第31話 リーベルスの憂悶
ラティーファも私たち旅に同行することになった。
東の果て、セルリカに行ってみたいんだってさ。
気持ちはわかるよ。私だっていってみたいもん。だからこそ一年もかかる行程に飛び込んだんだ。
いっぱい見聞を広げて、商売や人生の糧にしたいじゃん。
「義姉さんの翼にはフィルスバートは狭すぎるってことだよな」
きしししと笑うオリバーをていって小突いておく。
人を風来坊みたいにいうんじゃあれません。
それに、オリバーだって物見遊山の旅じゃないのだ。たくさん勉強しないといけない。
マコロン商会を代表していくんだからね。
「青磁とかもいいんだけど、俺としては剣を仕入れたいんだよな。ホウニの」
「オリバーも鬼切に魅入られたクチ? サラみたいに」
「あれは美術品としても売れる。義姉さんはそう思わなかったか?」
「思ったわよ。当然でしょ」
傭兵のサラは剣士として鬼切の価値を見た。私は美術品としての美しさを見た。
この二つって、わりと両立しないのである。
武器として優れていても、家に飾って映えるもんじゃないってのはいくらでもある話。その逆もね。
その意味で鬼切ってのは両方を兼ね備えた希有な剣だ。
「そしてナマクラカタナだって、美しさだけはすごかった」
「なある、美術品に特化したカタナね。そこに目をつけたか、義弟よ」
慧眼だ。
貴族に売るなら、その考えで大正解。
よしよしと頭をなでてやる。
子供扱いすんじゃねーと手を払いのけられた。
お姉ちゃんさみしい。
旅の仲間にラティーファ一行を加え、私たちはひたすら東を目指す。
タザラント公国を越え、ダガン帝国を抜け、ミッドガルドに至ってようやく旅の半ばだ。
フィルスバートを出発して半年。
私もオリバーも、ちょっと日に焼けてたくましくなった気がする。
「だからって前線に出ちゃダメよ。てんで弱っちいんだから」
「わかってるよう」
アウィにたしなめられ、むうとオリバーが唇をとがらす。
こないだモンスターの一団に襲撃されたとき、こやつも戦いたがって前に出たのだ。
で、アウィや他の傭兵、ラティーファ一行の小僧たちの足を引っ張りまくっていたのである。
ああそうだ、ラティーファの配下たちって小間使いであることには間違いないけど、護衛も兼ねてるんだってさ。
アウィやムーランと比較したら三段も四段もおちるけどね。
これは比べるのが間違い。
こやつらは別格すぎる。
「あんまり無茶するなら、あげた短剣かえしてもらうからね?」
「そ、それだけはご勘弁!」
じゃれあってる。
なかよしだなぁ。
ちなみにオリバーの使ってるショートソードは、まえにアウィが使っていたもの。
金烏と玉兎っていう魔法の剣を手に入れたから、お下がりをもらったのである。
オリバーと私、一振りずつね。
マジックアイテムにはもちろん及ばないがかなりの業物で、私はともかくオリバーすごく気に入っているらしい。
私の方は、「アリアの武器は剣じゃないね」なんてメイコンに言われたくらいなので、二束三文の安物だろうが銘の入った業物だろうが一緒だ。飾り以上の意味はないっていう点でね。
「賊に襲われたときアリアが剣を持っているなら、それを味方に渡して代わりに戦ってもらえ。自分で戦おうとするな。お前が適当に振り回したら味方まで怪我をしてしまう」
とは、黒髪剣士のムーランの台詞である。
東方人は容赦ない。
泣いちゃうぞ? おもに私が。
「水が。それは困りましたね」
その東方人のリーダーは、立ち寄った村の長からの相談を受けている。
ミッドガルド王国の王都から東に七日ほどの距離にあるリーベルスという村だ。
二千人ほどの人口がいるっていうから、なかなかの規模だね。
で、リーベルスでは問題を抱えていて、井戸が枯渇しそうなんだってさ。
すごい大問題だ。
私たちは主街道を使って旅をしてるって話は前にしたと思う。枝道や抜け道ではなくね。
人里離れた寒村ではなく、人々が往来する街道沿いの村で水が枯れたら、そのあたりを移動している行商人たちだって大弱りだ。
「新しい井戸を掘るしかありませんが、資金も人も不足しておりまして」
老齢の村長さんも弱り切った顔だね。
井戸を掘るってのは簡単な話じゃない。
ます、水脈が見つかるまで試掘を繰り替えしないといけないんだよね。当たり前だけど、ハズレだったらお金も人手も無駄遣いってこと。
この時点で、事業としてはだいぶ頭が痛い。
せめて一発で水脈が判れば、井戸を掘ることくらい、この
なにしろ、屈強な男たちだけで五十人以上いるからさ。
でも何回も試掘するのにまでは、さすがに手伝えない。
先を急いでいるわけではないけれど、無限の時間があるわけではもっとないからね。
「いや、アリア? なんで試掘を何回もする必要があるんだい?」
半年ほど寝食をともにし、すっかり仲良くなったラティーファが小首をかしげた。
心底不思議そうに。
「何回もするから試し掘りっていうんじゃない。ラティ」
「それはそうだが、たいていは一発で当たるだろ? ダウジングすれば」
おいおい。
またぞろ知らない言葉が出てきたぞ?
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