第16話 甦った記憶
「これは俺が入院していたときの・・・」
PCへ繋いだUSBメモリからレオの記憶データを呼び出すと、彼が病院内を歩いている視点が見える。これは彼がセンスの取り付け手術を行ったときのもので、ちょうどどこかへ歩いているところが映しだされていた。
「これはどこへ行ってたの?」
「わからない。トイレとか?」
「そうなの?」
「だって入院生活なんかやること無いし、トイレか・・・タバコを吸いに行ってたとか?」
廊下をしばらく歩いたところで、レオがデジャヴを起こした部屋の前まで来る。そこでは彼の記憶通りカーター博士が男と言い合っている様子が見え、すぐ次の瞬間。博士は拳銃で撃たれてしまった。
たまたまその場に居合わせたレオはびっくりしすぎたのか、体が固まって動かない。博士を撃った男は見られたことに気付いてレオの方へ向かってきた。
「うわぁぁぁ!!」
レオは男が近づいてきたのに対して恐怖を感じ、急いでその場を離れようとする。だが、彼はすぐに男に捕まってしまった。
「離せ!離せよ!」
「暴れるな!」
襲ってきた男にレオは必死の抵抗を見せ、拳銃を奪い取ろうとする。
「やめろ!拳銃を離せ!」
「大人しくしろ!」
と、次の瞬間。
「ズドン」
もみ合いになった勢いで拳銃が発砲。銃弾は相手の男の腹部を貫き、その場に倒れ込んでしまう。レオは震える手で拳銃を持ち、酷く混乱しているようだった。
このあとは多くのスタッフが駆けつける騒ぎになり、レオはそのまま取り押さえられ、どこかの病室へ連れて行かれてしまった。
「ここで記憶データはおしまいね」
「・・・」
「レオ、大丈夫?」
「俺が人を殺していた?」
「あれはあなたがやったんじゃない!もみ合いになった勢いで発砲してしまっただけ」
自身の記憶データを見たレオはその時の記憶が完全に甦り、当時の出来事に大きなショックを受ける。
「あれは仕方なかった。そうでしょ?レオ」
「でも、撃ったのは俺だ。間違いない」
そう言うと、レオは苦しそうな表情を浮かべてソファーに倒れ込む。あまりに強いストレスを感じて、意識が保てなくなり、気絶してしまったようだ。
「これは酷いですね」
「そうね。レオはたまたま目撃してしまっただけなのに」
「病院で平気で殺しをするなんて・・・」
「BF Technology社は己の利益のためなら手段を選ばないってことがよくわかったわ」
BF Technology社元社員のジョンソンは気絶したレオの頭に濡れたタオルを当て、彼の介抱をする。
「グリーンさんも大変だったんですね」
「彼はカーター博士の殺害現場を目撃したことで記憶データを削除されたのね」
「彼は罪に問われるのでしょうか?」
「大丈夫よ。たとえ罪に問われることがあっても私が全力がカバーする」
「それなら安心です」
ジョンソンはレオが正当防衛だったことを知らされホッとすると、テーブルに置かれた紅茶を一口飲む。記憶データとは言え、本物の殺害シーンを見てしまったのだ。彼女の受けたショックも計り知れない。
「カーター博士はこの日、病院で何をしてたの?」
「さぁ、それは私にもわかりません」
「そう・・・」
「ただ、病院には以前からよく通っていて、取り付け手術をした人たちの様子をチェックしていたようです」
「それは不具合とかを見るため?」
「おそらく。医師たちにもそれぞれの患者の様子を聞いていたようですし」
カーター博士は当日もセンスの取り付け手術を受けた人たちの様子を見に病院へ足を運んでいたと思われ、その中でBF Technology社の手の者に殺されてしまったようだ。
「カーター博士は患者に直接会うことはあったの?」
「あったと思います。でも、グリーンさんが博士に会ったかどうかはわかりません」
「そうね。レオは博士に会ったなんて言ってなかったし、会ってない可能性の方が高そうね」
レオはデジャヴから甦った記憶の中でカーター博士を見ても彼が誰なのかはわかっていなかった。そのため、彼は博士のことを知らなかったと見るのが妥当だ。
「とりあえずレオの意識が戻ったら聞いてみましょ」
「記憶データの中には他に何もないんですか?」
「ないわね。さっき見たヤツだけみたい」
BF Technology社に保管されていたレオの記憶データはカーター博士殺害時のものしかなく、それ以外はとくに何もなかった。だが、ここでジョンソンは何かに気付いたのか、PCが置かれたデスク周りを調べはじめる。
「どうしたの?」
「レオさん、センスの取り外し手術を受ける前、それまでの記憶データを外部メモリへ入れたんですよね?」
「そうよ」
「なら、彼のその他の記憶データを見てみましょう」
ジョンソンは外部メモリへ入れたレオの記憶データを見るため、メモリをPCへ繋ぎ、彼が取り付け手術を受けた当時の映像を一通り確認してみる。だが、そこには普通の入院生活が映っていただけで、とくに新しい情報は何も得られなかった。
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