第3話 二つの依頼書

 「こんなもんかな」


 対象の薬草は依頼主が修道院ということもあり、ヒソプと呼ばれる治癒効果を持つ薬草だった。

 布製の袋はもういっぱいで、さすがにこれ以上は入りきりそうになかった。

 

 「で、問題はつぎだよね……」

 

 ギュッと握りしめたレッドキャップ討伐の依頼書。

 場所がすぐ近くの鉱山なことは既に把握済み。

 と言うよりかは、薬草採集の依頼を快諾したのはそれが理由だった。


 「誰かに見られなければ問題ないよね……?」


 正体を隠す気はないけど、あくまでも普通の十二歳の冒険者で通しておいた方が何かと好都合な気がした。

 依頼書がギルドにあったってことは、他の冒険者が受託した依頼では無さそうだ。

 そんな考えが、背中を押した。

 レッドキャップの巣食ったカダラッシュの鉱山までは総距離はない。

 今日中には戻れそうだという予測を立てて北を目指して飛べば、目的地にはすぐ到着した。


 「助けてくれぇぇぇッ!!」

 「レッドキャップがいるなんて聞いてねぇ!!」


 逃げるように山道を駆け下る四人パーティがいた。


 「先客……なのかな?」


 冒険者たちの暗黙のルールで、万が一ひ他のパーティと依頼が被った際は先着パーティに優先権があるのだという。

 だが先客パーティと思しき彼らは、逃げている真っ最中だった。

 ひとまず話を聞こうかな……。

 重力を操作して彼らの元へと降下した。

 それと同時に【同化マージ】の魔法を解除して姿を現す。


 「うおっ!?何処から現れた!?」

 「そこの僕、お姉さんたちと一緒に逃げるよ!!」


 彼ら四人の後ろには確かにレッドキャップの気配があった。


 「何があったんですか?」


 戦う前に状況把握をしようと、隣を並走しながらそう尋ねた。

 するとパーティのへ前衛役である『剣士』が教えてくれた。


 「俺たちはロード種のゴブリン討伐の依頼を受けて来たんだ!!それが蓋を開けてみりゃあ、ロードなんでもんじゃねぇ……レッドキャップだったんだよ」


 どうやら四人パーティは誤った情報を掴まされたらしかった。


 「そうですか……多分、それ騙されましたね。僕はレッドキャップの討伐依頼を請け負って来たんです」


 正確には受注申告はしていないが、依頼書を持っている時点で形式的には依頼の受注が成立していた。


 「お前が!?」

 「君が!?」


 四人は目を剥いて尋ねてきた。

 

 「はい。なのであなたたちは安全圏へと退避していてください」


 追放されたとき、宝物庫から魔杖を持ち出すことは出来なかったが、魔杖なしでもレッドキャップは討伐した経験がある。


 「悪いことは言わねぇ、俺たちと逃げろ!!」

 「そうよ、君みたいな子供には無理だわ!!」


 世間一般の十二歳の実力ではそうかもしれない。

 でも僕には、攻撃力に優れた闇属性の魔法がある。


 「これでもですか?」


 練り上げた漆黒くろい魔力が迸りまるで木枯らしのように風が吹く。


 「……任せた」


 『剣士』の男は、僕の肩に手を乗せてそう言うと安全圏へと仲間と共に後退していった。


 「実に二年ぶりかな……?」


 気づけば醜悪な顔のレッドキャップはすぐそこまで迫っていた―――――。

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