第9話(1)街に潜入
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「姫ちゃんの聞いた話だと、あの街で奴隷の売り買いをしているらしいの?」
姫ちゃんが指を差した先に街が見える。
「……どうなんだ、静?」
「この辺には来たことが分からないね……」
「そうか……」
「少しばかり離れているとはいえ、それなりの規模の街に見える。トーマは支配下に置こうとは考えなかったのかな?」
監督が静に問う。
「これも聞いた話なんだが……あの街にはなかなか強力な自警団がいるらしくてな。恐らくそれを嫌って、手を出さなかったんじゃないか?」
「なるほど……」
「ちょっと待って下さい……」
「どうした栄光くん?」
「警備がしっかりしているなら、俺たちがあの街に入るのは難しいのではないですか?」
「ああ、そういう考え方もあるね……」
「ヘタしたら捕まるかもね~」
「ロビン、冗談を言っている場合じゃないわよ」
瑠璃さんがロビンさんをたしなめる。
「どうしますか? 強行突破しますか?」
青輪さん、言うことが過激過ぎる。
「それには及ばないの!」
「どういうことだい、姫ちゃんP?」
「これがあるの! 襲われちゃったあの馬車から拝借してきたの!」
「こ、これは……」
海が呟く。
「なんですか?」
俺は馬を御しているため、振り返ることが出来ない。監督が告げてくる。
「いや、警備問題はなんとかなりそうだよ」
「そうなのですか?」
「ああ。天さん」
「は、はい!」
「【描写】でいくつか用意してもらいたいものがある」
「は、はあ……」
「……ふむ」
「積み荷も問題ありません!」
「そうか、通ってよし!」
「ありがとうございます……」
俺は馬車を進ませ、街に入る。しばらくすると、荷台の積み荷が消える。
「……ふう」
鶯さんがため息をつきながら体を起こす。俺は声をかける。
「皆さん、お疲れさまです」
「なるほど、行商許可証を偽造して……行商人の馬車だと思わせたと……」
「橙々木さんの【描写】で農作物を大量に出して、アタシたちはその下に息を潜ませる……」
「すごいですね、まんまと街に入り込めましたよ……」
海と鶯さんと青輪さんが感心する。
「この辺なら怪しまれないでしょうね……」
俺は馬車を止め、元の姿に戻って荷台に上がる。
「奴隷売買なんて本当にやっているの?」
「……どうなんだ、ティッペ?」
俺は瑠璃さんの疑問をティッペにぶつける。
「……この辺りは皆が転移した地域とは違って、悪政で知られた国の領土だったっぺから、そういう悪しき習慣が残っているっぺねえ……」
「怖っ、ここら辺に転移しなくて良かった~」
ロビンさんが胸を撫で下ろす。姫ちゃんが口を開く。
「実は姫ちゃんも最初に転移したところはこちらに近かったから危なかったの!」
「え? そうなのですか?」
「うん、人攫いに攫われそうになったの!」
「と、とんでもないことを言い出しますね……」
瑠璃さんが戸惑う。俺が問う。
「よ、よく平気でしたね?」
「う~ん……なんかよく分かんないけど、スルーされたの!」
「……」
俺たちはあらためて姫ちゃんの恰好を見る。ドレスで着飾ってはいるが、ツインテールで小柄な体格だ。顔立ちも整ってはいるが、どこか子供っぽい。恐らくだが『売り物にならない』とスルーされたのだろう。
「……うん、なるほど」
「……ああ、そういうことですか……」
監督と海が納得したように頷く。俺と同様の結論に至ったのだろう。
「え、どういうことなの?」
「いや……」
「なんでもありません……」
姫ちゃんの問いに対し、監督と海が揃って顔を背ける。
「もう! なんなの! 気になるじゃないの!」
姫ちゃんが頬をぷうっと膨らませる。
「まあ、それはさておき……さっさと神桃田さんを探すべきじゃねえか?」
静が俺に話しかけてくる。
「あ、ああ……そうだな。しかし、どこから探したものか……」
俺は腕を組んで考え込む。青輪さんがティッペに尋ねる。
「妖怪さん、どうなんですか?」
「妖精だっぺ……まあ、街の目立つ場所で売り買いしていると思うっぺ」
「目立つ場所……」
「街の中心に行ってみるの!」
姫ちゃんが立ち上がる。
「遠目で見た感じでは市場みたいなものが開かれていましたね」
天が呟く。監督が口を開く。
「念のため、何組かに分かれて行動しよう。固まって動いていたら目立つからね。一定の時間が経過したら、一度この馬車に戻ってくるんだ」
「分かりました」
俺たちは何組かに分かれて、それぞれ街の中心にある市場に向かう。
「……なかなか活気がありますね」
市場を眺めながら海が呟く。
「ええ……」
「あ、栄光さま!」
「どうかしたのですか、青輪さん?」
「あれを!」
青輪さんの指差した先に舞台のような少し高い場所がある。そこでスキンヘッドの男が声を上げる。
「さあさあ! これから小一時間後に今回の奴隷オークションの開催だ! 本日はなんと! 世にも珍しい、異世界からの転移者も商品にラインナップされているよ! 興味のある方はこちらの舞台まで集まってくれよ!」
「!」
「い、今、転移者って……」
「間違いない、桜だ! くそ!」
頭に血が上った俺は舞台に向かって駆けだそうとした。海が声を上げる。
「え、栄光さん、待って下さい! あの舞台脇にいるのを見て下さい!」
海の言葉を聞いて、俺は舞台の脇を見る。そこには獰猛な虎が何匹もウロウロしていた。
「⁉ あ、あれでは容易に近づけない……!」
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