03.攻略
ヒロインの娘は、いつの間にか私の側近候補たちに取り入って、彼らに囲まれて我が世の春を謳歌していた。
メガネをかけたクールキャラの宰相の子息も、爽やか脳筋の騎士団長の子息も、ふんわり子犬系癒やしキャラの商会頭の子息も、陰気で人見知りの激しいコミュ障キャラの魔術師団長の子息でさえも、ヒロインの周りに侍って楽しそうにしている。
いや待て、これはマズいぞ。
そしてハーレムルートのエンドでは誰と結婚してもヒロインにはハッピーエンドだが、何となく確信に近い予感がある。あの子の狙いは私だと。
だが待てよ。ひと呼吸おいて考えた。
私の目指す悪役令嬢ルートは、
そうした方が、悪役令嬢ルートの解放には近道になるかも知れない。
一か八かの危険な賭けにはなるが、試してみる価値はあるだろう。自分が
だが万が一ということもある。自分を見失わないよう、これからは日記をつけておこう。もしもシナリオの強制力に流されてしまっても、見返して正気に戻れるように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからは、アニメやゲームで見たままの
元が日本で発売されたゲームだから、クリスマスやバレンタインといったイベントももちろんある。なんで異世界なのにそんなものがあるのかは割とうやむやだったし、今生きているこの世界でも人々は何となく受け入れている。ちなみにこのふたつは好感度アップイベントだ。ヒロインはその時に一番好感度が高い攻略対象者からクリスマスにデートに誘われ、バレンタインには好感度を上げたい攻略対象者にチョコを渡す。
一年時と二年時はヒロインは私にチョコを渡してきた。まあそりゃそうだろう、私が一番あの子と距離を置いていたんだから。クリスマスのほうは、あの子は一年時には宰相子息と、二年時には商会頭子息とデートしていた。
ついでに言えば武術大会は二年とも私と騎士団長子息との決勝戦で、私はどちらも彼に負けた。ここは優勝者が好感度アップするので勝つと微妙なことになる。ただまあ、負けたのは実力だ。彼はさすがに騎士の息子だった。
二年時の途中から、愛しの婚約者に関する噂がちらほら流れ始めた。彼女はすっかりアニメやゲームでおなじみの姿になっていて、それに憧れた大勢の取り巻きたちに囲まれるようになっていた。もちろん凛として堂々と、
その彼女が、裏では気に食わない令嬢たちを虐めている、という。確かに何かと至らない令嬢たちに彼女が口頭で注意をしていたのは何度か見たことがあるが、いずれもたしなめる程度で、言われるほど酷い言葉は浴びせていなかった。
だが、これはゲームのシナリオ通りの展開なのだ。噂はだんだんエスカレートして、最終的に彼女がヒロインを学園のエントランスホールの大階段から突き落とした、というところまで発展する。
王子ルートだと、その場に私が居合わせる事になる。そして階段下で蹲るヒロインを抱き上げて医務室へ運び、その翌月の卒業記念パーティーで婚約者の彼女に婚約破棄を突きつけ断罪するのだ。
もちろん、そこまでヒロインの攻略に付き合ってやる義理はない。だから密かに付き従う“影”たちに、噂の真偽の確認と、悪意ある捏造であればその証拠を集めること、それにその裏に何かしらの陰謀があればそれも調べておくように命じておいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちは全員揃って三年に上がった。攻略対象者の5人はもちろん、ヒロインも婚約者も。ヒロインは入学から2年経ってもまだ貴族令嬢として至らない面ばかりで、努力の跡は伺えるものの、結局のところ貴族としては
だがそんな彼女の周りに私の側近候補たちは常に侍るようになっていた。私と彼らとは二年時の途中から生徒会に入っていたため、ヒロインも当たり前のように生徒会室に入り浸る。
そして婚約者はといえば、王子妃教育が進んできていて生徒会活動の時間が取れないということで、生徒会には入らなかった。私は会長に選出された際に彼女を副会長に推したのだが、本人から申し訳なさそうに断られた。
うん、まあ、ゲーム通りだな。
ゲームシナリオのままなのは、ちょっと不味いのだが。
ヒロインはよく差し入れを生徒会室に持ってくる。それはクッキーやビスケットなどの手作り菓子が多かったが、時々は王都の有名店で買ってくることもあった。王族たるもの本当は毒味もなしに飲食してはならないのだが、学園に在籍している間は皆と同じく学食も使っているし、その時には毒味なんて立てないのだからヒロインの差し入れも断り難かった。
だから、側近たちにも勧められるまま、いくつかは口にした。
必然的にというか、婚約者との時間は減りヒロインとの時間が増える。生徒会室への出入りを禁じたかったが、建前として生徒は誰でも訪れてよい事になっているため、それも難しかった。
「殿下、差し入れです。良かったら……」
「ああ、いただこう」
「お味はどうですか?」
「うん、美味い。また腕を上げたんじゃないか?」
いやお世辞抜きで本当に美味い。
婚約者との定例のお茶会も、互いの時間が合わずに流れることも増えていった。私は王子としての公務もこなすようになっていたし、彼女の方は王子妃教育が佳境に入っていた。
だから仕方ない。自分にそう言い聞かせて、いつしかそれが当たり前になっていた。
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