86.妖精姫と英雄の婚姻を祝福する
妖精王様……もう少し待ってください。私、アレクシス様に……。
『えっと、すまない』
まだお伝えしたいことがあったのです。なのに、妖精王マーリン様が現れてしまいました。今回は誓いを受けるので、お姿を現してくださっています。普段は見ることのない妖精王様のお姿に、最初に反応したのは国王ご夫妻でした。
さっと礼を取る様子に、慌てて来賓や貴族も従います。私はふぅと息を吐いてから、向き直って一礼いたしました。タイミングが早すぎました。後少しだったのですが……仕方ないので、誓いの言葉の後にいたします。
「ヴィー、来て頂いたのだから、その顔はマズイ」
アレクシス様が苦笑いして、私の頬を突きました。膨れた頬を深呼吸で誤魔化します。妖精王様はくすくすと笑っていました。もしかしたら、わざとでしょうか。皆が頭を下げていたので、私の膨れた頬はバレずに済みそうです。
『顔をあげよ。我らが庇護を受けし
半分透き通っておられますが、昼間だからでしょうか。いつも夜ばかり現れたのは、透き通っていたせいかも知れません。整った顔立ちに優しい笑みを浮かべた妖精王様に、見惚れる人達の吐息が漏れました。わかりますわ。本当にお綺麗ですもの。
『汝らは互いを敬い、尊重し、末長く愛することを誓うか』
声を張り上げた訳ではないのに、誰の耳にも届きました。すぐ目の前で聞いているように、凛とした響きが式場に満ちます。同時に、気持ちが穏やかになりました。妖精達も珍しく姿を現し、光の点滅やひらひらと人前で衣を揺らして笑い合います。幻想的でした。
「この身に余る最高の妻を、人生最後まで……いえ、死しても愛し抜くと誓います」
感動して胸が詰まり、声が喉に張り付きました。じわりと目の奥が熱くなり、涙が溢れそうです。私の一方通行ではないと、信じていいのですね? アレクシス様の誓いを抱きしめ、私は震える唇の角を持ち上げました。無理に笑顔を作らないと、感激しすぎて大泣きしそうです。
「私、ロヴィーサ・ペトロネラは夫アレクシス様を愛しております。生涯共にあり、来世も共にと願いますわ。今夜こそ」
本懐を遂げます! そんな語尾を壊すような爆音が響きました。振り返ると、魔法を使う杖を掴んだ男を筆頭に、剣を持って乱入した輩が数名……。あれはアクセーンの向こうにある国の公爵様と、ヘンスラー帝国の侯爵令息、それから。
数えようとした私より早く、妖精王様とアレクシス様が目配せを交わしました。言葉はないのに、何か通じ合ったようです。
「邪魔するなぁ!!」
叫んだアレクシス様に、参列者から剣が渡されます。宰相閣下が鞘を掴んで差し出し、アレクシス様が柄を握って引き抜きました。そのまま正装で駆けていきます。
赤い絨毯を蹴る彼に向けて杖が向けられ……たのですが、妖精王様がひらりと手を振ります。『我らが姫への狼藉は許さん』と眉を寄せました。途端に杖が恥じ入るように崩れます。まるで砂のように。
「なんだと!?」
「うわぁ!!」
侵入者は一刀両断! すればいいのに、アレクシス様は剣を弾いて降参させました。
「国王陛下、王妃殿下。ヴィーもこちらへ」
お兄様が剣を抜いて構えますが、それ、どこにあったのでしょう。護衛の騎士が駆けつけ、私と国王ご夫妻の安全が確保されました。
一世一代の告白が遮られたのは残念ですが、思い出に残る結婚式になりましたわ。
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