第20話 偽装された記憶
実験室についたレオは椅子に座らされ、その対面にBF Technology社社長ベンジャミン・フィリップスが座った。
「君は記憶が甦ったと言ったね」
「そうだ。全部甦った」
「その記憶が甦ったときはどうだった?」
「とても辛くて苦しい記憶だったから意識を失ったよ」
「ショックだったんだね」
フィリップスはレオの言葉に考え込む仕草を見せる。
「そうか・・・。でも、君のその記憶は本当に君の記憶なのか?」
「どういうことだ?」
「だって君は博士が撃たれたことや自分が人を撃ったことを覚えても無かったんだろ?」
「それは記憶データを抜かれていたから・・・」
「もしそれが赤の他人の記憶だったら?」
「!?」
「誰かにこっそりその記憶データをセンス内に入れられたのかも」
「なんでそんなことをする必要があるんだ?」
「さぁ?誰かが君に罪を擦り付けるためにしたのかも」
レオはフィリップスの言葉に頭が混乱した。突然他人の記憶データではないかと疑われたのだ。訳がわからなくなるのも無理はない。
「でも、俺はたしかに覚えてるんだ」
「何を?」
「博士が撃たれるのを見て走って逃げた。その後はもみ合いになって銃を撃ってしまったんだ」
「本当に?」
「あぁ!その感覚だってある!間違いない!」
「でも、センスは記憶データを呼び出すと五感すべてで記憶を体験できるんだよ?」
レオは驚いた表情で言葉を失う。フィリップスはため息を吐くと、椅子から立ち上がり、レオの目の前に腰を下ろした。
「僕が言いたいのはこうだ。君は誰かの記憶データをセンス内に入れられた。そして、その記憶データを一度君のセンスで読み込む」
フィリップスはレオの手を取ると、彼の目をジッと見つめる。
「そうすればどうなる?君はセンスを通じて五感で記憶データを体験するんだ。まるで本当に自分が経験したことのように」
「他人の記憶をあたかも俺の記憶のように偽装したってことか?」
「記憶を偽装されたのかどうかはわからないが、もしそうなら?誰がそんなことをするんだ?」
「カーター博士と近しい人物と言えば・・・ジョンソンさん辺りか・・・。でも、なんで?」
その言葉にフィリップスはニヤッと口元を緩ませた。
「それは私にもわからない。でも、彼らならセンスの扱いに長けている。やろうと思えば簡単にできるだろう」
「俺に自分が経験したことのように思わせた・・・殺しを擦り付けるために?」
「まだ犯人が彼らと決まったわけではない。でも、もしそうだったら?彼らは信用できない。実際に彼らはBF Technology社を裏切っているんだ。何か悪だくみがあっても不思議じゃない」
「そんな・・・」
レオはあまりの急展開に大きな衝撃を受ける。自分の記憶と事実が違うかもしれないということを受け止めきれず、頭を抱えて苦しみはじめた。
「大丈夫か?おい!グリーンくん!」
フィリップスの言葉は届いてはいるが反応はできず、彼は再び意識を失ってしまった。
「そっちのベッドへ寝かせておけ」
部下たちはフィリップスの言葉に反応すると、レオを実験室の隅にあるベッドへ移す。
(まずはひとり・・・)
フィリップスはそう頭の中でつぶやくと、再びニヤッと口元を緩ませた。
───その頃、ルナはレオとジョンソンが待っているはずの隠れ家へ帰っていた。
「ただいま」
彼女は玄関を開けて戻ったことを伝えるが、中からの反応はない。
「レオ?ジョンソンさん?」
もう一度、二人を呼ぶが反応は返ってこない。ルナは急いでリビングまで行くが二人の姿は無い。
(やられた!!)
誰もいない部屋を見て彼女はすぐに悟った。レオとジョンソンがさらわれたことを。そして、それをしたのがBF Technology社だということにも。
「リアム!もう一度そっちへ行く!」
ルナはリアムへ連絡を入れると、以前BF Technology社へ潜入したときの変装アイテムと偽造IDを持って、もう一度彼の元へ向かった。
「どうしたんだ、ルナ」
「レオとジョンソンさんがさらわれた。相手は間違いなくBF Technology社よ」
「おいおい、マジかよ」
「BF Technology社のビル内に二人が監禁されているような場所はないかすぐに探して!」
「あぁ、わかった」
リアムはルナの迫力に押されてすぐさまBF Technology社の各フロアを調べはじめた。ビルは地上三十階建てとなっていて、ひとつずつフロアを確認するのは骨が折れる。
「もし二人の居場所がわかったらどうするんだ?」
「潜入する。前にあなたに変装アイテムと偽造IDをもらったから」
「なるほど、もう少し待ってろ」
リアムがPCへ向かっている間、ルナは変装アイテムを使って潜入する準備を整える。もし二人の居場所が確認できればすぐに乗り込むためだ。
(待ってて)
ルナは二人を救出するため、闘志を燃やす。
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