79.分かっていて逃げたのですね?

 近隣国から出席する王侯貴族の来賓名簿を確認し、数人に横棒を引いて削除するよう伝えました。というのも、この方々は祝うのではなく邪魔しに来るんですもの。


 先月のヘンスラー帝国……ではなく、属国の暴走でしたね。第二王子の暴走で、帝国の直轄領になったとか。皇帝陛下からは、結婚祝いとして領地を頂きましたの。お詫びを兼ねているそうですわ。


 港町です。我が国との交易で自由に使えと仰ってくださいましたので、レードルンド辺境伯家の財産に付け足しておきました。持参金にぴったりです。そのほかにも、お父様が持参金を用意してくださいました。


 宝石の鉱山をひとつ。一生食べるのに困らないようにと、親心だそうです。有り難く頂戴しました。これで辺境伯家の財政も潤うでしょう。そもそも国を守るお役目に対して、国の援助が少なすぎました。その点はお兄様夫妻の意見書で改善される予定です。


「ヴィーのおかげで、すべてが回り出した。感謝している」


「そう思うのでしたら、既成事実を作ってくださいませ!」


 シベリウス侯爵夫人の閨教育では足りないと、王妃殿下が自ら教えてくださっています。王族の性教育を担当する子爵夫人もご一緒でした。お陰様で、私の間違った知識はかなり修正されましたわ。


 赤子は神様の鳥が運んでくださるのではなく、夫婦の営みで宿ります。その営みの詳細を教えていただいた夜は、恥ずかしくてアレクシス様のお顔が見れませんでした。久しぶりに別の部屋で眠った程です。


 受け入れる部分が指でなかったのは、驚きでした。殿方の股の間にある……それをアレと呼ぶそうです。私がアレクシス様の指を舐めた数日後、真っ赤な顔の王妃殿下とカミラ様が絵を見せてくださいました。肖像画のように額に入った絵ではありません。


 本の形に綴じられていますが、タイトルも飾りもない黒い表紙でした。その本の中身は驚くばかりで……春画に見入った私は最後まで全部見終えて理解しました。旦那様になったアレクシス様に我慢を強いたようです。


 気づいてから何度か迫ったのですが、結婚式を終えてからと手を出していただけません。もしや、私に魅力を感じないのでしょうか。アレクシス様は大好きだと言ってくださいますが、ちょっと心配です。今も目を逸らして答えてくれませんでした。


「隣国アクセーンからの侵入はありそうですか?」


 以前に川の下流から遡って戦いを挑まれる可能性がある、と国王陛下にご相談しました。あの後、別の騒動が続いて忙しくなりましたが、陛下はきちんと対策の手を打っておられます。


 妖精王様のお力を借りることなく、川の一部をレードルンド辺境伯領へ引き込みました。水量が減った分だけ、川の両側にある堤防を増築します。途中にいくつか仕掛けをしたそうで、隣国から攻められても数ヶ月は持ち堪えられるとか。


「向こうも馬鹿ではない。諦めただろうな」


 にやりと笑うアレクシス様、とっても素敵です。お膝に乗せて頭を撫でる大きな手は温かく、頬を擦り寄せて甘えました。このままいい雰囲気に……。


「さあ、今日はもう寝よう。夜更かしはよくない」


「……っ、意地悪!」


 分かっていて逃げたのですね? 結婚式はもうすぐですのよ。その時は逃しませんからね!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る