イリーナさんは断酒します。

 泡を吹いた芸人は、解毒剤を即投与されたことや、ホプキンス家の腕の良いお抱え医師の適切な治療。本人のタフさなどのおかげで一命を取り留めた。




「ああ、こいつ知り合いでね。そう、糖尿。だからそう、インスリンをね?」Sはてきとうな説明をする。


周りの人間もホッとしていた。食生活がボロボロの上流階級にとって生活習慣病で倒れることはそれほど珍しいことではなかったからだ。




「よかったです。給仕殿?此度の働きは見事でした。お礼として今後の処遇の向上をお約束します。まあ、細かいことはお父様次第ですけれど。」エレノアは笑顔で言った。




・・・・・・・・・・・・・・・




誕生パーティーはそれから何事もなく終わったらしい。結局殺害予告もなにかの悪戯だろうということでカタがついた。


らしい。




私はその時外の柱の前で生垣に頭を突っ込んで寝ていたらしいので知らない。


当然レオンとマグネスにアホみたいに怒られたし、エレノアにも呆れられた。


そうして私は断酒を誓ったのであった。


そのあとちゃんとエレノアの誕生日を祝い、プレゼントのアクセサリーを渡した。そんなに高いものではないが、エレノアは喜んでいた。




そして一泊し帰ることになった。


「頭痛い…」


「二日酔いか?水飲むといいぞ?」マグネスが棺桶から茶色い瓶を取り出す。


「それいつの水よ…」


「忘れた。いるか?」


「いらないわよ!」




「エレノアさん、じゃあ、僕たちは帰りますね。また迷宮都市に用事があったらいつでも来てくださいね。」レオンが言う。


エレノアも嬉しそうにまた行くと言っていた。




「では帰るか。」マグネスが棺桶を担ぐ。


「そうね。」


「そうですね。」私たち3人は屋敷に背を向けて歩き出す。




「あっ、待って。」私は振り向いてエレノアに駆け寄る。


「なんですか?」エレノアは驚く。


「ごめん。大事なこと言い忘れてた。」私はエレノアの目を見つめる。


イリーナは顔だけは良いのでこのようなシチュエーションは絵になる。




「あのさ…」


「な、なんですか?」エレノアはドキドキする。




「蜂蜜酒、何本か貰っていいかな?」


「ダメです。」エレノアに即答される。




「はーい、行きますよ酒クズ女!肝臓までは硬化させないでくださいね。」いつになく辛辣なレオンに引きずられ送迎用の馬車に放り込まれる。


「またね〜。」私は観念して笑顔で手を振る。




エレノアはピョンピョンと飛び跳ねながら私たちの馬車が見えなくなるまで手を振っていた。




・・・・・・・・・・・・


「結構もらえるな。」


「ああ、こっちの方が待遇がいいな。」


あれから色々あって、暗殺者のNとSはホプキンス家に仕えることとなった。


暗殺には失敗したが、結果的に前より良い待遇で迎え入れられたので二人はご機嫌である。


「いいね。転職も成功したし祝いに一杯どうだ?」Sが嬉しそうに言う。


「しねえよ馬鹿。」NはSの背中を小突きながら笑った。




ブラッディバースデー編 完


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