第9話 記者の男
「んっ」
レオは目を覚ますと、自身が気を失っていたことを思い出す。ダルそうに体を起こした彼はテーブルにあった飲み物を手に取り、それを一気に飲み干した。
(頭が痛いな)
飲み終えた彼は頭が痛いのか後頭部を右手でさする。隣のソファーではルナが寝息を立てていた。
(あれからどれぐらい経ったんだ?)
レオはソファーから立ち上がると、リアムが伏せているPCデスクに向かい、時間を確認する。
(もう何時間も経ったのか)
背伸びをしながらふとPC画面に目をやると、知らない人物が。どうやらルナとリアムであのあとも調べ物をしていたらしい。
(誰だこれ)
レオが画面に顔を近づけると、リアムが座っている椅子を揺らしてしまい、彼が目を覚ます。
「悪い、起こしちゃったな」
「レオか、体調は?」
「少し頭が痛いけど大丈夫だ」
「それはよかった。お前が気を失ってからもルナと調べ物をしてたんだ」
「こいつか?」
「あぁ」
リアムが言うにはこの人物は出版社の記者。名前はローガン・トーマスといい、過去に何度かBF Technology社やセンスについての記事を書いている。
「こいつならセンスについて何か知ってるかもしれない」
「そうだな、俺の記憶につながるようなこともわかるかも」
二人の声が聞こえたのかルナも目を覚ます。ソファーから体を起こした彼女は静かにタバコに火をつけ、テーブルの上の飲み物を一口飲んだ。
「その人に会いに行きましょ」
突然後ろから聞こえる声にレオとリアムが振り返る。
「起きてたのか?」
「たった今ね」
「その記者もおそらくセンスの闇を暴こうとしてる」
「そうだな、過去に何度か記事を書いてるなら有力な情報を持ってるはずだ」
「危険を承知で記事を書いてるんだから必ず力になってくれるはずよ」
そう言うと、ルナはスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。どうやら相手はこの記者が働いている出版社のようだ。ルナが電話が切ると「行きましょ」と言い、レオを外へと誘う。二人は車に乗り込むと、ローガン・トーマスが待っている駐車場まで足を運んだ。
「トーマスさん?」
「ローガン・トーマスです。よろしく」
「私が刑事のルナ・クラーク。こっちは協力いただいているレオナルド・グリーンさんです」
「よろしく」
ここは市内にある立体駐車場の屋上。誰にも聞かれたくない話をするにはもってこいの場所だ。
「で、さっそくなんですけど、トーマスさん。あなたは何を知ってますか?」
「センスは完全な欠陥品だ。それをわかってBF Technology社はサービスを開始した」
「えぇ、私もそうだと思います」
「BF Technology社は政府や警察関係者など、さまざま国の機関の上層部に賄賂も贈っている」
「そうすればセンスに欠陥があったとしても問題なくサービスを開始できる・・・」
「それだけじゃない。あいつらはセンスに問題があった場合、もみ消すこともしている。それは許されることではない」
「同感です」
記者の男とルナは互いにセンスの闇を探っていることを確認し合うと握手を交わす。どうやら二人は意気投合したようだ。
「あとこれは最近わかったことなんだが・・・」
「なんです?」
「センスの記憶データを削除すると、脳内にある記憶も消せるようだ」
「!?」
レオとルナはその言葉ですぐに悟った。彼がデジャヴを感じた記憶はおそらく記憶データを消されたからだと。そして、消したのは間違いなくBF Technology社だ。
「じつは俺も記憶が無いんです」
「それはどういうことだ?」
レオは記者の男に自身が経験したデジャヴや記憶データに無い記憶があることを話した。
「なんてことだ・・・」
「これは事実です、トーマスさん」
「ということは君の記憶データに無い記憶は間違いなく、BF Technology社によって消さねばならないものだったんだ・・・」
「実際、彼は人が撃たれているところを目撃しています」
「そうか、君は見ちゃいけないものを見たんだね」
「そうかもしれません」
レオの告白は記者の男にとっては衝撃的なもので、彼の書く記事にも役立つ情報だった。
「今はまだ君のことは記事にできない」
「危険だからですか?」
「そうだ。だが、すべての証拠が揃い、センスの闇を報じるときには今の話を書かせてもらうよ」
レオと記者の男は握手を交わすと、互いに協力し合うことを改めて約束する。
「ちなみに撃たれていたのは誰なんだ?」
「それはBF Technology社のジェイコブ・カーターという博士です」
「それは本当か?ジェイコブが?」
「知ってるんですか?」
「あぁ、ジェイコブは俺の長年の友人だった」
「今は行方不明になっています」
「そうだろうな。もう何年もあっていないから・・・」
「もしかすると、まだ生きているかもしれません」
「そうか・・・。でも、あまり期待はしないようにしよう」
記者の男は撃たれた博士の知り合いだった。
彼はショックを隠し切れない様子で、静かに涙を流した。
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