45.隣国の使者が到着しておりました

 アレクシス様の装いは正装になります。深緑の騎士服に私の用意したレモンイエローのハンカチーフを飾り、細工は金色で統一しました。アレクシス様は遠慮しておられましたが、カフスのオパールも含め、すべて私のお小遣いで注文した特注品です。絶対に身に着けていただき、婚約者だと主張しなくては。


 王宮は人の目が多い場所ですからね。私とアレクシス様が愛し合っていることを吹聴するのに、最適の舞台でした。互いの色を纏った私達に、国王陛下も目を細めて喜んでくださいました。


「なるほど、揃いの色合わせか。懐かしいな、わしも妃と合わせることがある」


「素敵ね、さすがはロヴィーサ。センスがいいわ」


「ありがとうございます」


 褒められたらお礼。すでに身についた習慣ですわ。アレクシス様も丁寧にお礼を口にしています。ところでそのお衣装……おそらくですが、他国からの使者が見えられたのでは?


「隣国アクセーン王国の第二王子殿下が到着した。先ほどまで挨拶を受けていたのだが……随分と腰の低い王子よ。怒鳴りつけてやろうと待ち構えておったが、わしの機先きせんせいするとは見事だ」


 笑う国王陛下は、少し不満がありそう。褒める口ぶりと逆に、もごもごと口元が落ち着きません。ここは私の出番ですね。王妃殿下が小さく頷くのを確認し、口を開きました。


「まあ、さすが陛下ですわ。若者の蛮勇に譲って差し上げるなんて、若輩の私では思いつきませんもの」


「ん? そうか、まあ……わかってくれればいいんだ」


 つまり、そういうことです。先手を打たれて気に入らない。でも相手が見事だったのは事実なので、一方的に貶すと自分が狭量に見えてしまいます。ここは国王陛下が若者に譲ってあげた、という逃げ場を用意するのが正解ですわ。


 さらに褒め言葉をいくつか重ねた後、本題に入りました。貴族はどうしても、この無駄とも思える前置きが長いのです。


「ベントソンの二番目の息子は、明日首を落とす。使者が間に合わねば、首を送りつける気だったが、手間が省けた」


 国王陛下は隠すことなく教えてくれます。以前に「令嬢には酷な話だ」と濁した際、私が徹底的に叩きのめしたのを覚えておられるのでしょう。もちろん物理ではなく、言葉でですわ。数日はショックで寝込んだと聞きました。


 殿方はやわな一面をお持ちなのです。お母様が「可愛い」とお父様を称するのも、こういった部分でしょう。


「ヴィー、気分は平気か?」


「ええ。隣にアレクシス様がいて、こうして手を握ってくださっていれば平気です」


 ふふっと笑って、しっかり絡めて握った手を持ち上げれば、アレクシス様は慌てて下げた。隠さなくても、お二人にはずっと見られています。


「さて、今回の事件で解決していない部分がまだある」


 試すようにアレクシス様へ匂わせる国王陛下。答えられなければ、代わりに私が答えますのでご安心くださいね。陛下のお考えの裏を読むのは、夜這いより得意なんですの。

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