第11話(1)ワンパンかましてよかですか?

                  11


「もうすぐ魔王の居城だっぺ……」


「ああ……」


 ティッペの言葉に俺は頷く。


「心の準備は良いっぺか?」


「今更な質問だな。準備はとっくに出来ている……⁉」


 突然火の玉が馬車の前に降りかかる。俺はかろうじてそれをかわす。


「今度は外さんぞ……」


「そう、今のは脅しですわ!」


「! あいつらは……!」


 金髪のロングヘアーをなびかせた長身の女性と金髪の縦ロールの髪型をした比較的小柄な女性が歩いてこちらに近づいてくる。


「『プライドのシルバ姉妹』だっぺ!」


「……斥候の情報通りだな」


「そうですわね、英雄気取りさん、いつぞやの借りを返して差し上げますわ」


「くっ、待ち伏せされていたか……」


「ここはウチらに任せて。先を急いで」


 瑠璃さんが俺に告げる。


「……大丈夫ですか?」


「この三日間、ただ遊んでいたわけじゃないのよ」


 瑠璃さんが真っすぐな瞳でこちらを見つめてくる。俺は頷く。


「……分かりました。ただ、決して無理だけはしないで下さい。マズいと思ったらすぐに投降して下さいね」


「見るからに傲慢そうだけど、投降して許してくれるかしらね?」


 瑠璃さんがシルバ姉妹を見て笑う。


「皆さんのような珍しいスキル持ちは手駒に加えたいはずです」


「なるほど……そういう考え方も出来るわね。分かったわ! 行くわよ、鶯姉、ロビン!」


 瑠璃さんたちが馬車の荷台から勢いよく飛び降りる。


「はっ!」


 俺は馬車を迂回させつつ、出来る限りの速度を出して走らせる。姉妹の妹、デボラが叫ぶ。


「お姉様! 英雄気取りが逃げますわ!」


「そうはさせん……!」


 姉妹の姉、ローラが右手をかざす。マズい、強風を起こすつもりだ。


「【演奏】!」


「⁉」


 ローラの動きが鈍る。俺たちはその場から離脱することが出来た。


「……無事に逃げられたようね」


 鶯が笑みを浮かべる。ローラが向き直る。


「【演奏】でこちらの動きを鈍らせたか、小癪な真似を……」


「姉妹同士、ウチらと遊びましょうよ……」


 瑠璃たち三人と、シルバ姉妹が向かい合う。デボラが鼻で笑う。


「はっ、貴女たち如きが相手になるとでも思って?」


「傲慢さなら負けないよ! 瑠璃姉はメジャーで最初にヒット曲を出したとき、裏垢で『うはw印税生活確定ww人生楽勝なんだがwww』とか呟いていたんだから!」


「うおい! それは若気の至りだから! 大声で言うな!」


 ロビンの突然の暴露に瑠璃が慌てる。ローラが首を傾げる。


「? 言っている意味が分からんな……?」


「わ、分からなくて良いわよ……」


「お姉様……」


「分かっている、こいつらをさっさと片付けて英雄気取りを追うぞ」


「ええ!」


 ローラの言葉にデボラが頷く。ロビンが苦笑する。


「さっさとって……言ってくれるね~」


「貴様らのこともある程度調べはついている……【演奏】、【歌唱】、【舞踊】の珍しいスキル持ち……ただ、敵にデバフ効果、もしくは味方にバフ効果を付与するのみで、実際の戦闘能力には乏しいと……」


「ある程度っていうか、大体バレちゃってるね」


「ロビン、アンタはちょっと黙ってなさい」


 瑠璃がロビンをたしなめる。


「それには及ばん……三人とも黙らせる……」


 ローラが両手を掲げる。右手からは強烈な風が吹き出し、左手からは猛烈な炎が噴き出して、瑠璃たちをめがけて飛んでいく。デボラが興奮気味に声を上げる。


「強力な風魔法と炎魔法の同時使用! 本来ならば片方だけでも相当魔力を消耗するのにも関わらず、併用を苦にしないのは、お姉様の持つスキル、【魔力量倍加】の成せる業!」


「~♪」


「⁉」


 風と炎が一瞬で消し飛び、ローラは自身の目を疑う。デボラが驚愕する。


「な、何をしたの⁉」


「いや、ただの【演奏】よ……」


 鶯が楽器から離した手で髪をかき上げる。瑠璃が前に進み出る。


「お次はウチよ!」


「む!」


「ウチの歌を特等席で存分に堪能しなさい! 【歌唱】! ~~♪」


「ぐっ‼」


「きゃあ!」


 シルバ姉妹が吹き飛ばされそうになる。ローラが信じられないように呟く。


「ば、馬鹿な……先ほどの演奏といい、『音圧』で戦闘を⁉」


「流石に勘が良いわね! でも、気が付いたところでもう遅いわ!」


「くっ!」


「サビに入るわよ!」


「お姉様!」


 デボラがローラの前に立って、両手を掲げる。姉妹の後退が止まる。鶯が驚く。


「あれは……⁉」


「わ、わたくしは支援・補助魔法を極めておりますの……特に分厚い障壁を張りました、これで貴女たちご自慢の音圧はわたくしたちに届きませんわ」


「要は強力なバリアってこと⁉」


「どうやらそのようね……」


 瑠璃の問いに鶯が頷く。瑠璃が舌打ちする。


「ちっ! こういうケースは想定していないわ!」


「ふふっ、貴女たちはもう何も出来なくてよ! お姉様! 演奏終わりで反撃を!」


「心得た……」


 デボラの言葉にローラが頷く。瑠璃が顔をしかめる。


「マズい! 鶯姉、演奏を引き延ばせる⁉」


「やってみるけど、アタシの演奏だけじゃ限界があるわ!」


「くっ……」


「ここはボクに任せてよ♪」


 ロビンが前に進み出る。瑠璃が声を上げる。


「ロビン!」


「【舞踊】! ~~~♪」


 ロビンが踊りながらデボラたちに近づく。デボラが笑う。


「ふっ、そんな踊りで何が出来ると……⁉」


 次の瞬間、ローラとデボラが崩れ落ちる。ローラが尋ねる。


「なっ、何をした……?」


「踊りのリズムに合わせて……思い切り殴った!」


「ぶ、物理攻撃……⁉ ば、馬鹿には敵わん……」


 ローラたちが気を失う。


「アンコールは要らないみたいだね♪」


 瑠璃たちに振り返ったロビンがウインクをして、ピースサインをする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る