第22話 救出
「くそっ!」
ルナの苛立ちはドア越しのジョンソンにも伝わっていた。
「私たちも悔しいです。彼が連れて行かれるのをただ見ていることしかできなかった」
「大丈夫。私がこれから助ける」
「ここで私とやり取りしている時点でクラークさんもすでにヤツらにバレています」
「すぐにここへ戻って来るから待ってて」
「ありがとう。お気をつけて」
再会を誓うと、ルナは急いで階段へ。十一階までは九階下へ降りなければいけないが、エレベーターだと万が一のとき、逃げ場がない。彼女は瞬時にそう判断して階段を選んだ。
彼女が階段へ向かったあと、すぐにエレベーターが上がってきた。降りてきたのは黒スーツの男たち。どうやら監視カメラの映像を見てすぐに上がってきたようだ。彼らはまっすぐジョンソンとカーター博士のいる部屋へ向かうと、二人をどこかへ連行する。
「やめて!」
「どこへ連れて行く気だ!」
ジョンソンとカーター博士は必死に抵抗するが、黒スーツの男たちにはかなわず、力づくでエレベーターに乗せられた。
一方、十一階へたどり着いたルナは実験室の中へ。ベッドやストレッチャーに寝ている被験者をひとりずつ確認していくが、レオは見当たらない。
(くそっ!どこよ!)
そのまま実験室の奥へ進んでいくと、椅子に座らされたレオの姿が。彼女は彼の元まで駆け寄ると、縛られている手足をほどいた。
「レオ!しっかりして!レオ!」
ルナが彼の体を思い切り揺らすと、すぐにレオは意識を取り戻した。
「誰・・・だ?」
「私よ!ルナ!助けに来たのよ!」
「ルナ?」
頭がボーっとしているのか彼は鈍い反応を見せる。彼女はそんな状態のレオの肩をかかえ、実験室を出ようとしたところ、BF Technology社社長が黒スーツの男たちとやってきた。
「何をしているのかね?」
「あんたはBF Technology社社長ベンジャミン・フィリップス」
「そうだ。それで君は今何をしようとしているんだ?」
「レオを助けに来たのよ」
「それは困ったな」
そう言うと、フィリップスは右手を上げ、黒スーツの男たちがそれに合わせて銃を構える。どうやら簡単に逃がす気は無いようだ。
「君たちは逃げられない」
「なぜ?あなたはレオとジョンソンさんを誘拐し、無理やり実験しようとしてる。これは犯罪よ」
「そうだな。だが、その男には可能性がある」
「何が可能性よ。何人もの記憶を失わせておいて、どうせレオもあんたたちのいいように使いたいだけでしょ」
「それはそうだが、その男が協力してくれれば、センス利用者が記憶を失う原因がわかるかもしれないんだ」
フィリップスは近くにあった椅子に腰を掛けると、ポケットから葉巻を取り出し、口にくわえる。それを見ていた黒スーツの男のひとりがライターで火をつけた。
「でも、その実験は危険なものでしょ。レオに何かあったどうするの?」
「そのときは他を探すさ。だが、その実験の成果でもしセンス利用者の記憶が失われることが無くなったら?そうなれば利用者全員が安心する。利用を検討している人への安心材料にもなる」
「すべてはビジネスのためってことね」
「そうだよ。これはビジネスだ。上手くいかないことがあればトライアンドエラーを繰り返して修正していくんだ。そうすることでより完璧なものを作り上げられる」
「あんたのそのトライアンドエラーのおかげでこれまで何人が記憶を失ったと思ってるの?バグで記憶を失った人の中にはすべての記憶を完全に失った人もいるのよ!」
ルナは溜まっていた怒りが爆発。彼女は勢いよく銃を抜くと、フィリップスに向かって銃口を向けた。その表情は怒りに満ち、今にも発砲しそうな雰囲気を感じさせる。
「呼べ」
フィリップスがそう言うと、黒スーツの男たちがジョンソンとカーター博士を連れてきた。
「二人を離しなさい!」
「ダメだ。君が銃を置くんだ」
「私たちは大丈夫。構わず撃って!」
その激しいやり取りの中、レオはようやく意識がハッキリしてきた。彼は伏せていた顔を起こすと、実験室の中を見回し、状況を把握しようとする。
「おい!なんだこれ!」
「レオ!?大丈夫?ケガは無い?」
「一体何があった?」
そう言ったあと、レオは黒スーツの一団の中に拘束されているジョンソンとカーター博士を見つけた。
「ジョンソンさん!カーター博士!」
「グリーンさん!」
「グリーンくん!」
ジョンソンとカーター博士は心配そうな表情でレオに声をかける。
「あんたら二人が俺に偽の記憶データを入れたのは本当か?」
レオの言葉にルナとジョンソン、カーター博士の三人は驚いた顔をする。
「フィリップスから聞いたんだ?本当なのか?」
「一体何を言ってるんだ!そんなことするはずないじゃないか!」
「でも、センスなら五感で記憶を感じ取れるんだぞ!もしあんたらが偽の記憶データを俺のセンスに入れ、その記憶データを呼び出したらどうなる?俺は五感を使ってそのときの記憶を体験するんだぞ!だからもう俺が思い出した記憶が本物か偽物かなんてわからない」
そう言うレオの表情は怒りに満ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます