第5話 お見合い⑤
久しぶりに鏡の前に立って服を選んでいた。陰陽師の仕事ばかりで選ぶ服は仕事着ばかりだったからだ。そんな私がなぜ服を選んでいるかと言うと今日はこの前仕事をした鐘羽家の彼とデートだからだ。
私は見合いを受ける気はない。今は仕事と学業のことで頭が一杯だからだ。恋愛に気をまわす余裕は無い。とはいうものの適当な服装で行くわけにはいかない。それは相手に失礼だからだ。
そんなわけで私は服選びに迷っていた。
ふと先日のことを思い出す。
※
邪霊は消失し、火口の人たちが集まりその中で一人の女性が出てくる。火口家の時期当主・火口紅葉(ひぐち もみじ)だ。火口家特有の赤い髪を腰まで伸ばして鋭い眼光でこちらを見る。
「共同作戦ご苦労様でした。本部からの連絡は後ほどあると思います。それでは失礼」
そう言って去っていく背中を私は呼び止める。
「あの」
「何かしら」
「率直に言って私の技量はどうでしたか」
「言ったはずよ。本部から連絡があるよ」
「今聞きたいんです」
「若いわね」
そう言う彼女もたしか私よりも二つか三つか変わらないはずだ。少し年上なだけなのに大人と子どもの差があるように感じるのは陰陽師としての経験の差なのだろう。
「もっと鍛錬を積みなさい」
そう言って彼女は部下を引き連れて去って言った。それ以上の追求は許さないと背中で語っていた。
私は悔しさで拳を握っていた。
「見事な術でしたね」
そう言って彼が話しかけてくる。
「短時間でかつ最高効率の詠唱。並外れた集中力が必要なのに実戦でそれを行うとは」
「ありがとうございます」
最後の護符の事だろう。褒めてくれるのは嬉しいが、あの程度は出来て当たり前だ。
「えっと、水成さんで良いんですよね」
確認するような彼の言葉で私は本題の事を思い出す。悔しさは一先ず隣に置いておき彼の対応に意識を向ける。
「はい。始めまして水成桃葉です」
「鐘羽颯兵です」
私は彼を一瞥する。第一印象は「背の高い人」だ。身長は180cm半ばというところか。163cmの私は少し見上げるようにな角度で顔を上げないと彼の顔を見れない。第二印象はどこにでもいそうな「普通の」男性だ。髪はショートで細身の長身がやや頼り無さそうな雰囲気を醸し出していた。
「ええと、これからどうしますか?」
僅かに下りた沈黙に耐えかねて彼は口を開く。
「今日は任務にご一緒してもらってありがとうございます。事後処理があるので今日はこれで解散させてもらって後日連絡を入れる流れでもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ」
彼は快く快諾してくれた。と言うか20も年上なのになぜ敬語なのだろう。そんな彼の対応がさらに頼りなさを加速させていった。
「慌しくて申し訳ありません。それでは失礼します」
私はそう言って彼に背を向け内心で思う。
(無いわね)
取り立てて目を惹くところもない男性。異性としてどこにも惹かれる要素はない。
(頼りないって言う点では父さんと一緒だけどね)
そうして水成家で一番頼りない父の顔を思い出す。
風が吹き、木の葉が舞う。秋が終わり冬が近づいてきた。
本格的な寒さが訪れようよしていた。
そこに違和感を感じるものがあると私も彼も気付いた。
「「!!」」
即座に戦闘モードに思考を切り替える。
そこには大の大人くらいの身長はある紙人形が立っていた。折り紙で作る紙人形があるがそれがそのまま人間サイズに大きくなったものだ。
「式神!一体どこから!!」
驚く私に式神が襲いかかる。
「水生中符・鉄砲水破!」
水鉄砲で式神を迎撃するが式神はその攻撃を回避する。
「金生中符・連星双壁」
二つに並んだ金属の板が敵の行動を制限する。式神は進路を防がれ壁を大きく迂回する。その行動が読めていた私は即座に強力な護符を取り出す。
「水生中符・螺旋水破!」
水鉄砲が螺旋を描きながら敵を打つ。逃げ道を塞ぐとともに敵を討つ必中の護符だ。攻撃は式神に命中し地面に落ちて動かなくなる。
「仕留めた、でも一体、誰の」
式神だったのか。そこで私は敵から視線を外してしまった。それが致命的だった。
「危ない!」
倒れたと思った式神は再び起き上がり私に襲いかかる。
※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます