第3話 二日目

 昨夜は微妙に腹具合が悪かったので、湯たんぽを抱いて寝た。朝は6錠を飲んだあと、通勤時間ギリギリまでトイレに籠もり、腹にカイロを貼って出発。

 でも今日は、ゲリ(ラ)じゃなくて、単にお腹が痛いって感じだった。あとやっぱり胃もちょっとぐったりしている。

 今日は昼から仕事で別の支店へ行かねばならず、1時から6時までノートイレだったので、正直「お腹痛い」程度で済んで助かった。


 夕食後も6錠を飲んで、本日は試合終了。

 スッキリしない鈍痛以外は、特に問題なし。楽勝楽勝!


 私の胃痛が顕在化したのは、とある事件がきっかけだった。

 まだ10代の頃、夕食後に母と二人で某乳酸菌飲料を飲んだときのこと。

 母が「これ、変な味がする」と一口飲んで言った。よせばいいのに私は「どれどれ」とその飲料の味見をした。うん、確かに苦い。


 次の瞬間、母が「毒や! 吐き出し!」と叫んだ。

 え? と母の方を振り向いた瞬間、視界がぐにゃりと歪んで一瞬意識が途切れた。次に胃の辺りが猛烈に熱くなる。父はまだ仕事から帰っていなかったし、祖父母は耳が遠い。

 母と私は洗面所へ向かい、嫌というほど水を飲み、手を喉につっこんで吐こうと試みた。胃の熱さがましになってきたので、『家庭の医学』を引っ張り出して、「とにかく水を飲む」「牛乳を飲む(胃壁を保護し毒物の働きを弱める作用がある)」という記事を読み、今度はある限りの牛乳を飲んだ。


 なんとか症状がましになってきたころ、父が帰宅した。母が状況を説明したが、「ふーん」で済まされたので、母も私も「なんか騒ぎ立てるほどのことじゃなかったのか」みたいな気になってしまい、夜間診療にも行かず、翌日も特に病院へ行かなかった。


 が、その日から母と私は、微妙に胃が痛いのが常となった。

 やっぱりあの乳酸菌飲料が原因かと思ったが、私が保健所に持ち込もうと取っておいた飲料は、「怖いから」と母が捨てたあとで、真相は分からずじまい。

 一ヶ月後、ようやく病院を受診した母は「初期の胃癌」と診断され、入院することになった。私も同じことになっているのでは、と胃カメラの予約をしてようやく検査したが、結果は「胃潰瘍の治りかけみたいな感じ」で特に治療は必要なかった。


 そうは言っても痛いものは痛いのである。食べ過ぎては胃を痛め、ストレスが溜まっては胃を痛め、プレッシャーに負けて胃を痛めた。要所要所で胃カメラは飲んでいたので、ポリープやびらん以上の症状にはなっていないことも確認できたし、基本的に市販薬を飲んで放置だった。


 でもまあさすがに、プレッシャーのたびに胃薬生活もしんどくなってきたので、このたび意を決してピロリ除菌することにしたのである。


 しかし、あのとき飲んだのは何だったんだろう。

「2000年に起きた大規模食中毒事件では?」と指摘されたのだが、年代がちょっと違う。けれども乳酸菌飲料は確かにその会社の製品だったので、もしかしたら食中毒を出すような体制を前から続けていて、たまたま私たちがアカンやつを飲んだのかも、と思っている。

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