12 音楽

 巷に『白』をテーマにした音楽が氾濫した時期がある。音楽は抽象芸術だからというのが後付けの理由らしいが、要するに流行っただけだろう。今でも時折、関連した曲がラジオや街頭でかかることがある。曲調も種類もさまざまで託された想いもさまざまだ。単純だが気持ちの良いカノン形式のものがあれば、極端に繰り返しを嫌う点と線で描かれたような現在音楽まで創造される。それぞれに見えるもの/見えないものが違ったのだろう。

 そういえば、あるひとつの交響曲では「現物を見ぬ限り表現できない音楽!」と評され、作者は迷惑を蒙ったらしい。麻薬所持の噂みたいなものか? ばかばかしいと笑うのは簡単だが、当事者にとっては大事だったと思う。あの疑惑はどうなったのだろうか?

 一説によれば、作者は本当に領域内に入り込んだのだ、という。しかし見れば音楽が頭に浮かぶというものでもない。内からの情熱こそが芸術を生むとは信じていないが、衝動がまるでなければ創作物とは呼び難い。わざわざ作った白い鐘と陶器の楽器で演奏された管弦楽様の楽曲は結構好きだ。ただし気持ちが安らいだわけではない。どちらかといえば怖さを喚起される。初期のシンセサイザー音楽にも得体の知れない恐怖を描いたものがあったが、完成度の点で、あれはそれらを凌駕したようだ。

 不穏な気配を昂じさせる廉で演奏が禁止された国もある。作者はポーランド人。演奏にはブタペストの演奏家たちが参加している。楽曲自体は不協和音も含め、綺麗なものだ。それが何故、あんなに得体の知れない音の群に聞こえたのか?

 うつろ、といえば中身がないことだが、ある意味それが的確に表現されていたがゆえ、恐怖を感じさせる内容に仕上がったのかもしれない。

 無論『白』は「うつろ」ではないが……。

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