71.戦争は剣で行うだけではございません
お魚は白身でムニエルでした。ハーブのお味と香りが調和して、塩加減も完璧でしたね。身がほろりと崩れるのもポイントが高かったです。お肉はチキンで、煮込んだお野菜が掛かっていました。こちらも柔らかく、ナイフがいらないほど。
どちらのお料理も美味しくいただき、デザートまでしっかりお腹に収めました。宮廷料理人のレベルは高いですね。パンが美味しくて褒めたら、お土産に届けてもらえるそうです。明日の朝、使用人達にも出しましょう。
「そうだな」
顔色の悪いアレクシス様を促し、寝室までご一緒しました。寝着に着替えて戻ったのですが、まだ心ここに在らずのご様子。溜め息をついたり、折角の髪をくしゃくしゃと乱したり。
「アレクシス様、何がご不安ですか。話してください」
髪を解いた風呂上がりの私は、呆然としている彼をベッドに押し倒しました。逃げられると困るので、しっかり腹の上に跨ります。体重をかけて捕獲しなくては、すぐ押し返されてしまいますもの。
「ヴィー、淑女がそのような」
「あら、昼は淑女で夜は娼婦が良いと聞きました」
「誰に?」
「王妃殿下です」
ふふっと笑って答えました。これはシベリウス侯爵夫人とお母様に王妃殿下を加えた四人でお茶をしたとき、お伺いした極意ですわ。家族も増えるし、夫婦仲も良くなると聞きました。私にも効果があるといいのですが。
「あの方がそんな話を……」
「皆様、殿方に内緒で話す内容はいつもこんな感じですわ」
他のご令嬢とお話ししたことがないので分かりませんが、王妃殿下やお母様もかつてご令嬢だったのです。きっと同じでしょう。シベリウス侯爵夫人のご令嬢の頃は、ちょっと想像がつきませんけれど。
「ヴィーが奪われてしまうのではないかと」
「守ってくださらないのですか」
きょとんとして首を傾げました。各国が手を拱いた災厄であるドラゴンを倒したのに、ヘンスラー帝国など相手になりません。そう自負しておられると思いました。
「ドラゴンは強いが、策略や卑怯な手段は用いない。正面突破だからな。戦いに出た隙に、ヴィーが奪われたらどうするのだ」
なるほど。戦いに出た後で、裏から私が拉致されたら取り返せるか。その心配ですのね?
「でしたらご一緒します」
「さすがに戦場は無理だ」
アレクシス様は戦場になると決めておられますが、ヘンスラー帝国を止める方法は用意してあります。知られても困る方法ではないので、ここでお話しして安心していただきましょう。
「アレクシス様、戦争は剣で行うだけではございません」
眉を寄せたアレクシス様ですが、私の言葉を遮りません。否定されなかったので、さらに続けました。
「妖精姫の価値は、外見だけではありませんの。ふふっ、驚きますわよ」
まずはお手紙を書きましょう。大量に、丁寧に、皆様に向けて。それが届いたら作戦開始です。ヘンスラー帝国の……王子……なんてお名前だったかしら。彼に痛い目を見せてあげますわ。
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