第31話 予想外の威力

 そこは湿地帯にある洞窟だった。

 薄暗い森の中にひっそりと佇むその洞窟は、怪しさ満点の雰囲気を漂わせている。なにやら雨が降った後のような雨の匂いが周囲に漂っている。


「ふぇぇ。なんかここ大丈夫?」


「はははっ。この程度で怖がってたら中に入れないよ?」


 奈々はこの雰囲気にあてられて、もう入りたくなさそうに顔をしかめている。


「リザードマンっつうくらいだからトカゲなのか?」


「そうなんじゃないっすか?」


「思ってる通りの感じだと思うよ。一応来る前に真理さんに確認したんだけど、トカゲ人間見たいなモンスターが武器を持ってるみたいだよ?」


 賢人とたけしの疑問に答える。

 一応どんななのか気になったから、聞いてたのが役に立ってよかった。


「僕が前に行くから後ろは猛、頼むね?」


「任せるっす!」


 その後ろには賢人けんとが。

 その後ろには奈々ななが杖を構えている。


 暗いながらも不思議と中が見えるのはコケが光っている様だ。仄かに洞窟の中を照らしてくれている。

 

 少し奥に歩くと壁に松明があり、火がつけられている。人工物がダンジョンにある。ということはそれなりに知能が高いモンスターだということ。密かに気を引き締めたのであった。


「んっ?」


 手を挙げて止まるように指示を出す。

 前方にある曲がり角の炎の明かりに影が横切った気がしたのだ。

 少し待ってみるが何も来ない。

 気のせいだったかと思い、進むことにした。


 まだここまで一本道だ。

 曲がり角を曲がると三通りの分かれ道になっていた。


「なんだこりゃ!? どこに行きゃいいか分かんねぇじゃねぇか!」


 賢人が声を上げる。

 僕は横にあった松明を持ち上げるとそれぞれの道に向けて松明を差し出す。


 左はなんにも起きない。

 真ん中も何も起きない。

 右に再度した時、炎が吸い込まれたのだ。


「なっ!?」

「なんすか!?」


 賢人と猛が驚きの声を上げた。

 そうだよね。二人は知らないんだもんな。

 ちょっと得意げな気分になる。


「ふふーん。こういう反応が出るということは、この道が外に繋がっているということなんだよ? 諸君!」


 奈々が得意気に胸を張る。


「そ、そうなのか? 収斗?」


「うん。薫ちゃんにこういう時の対処法を教えて貰ったんだ。役に立ったね」


 奈々は賢人が収斗しゅうとに確認したのが不満なようで頬を膨らませている。

 僕が先を促して奥に進む。


 少し開けたところに出た。

 小さな湖の先にまた道が続いている。

 地底湖なんてあるんだなと感心しながら歩いていると奥の通路から突如リザードマンが駆けてきた。


「ギシャシャャャ!」

「ギシャギシャャャ!」


 似たい飛び出してきた。

 腰に差していたナイフを投げる。


「ギシッ!」


 一体の腕に刺さった。

 二体ともそのまま駆けてくる。

 前には猛が陣取る。


「【不動明王ふどうみょうおう】!」


 スキルを発動させる。


 ────ズガンッ


 二体の行く手を阻む。

 僕はまた無傷の方にナイフを頭目掛けて投げた。

 咄嗟に頭を傾けたが目の上が切れて紫色の血が流れている。


「俺がやる!【首天胴地しゅてんどうじ】」


 目の気づ付いた方のリザードマンは首が胴に別れを告げた。その隣のヤツがまだだ。猛を迂回して向かってくる。


「【火の風!】」


 奈々が魔法を放った時、予想外のことが起きた。


 ────ゴオオォォォォォォ


「あっち!」

「熱いっす!」


 賢人と猛の方まで魔法がいってしまった。


「ご、ごめん!」


 直ぐに魔法の放出をきる。

 炎はやんだがリザードマンは黒焦げになっていた。


「こわっ!」

「なんの恨みっすか!?」


 まくし立てる賢人と猛。

 狼狽えている奈々が可哀想でフォローに入る。


「まぁ、まぁ。奈々。もしかしてさっき貰ったバングルじゃない?」


「……そうかも。それしか考えられない」


「一回とってみて?」


 奈々からバングルを受け取った。

 そしてもう一回魔法を撃ってもらうことに。


「火の風」


 ────ボォォォォ


 先程の比ではないくらい小さな火炎放射だった。


「ちょっとこれつけて出力抑えてみて?」


「う、うん。やってみる」


 少し躊躇いながらも魔法を放つ。


 ────ボボオオオォ


 少しは落ちたけどやっぱり威力が上がってる。


「……凄いね。落としてもこれなの? これはかなり奈々の力が上がったね。ねぇ、もしかして中級とか上級魔法も使えるんじゃない?」


「うん。そうかも。なんか出力が安定してる」


 長年それに苦しめられていた奈々がそういうんだからそうなんだろう。あの少年は何者なんだろうか。凄いものを貰ってしまった。今度あったらなにかお礼をしないとな。


「マジか。じゃあ、ここも楽勝かもな」


「そうっすね! 自分達最強じゃないっすか!?」


「はははっ。そうかもね。僕だけ見劣りしてるけど……」


 賢人、猛はイケイケな雰囲気だけど、やっぱり僕は大したことができてないような気がする。


「収斗は、十分パーティの頭脳としても戦力としても機能してるよ? 暗い顔しないしない~!」


 いつもこんな時、励ましてくれるのは奈々だった。


「収斗が使えなかったら俺なんてゴミだぜ?」


「えっ!? 収斗さんが使えないなんて自分、石ころじゃないっすか!?」


 賢人も猛も冗談を言って笑わせてくれる。

 僕を含めたみんな。それが明鏡止水なんだ。


「はははっ! それは言い過ぎだよ! ありがと! 進もう!」


 僕が守らなきゃ。

 そう心に誓った。

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