんはそう言って、行くわよと声をかけた。私たちは、訳もわからずみずほさんについて行くことにした。
足音に水音が混ざる。靴に水が跳ねてもお構いなくだ。
だんだんとモンスターの足音が近づいてくる。もうすぐ見えてくる!
「ぎゃーーーー!!!!」
私は思わず叫んで、立ち止まってしまった。異変を感じたであろうアキラが近づいて来たので、服の裾を掴んだ。
「杏奈、何かあったのか?」
「ね、ねねねねねね」
「ねねね?」
「ねずみーーーー!!!!」
「えっ?」
「姉さんは、ねずみが大の苦手なんだよ」
モンスターがねずみ型で驚いたのだ。
ねずみ嫌い!大嫌い!!やだよー。
私は震えて、ねずみを見ることができなかった。
「あら、杏奈ちゃんの悲鳴で、ねずみ型モンスターがたじろいでるわね」
みずほさんがそう言ったのが聞こえた。
「どこ行くんだよ!」
「悪いけど、モンスターはあなたたちで何とかしてちょうだい。私は先に行くわ。おほほほほっ」
「おい!待て!」
右上からダンと音がしたと思ったら、駆けて行く足音が聞こえた。
「皐月〜、どうするよ。俺1人では、こんな数相手にできないぜ」
「どうするったって……。おい、アホ」
「誰がアホだ」
「強い光が出るもの持ってないか?それで、もしかしたら、ねずみたちを撃退できるかもしれない」
「強い光か……わかった」
アキラの方から、ガサガサと音がなった。何かを出している?
皐月の考えがわからない。強い光があるとどうなるの。早くなんとかして〜!
「これなら、どうだ?」
「スクロールか。光の魔法だな」
「よし!皐月、任せたぞ」
「俺が読むのかよ!」
「俺は杏奈で忙しい」
「はあ?……まあ、いい。読むぞ、目塞いどけよ!」
後ろから、皐月の詠唱が聞こえた。
「一筋の光よ。我が呼び声に答えて、強き光を放て!」
私は目を瞑ったままだったが、瞼の裏が白く光った。
「行け!姉さん、アキラ。今のうちだ!」
「おう!杏奈、走るぞ」
「えっえっ?わ、わかった!」
私はアキラの服の裾を掴んだまま駆けた。
いくらか走ったところで、アキラは急に止まったので、私はアキラにぶつかった。
「わ!突然、なんで?」
「ここまで逃げれば大丈夫だろ。まだ、サーチャーは反応してるが、こっちには近づいてない。むしろ、遠ざかっている。もしかしたら、俺たちを襲おうとしたわけではなかったかもな」
「はあ、疲れた。姉さん、目を開けても大丈夫だよ」
私は恐る恐る目を開いた。目の前には、アキラがいるだけだった。後ろを見ても、皐月しかいなかった。
ねずみはどこにもいない。
「良かったー。皐月とアキラのおかげね」
「姉さんのねずみ嫌いには困ったもんだよ」
「嫌いなものは嫌いなの!でも、どうして、襲われなかったのかしら」
「暗いところに住んでいるモンスターだろ。光に弱いんじゃないかと思ってさ」
「……でも、あのスクロールはそこまで威力の出るやつじゃあないぜ。当たりを少し照らすくらいだ」
アキラは皐月をじっと見つめた。
「お前、魔族だな。スクロールは、ヒュー族や魔法を使えない人のためのものだ。魔族が使えば、魔力が乗り、威力が増す。お前、なんで戦わない?」
アキラの言葉に皐月はため息をついた。
「俺は、確かに魔族だ。でも、戦えるような魔法は使えないし、教わってすらいないよ。見よう見まねでしかできない」
そんな魔族がいるんだと、アキラは目を丸くした。
チィランおじさんは、魔法について、皐月に何も教えなかった。皐月は、おじさんの魔法を見て、覚えている程度で狩りにすら使ったことはなかった。
「宝の持ち腐れだな。スクロールの威力を見ればわかる。お前、戦いに使える程度には魔力があるぜ」
アキラはそう言って、皐月を指さした。
皐月はその指を払い、舌打ちをした。
「そんなことより、あの女、俺たちのこと最初から囮に使うつもりだったんじゃないか」
「そんな……」
「そうだろうよ。あんな簡単に見捨てられるとはな。まあ、さっき会ったばかりの女を信じてはいなかったが」
私たちは、1度体勢を立て直し、先へと進むことにした。
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