第3話
翌日、僕はいつもの日曜日と同じように、近くのスーパーで買い物をしてきた帰り、という体裁で、営業終了時間の約三十分後に、『ラウレア』の前を通りかかった。
「あっ」
目が合って先に声を上げたのは、開けたままの自動ドアから出てきた松尾だった。
「あぁ……」
「こんばんは」
「こんばんは」
「買い物帰り、ですか?」
「あぁ、まぁ……」
こんなときに限って、何も買わずにスーパーから出ていた僕は、ビニール袋を提げていなかった。
「いや、買い物はしてないです」
「えっ?」
僕がきっぱりと言い切ったせいなのか、松尾はきょとんとした顔を見せた。
「あぁ……、閉店作業、ですか?」
「あぁ、はい。今日は、僕一人で」
松尾は手にしていた棒で、ガラスウォール前のシャッターを引き下ろした。
「えっ、オーナーさんは?」
「息子さんの友達同士の食事会があって、親も参加しなきゃならないみたいで」
「あぁ、息子さんの……」
「あの……、今、時間ありますか?」
「えっ? あぁ、ありますけど……」
「濱本さんに、ちょっと、話したいことがありまして……」
松尾の神妙な面持ちに、結婚の報告をするのだろうとすぐに察しがついた。
「あぁ、分かりました」
僕はそう答えながらも、そのためにわざわざ引き止める理由が分からなかった。
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