九話 強襲

 ザクザクと生い茂る草をかき分けて一同は進む。


 その間も獣の痕跡や獣道を探しながら慎重に進む。


 幸いこのあたりはいつも狩班が歩いている道だから安全なはずだ。


 だが、いくら歩いても魔物は見つからない。

 そうして時間だけが過ぎていく。


 思っていたよりも遠くまで来てしまって、辛うじて村への帰り方が分かるぐらいだ。


 「居ないね魔物」


 いつものニーナは鳴りをひそめ、小さな声でそう呟く。


 当たり前だ、さっき狩班が戻ったのだ。


 魔物がいたら討伐されるか村に連絡が届くはずだ。


 「このあたりは何もいないようだな。」


 悔しそうに言いながらもその心の中は喜びが渦巻いていた。


 これで村に帰る口実が出来た。

 もう帰ろうと言いかけたその時、


カサッ!3人の視線が一斉に音の出どころを探る。


 白いウサギがこちらを見ていた。

 良く村のちょっとしたご馳走で出されるジャンピングラビットだった。


 鼻をピスピスと鳴らしてこちらを見つめている。


 この魔物は村の辺りで1番弱い魔物だ。

 

 「ねえバル、私たちがジャンピングラビットを狩れば村のお見上げにできるじゃない。

 これで私たちも一人前の大人よ!」


 ニーナが小声で話しかけてくる。

 ジャンピングラビットは会話の内容がわかっているに森の方へと駆けて行った。


 「追うぞ!」


 急いでウサギが行った道を辿る。


 あの魔物は足は早いがこちらを攻撃できるほどの力は持ち合わせていない。


 うさぎの耳が草と草の間から見え隠れしていた。

 幸い自分たちは風下にいるから匂いで気づかれることはないはずだ。


 ジリジリと距離を詰める。

 バル自身が行っても逃げられる可能性もあるからカーラに魔法の準備を指示するハンドサインを送る。


 森に入る前に一通りのサインは決めてきたのだ。


 後ろから魔力を集める時特有のオーラが感じられる。


 カーラが勢いよく立ち上がり、


「《魔力弾マナミサイル》!」


 カーラの詠唱の後に頭の上を魔力の塊が飛来する。


「ピギー!」


 甲高い断末魔が聞こえた。


 バルはおもむろに立ち上がり、獲物の方に歩み寄る。


 予想通り、ジャンピングラビットは死んでいた。

 

 「よしっ!死んでるぞ。すぐに血抜きして村に帰るぞ!」


 ジャンピングラビットを追って森の深くまで入ってしまった。

 まだここはゴブリンの領域だがこんな所まで来たことがない。


 早く道に迷う前に帰ろう。


 うさぎの耳を掴みその首に刃を入れようとしーーウサギが光の粒に変わり空中に霧散する。


 あまりのことに頭が真っ白になるその時、風に乗って声が聞こえてきた。


 「《呪詛の宝珠カースドオーブ》」


 突如現れた何かが迫ってくる。


 体が硬直して言うことを聞かない。


バァン‼︎


 黒と紫色を混ぜたような色の何かが目の前で炸裂する。


 ピロリン『呪いにかかりました。』


「がっ!」


 視界が漆黒に染まる。


 次にすごい衝撃が体を襲う。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 あまりの痛みになにも考えられない

 「バルっ!」


 誰かの声が聞こえる、しかし思い出せない。

その声はどこか遠くから聞こえる様な気もするし、すぐ間近で聞こえたような………


 「はあぁ!《軽治癒ライトキュア》!」


 温かい何かが身体中を撫でまわし、痛みを拭い去ってゆく。


 やっと意識が正常とは言い難いが立てるぐらいには回復する。


 ニーナが回復魔法を使ったのだろう。


 顔を上げると大きな何かがニーナの方に向かって高速で移動している。


 「ニーナに近寄るな‼︎《魔力弾マナミサイル》」


 カーラが大きな何かに向かって魔法を発動させる。


「《火炎槍ファイアースピア》」


 何かは、聞いたことの無い魔法を使いカーラの魔法を相殺する。


 呪いの効果が薄くなったのか、視狭くなった視界が広がる。


 その何かはトカゲを二足歩行させた様な立ち姿で、森の奥深くの湿地帯にいるリザードマンの様だった。


 聞いた話と違う所は胸に剣が突き刺さっているのと、鎧の様な純白の殻に身を包んでいるところである。


 リザードマンはカーラの横を通り過ぎ、ニーナに接近する。


 そして、


 「《呪夜の刃カオスナイトブレード》」


 また聞いたことの無い魔法だった。


 その禍々しい霧を纏った漆黒の剣はニーナを切り裂いた。

 森中に幼いゴブリンの悲痛な叫び声が響き渡る。


 目の前が真っ赤に染まる。


 「よくもニーナをっ!」


 剣を力一杯握りリザードマンに振り下ろす。

鋼の剣と黒の剣が接触し、大きな音を立てる。

 

 力はリザードマンの方が強かった。

 剣を包む黒いオーラがバルの体を蝕んでいく。


 信じられないような痛みなのだろうが、自分の中の何かが外れて痛みをほとんど感じない。


 それは体がおかしくなっているからなのか、リザードマンへの怒りなのか。


 ニーナを傷つけさせまいと言う思いからなのかは分からない。

 今はただ死に物狂いで剣を振い続ける。


 しかし、その拮抗も長くは続かない。


 剣がギシギシと嫌な音を立てる。


 キャリーン!!

 

 最後に一際いい音色を立てて霧散した。リザードマンのお返しと言わんばかりの横なぎの剣はバルの腹を切り裂き、鮮血を辺りにぶち撒ける。


 まだ終われない…終わるものか!


 剣がないなら拳と足で撲殺する。


 切り飛ばされたら歯で噛み殺してやる!


 そんな強い意志とは裏腹に呪いがじわじわと嬲るように意識を奪い取って行く。


 バルは叱咤する。


「ーた……誓っ…た……こいつらを守ると、誓ったんだああああ!」


 ピロリン『【根性】を習得しました』


 持てる力を全て振り絞り、膝をつけと囁き続ける呪いを無理矢理跳ね除ける。


 一歩歩くたびに頭を直接掻きむしられている様だ。

 鼻や耳からは血が吹き出し、目も自分の血で半分も見えない。


 リザードマンも驚愕してるような気がする。


「がぁぁぁぁ!」


 獣の様な声を上げ、リザードマンの顔を渾身の力で殴りつけた。


 とどめを刺そうと一歩前に出るーーー地面が浮き上がる。


 そしてせり上がった地面が体に張り付き、身動きが取れない。


 バルは自分が今どうなっているかもわからないうちに目の前が真っ暗になった…



用語説明、

HP=体力 MP=魔力量 

STR=物理攻撃力 INT=魔法攻撃力 

DEF=防御力 AGI=素早さ



 この小説では魔法は《》、スキルは【】を使って表しています。

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