第26話

 藤田と諒馬が浴衣で帰ると言ったため、僕も浴衣を着たまま見送ることになった。

 駅の改札口までやって来ると、ちょうど閉めたばかりの有人改札から係員が出てきた。藤田はすかさず駆け寄り、三人の写真を撮ってくれるように頼んだ。

「めちゃくちゃいい写真ですよ」

 係員にお礼を言って戻ってきた藤田が、嬉しそうな表情でスマートフォンの画面を見せてきた。

「あぁ、よく撮れてる」

「いいですねぇ」

「濱本さん、両手に花じゃないですか」

「そうですね」

「自分たちで、花って言うんだな」

 呆れたように言いながらも、藤田と諒馬に挟まれて笑っている写真の中の僕は、まさにそんな状態だと思えるのだった。

「後で二人にも送りますね」

「あぁ、よろしく」

「はい、お願いします」

 諒馬に小さく頷き返してから、藤田は改札の向こうにある電光掲示板に目をやった。二人は反対方向の電車に乗るのだけど、発車時刻は同じだった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「そうですね」

「今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

 藤田に続いて諒馬もうやうやしくお辞儀をしたので、僕は深々と頭を下げ返した。

「じゃあ、気を付けて」

「ホームまでですけど、松尾君のこと、ちゃんと送っていきますので」

「ホームまでって、すぐじゃないですか」

「ちゃんと送ってもらえよ」

「あぁ、はい。ちゃんと送ってもらいます」

 改札を通ってすぐ、そして、ホームへ続くエスカレーターに乗る前に、藤田と諒馬が手を振ってきた。僕は笑いながら応じたのだけど、二人の姿が見えなくなると、緩んでいた頬に微かな違和感を覚えた。

 十二月には藤田が、三月には諒馬が、僕の前からいなくなってしまう。

 そう遠くない未来に続けて訪れる、大切な存在である二人との別れに、精神的に耐えられるのだろうか、そんな不安が僕の心を占めてくるのだった。

 ホームから上がってきて改札を出てくる人たちをやり過ごすことにし、僕は壁際に移動した。浴衣姿に恥ずかしさを覚え、伏し目がちに立っていると、和柄のショルダーバッグから振動が伝わってきたので、スマートフォンを取り出し、藤田から届いていたメールを開いた。


 ここに写る三人の一人になれたことを、僕はすごく嬉しく思ってます。


 添えられていた一文を読んで、僕もすごく嬉しく思ったのだけど、すぐに何だか寂しい気持ちになり、やがてじんわりと目が潤んでくるのを感じた。

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