第11話(3)物理的なオタ
「シズカ、大丈夫だっぺか……」
「だから……」
「分かっているっぺ、信じろだっぺ?」
「そうだ」
ティッペの言葉に俺は頷く。
「まあ、【憑依】は比較的戦闘向きなスキルではあるっぺが……」
「……魔王の居城には近づいているんだろうな?」
「ああ、それは間違いないっぺ!」
「それならいいのだが……」
「おらあっ!」
「む⁉」
砕けた大岩の破片がこちらに向かって勢いよく飛んできたので、俺は馬車を操作して、それをなんとかかわす。
「ちっ、かわしやがったか……まあ、それくらいでくたばっちゃあ面白くねえ……」
褐色の屈強な肉体に、コーンロウの髪型が印象的な男がゆっくりと近づいてくる。
「『エンヴィーのディオン』!」
「こないだは世話になったな、英雄気取り……」
「ちっ、やはり待ち伏せされているか……」
「ちっ、って、こっちが舌打ちしたい気分だぜ……」
「なに?」
俺は首を傾げる。ディオンが声を上げる。
「俺がゴブリンどもばっか従えてんのに、てめえは一体何人女侍らせてんだよ!」
「……は?」
「は?じゃねえよ! ムカつく野郎だな!」
「……別に侍らせているわけじゃない。互いに力を合わせているだけだ」
「そういう台詞が腹立つんだよ! 女どもはともかく、てめえはここで始末する!」
「やるしかないか……」
「栄光さま、お待ち下さい……ここは拙者にお任せを」
「青輪さん、しかし……」
「拙者を信じて下さい!」
「分かりました……無理はしないで下さい! はっ!」
俺は青輪さんを馬車から下ろし、先を急ぐ。ディオンが叫ぶ。
「逃がすと思ってんのか!」
「見苦しいにもほどがありますよ!」
「! ああん?」
ディオンの動きが止まる。俺たちはその場から離れることが出来た。
「ふっ……こんな見え透いた挑発に引っかかるとは……」
「ああっ! 英雄気取りを逃がしちまった! てめえは誰だよ!」
「拙者ですか?」
「他に誰がいんだよ!」
「拙者は栄光優さまのトップオタ! 青輪楽です!」
楽は笑みを浮かべる。
「あん? なんだそりゃ?」
ディオンが首を捻る。
「な、なんだそりゃって……」
「トップってことは……お前があいつの愛人一号ってことか」
「あ、愛人⁉ そんなふしだらな関係ではありません! い、いや、でも、栄光さまがお相手ならば……そういう爛れた関係もやぶさかではないというか……」
「……そんなわけはねえわな」
「はあっ⁉」
「チラッと見ただけだが、他にももっといい女がいそうだ、てめえは雑用かなんかだろう?」
「ざ、雑用⁉」
「見逃してやるから、俺の気が変わらない内にさっさと失せな……」
ディオンがしっしと手を振って、馬車が去った方に振り返る。
「ちょっと待ちなさい!」
「あん?」
「栄光さまの後は追わせません! 何故なら貴方はここで拙者に倒されるからです!」
「……笑えない冗談を言う女だぜ」
ディオンが再び楽の方に向き直る。
「冗談ではありません!」
「じゃあ、本気で俺を倒すつもりか?」
「無論です!」
「はっ!」
ディオンが大げさに両手を広げ、呆れた顔つきで空を見上げる。
「な、なんですか⁉」
「……俺はよ、馬鹿な女は嫌いじゃねえんだが、イカレた女はごめんだ」
「だ、誰がイカレた女ですか⁉」
「てめえだよ。それ以外にいねえだろうが。他の連中のスキルは一応目を通したが、てめえのスキルだけは意味不明だ」
「い、意味不明⁉」
「ああ、なんだかよくわからねえ……不気味と言ってもいいな」
「ぶ、不気味……」
「普通は様子見をするんだが、こちらにも時間がねえ……一気に終わらせる!」
ディオンのただでさえ太い腕と脚がさらに太くなる。楽が困惑する。
「【物理強化】スキル! だが、前もって確認した時より、筋肉量などがえぐいような……」
「よく見ているじゃねえか、前回不覚を取ってから、スキルに磨きをかけてきたからな!」
「な、なんと!」
「俺のパンチ一振りで、てめえの体中の骨がバキボキ折れてもおかしくねえんだぜ?」
ディオンがこれ見よがしに力こぶをつくる。楽がそれを見つめる。
「……」
「へっ、ビビって声も出ねえか……ん?」
楽がディオンの体を見ながら何やらブツブツと呟く。
「あの……、動きが……」
「おいおい……」
「……ある程度……、さらに……し……」
「おいおいおい……」
「そこに……ば、……可能性はある!」
「さっきからなにをブツブツと呟いてやがる! 可能性はある!だあ? 万に一つも可能性はねえよ! ここでぶっつぶされて終わりだ!」
「……やってみないと分かりません」
「言ってくれるじゃねえか! 後悔しても知らねえぞ! おらあっ! ……なに⁉」
ディオンの放つ大ぶりなパンチを楽はかわす。ディオンは戸惑う。
「あの巨体、動きがかなり鈍る」
「くそ!」
「攻撃パターンもある程度予測しやすい、さらにこちらに誘導して迎撃」
「だからそのブツブツ言うの、やめろ! 気持ち悪いな!」
ディオンが再び大ぶりなパンチを繰り出す。
「そこにこれをぶつければ!」
「うおっ⁉ なんだこれは? 金の玉⁉」
ディオンの拳に楽は大きな金の玉をぶつける。
「スキル【推し】からの派生した、金属製の玉、これをぶつければ勝てる可能性はある!」
「わ、わけのわからんことを言ってんじゃねえ!」
「【推し活】ならぬ【押し勝つ】!」
「ぐっ、ぐはあっ……」
金の玉による打撃をもろに喰らったディオンは仰向けに倒れ込む。
「オタク特有の『観察』からの『考察』……攻撃パターンが『分析』・『予想』できました。オタ活……どうしてなかなか馬鹿には出来ませんね」
膝を突いていた楽は笑いながらなんとか立ち上がる。
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