第8話(3)赤髪の勇者
「す、姿が変わった……?」
「ティ、ティッペ! こ、これは……?」
俺は尋ねる。ティッペは声を弾ませる。
「そうだっぺ! 正真正銘の『赤髪の勇者』だっぺ!」
「やっとか! 待たせやがって!」
「さすがは『七色の美声』、正統派の勇者を演じても違和感が無いっぺ……」
「ふっ、正統派か……」
俺は背中のマントを大げさにたなびかせ、腰の鞘から剣をサッと抜く。
「勇者……?」
ベリが首を傾げる。
「そうだっぺ! かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の代表、『赤髪の勇者』が再び現れたっぺ! 恐れおののくが良いっぺ!」
「お前の口調の方が悪役のそれっぽいぞ!」
俺は興奮気味のティッペを落ち着かせる。
「ベ、ベリ姉さん……」
「落ち着け、セル……わたしらにはチートスキルがあるだろう?」
「う、うん……」
「その程度のスキル、問題は無い!」
「ほう、言ってくれるじゃないか……」
俺の言葉にベリは笑みを浮かべる。俺は剣を構える。
「さあ、かかってこい!」
「言われなくても!」
「!」
右手をかざしたベリがあっという間に俺の懐に潜り込んできた。ベリが笑う。
「はっ、反応が遅れているよ⁉」
「と、【時進み】のスキルを発動させたっぺ!」
「ちっ!」
俺は舌打ちする。
「もらった!」
「なんの!」
「なっ⁉」
ベリの繰り出した鋭いパンチを俺は思い切りしゃがんで避ける。
「か、かわせた!」
俺は自分でも自分の反射神経に驚く。これが勇者の身体能力か。
「と、【時戻し】!」
「む⁉」
俺の体勢が元に戻る。セルによる【時戻し】が発動したのだろう。戸惑っている隙をついて、セルも素早く接近してくる。
「これならどうだ!」
「なんの!」
「なにっ⁉」
セルが下段に向かって強烈なキックを放ってきたが、俺はカエル飛びのように飛んでかわしてみせる。ティッペが叫ぶ。
「これが赤髪の勇者の代名詞、『半身動かし』だっぺ!」
「は、半身動かし⁉」
「そう! たった半身を動かすだけで、相手の攻撃をことごとく無効化させてしまう、赤髪の勇者がもっとも得意としていた技だっぺ!」
「そうか……だが」
「ん?」
「これが正統派の勇者の姿か⁉」
飛んでいるカエルのような姿勢をしながら俺は叫ぶ。思っていた勇者像とだいぶ違う。
「細かいことを気にしている場合ではないっぺ!」
「そ、そんな……」
「今が好機だっぺ!」
「! よし!」
「はっ⁉」
「しまっ……!」
「はあっ!」
「ぐはっ!」
「がはっ!」
俺は剣をひと薙ぎする。ベリとセルが後方に派手に吹っ飛ぶ。
「ぐっ……」
「仕留めきれなかった?」
「恐らくギリギリでスキルを発動させたっぺ……」
「なるほどな……」
頷く俺の横でティッペが説明を続ける。
「しかし、その剣速はさすが歴戦の勇者! ほとんど相手のスキルを無効化させたものと同じだっぺ!」
「ふむ、とどめといくか……!」
俺はベリたちに足早に近づく。
「くっ!」
「ま、間に合わない⁉」
ベリが舌打ちし、セルが慌てる。俺は剣を振りかざす。
「今度こそ、終わりだ!」
「……」
「⁉」
俺は剣を振りかざした状態で止まる。
「ふん……」
俺の目の前に褐色のワガママボディをマイクロビキニで包んだ、黒髪に赤いメッシュを入れた大きなアフロヘアの女が現れる。
「‼」
「そらっ!」
「ごふっ!」
アフロヘアの女の強烈な頭突きを喰らい、俺は堪らず後方に倒れ込む。
「アラ姉!」
「アラ姉さん!」
「……妹たちが世話になった」
アラと呼ばれた女が自らの額をさすりながら呟く。
「あ、姉だと……?」
俺は半身を起こしながら呟く。
「ああ! 『色欲のABC』の長女、アラだっぺ!」
「さ、三姉妹なら、最初から三姉妹と言え!」
俺はティッペに対し声を荒げる。
「ベリ=B、セル=Cと、大体類推出来るっぺ……」
「出来るか! 名探偵じゃないのだぞ!」
「ダンジョンでの謎解きなども勇者には必要な能力だっぺ」
「か、勝手なことを言うな……」
「やかましい連中だな……」
アラがアフロヘアを撫でながら呟く。俺は慌てて立ち上がる。
「くっ……」
「なんの! 相手が一人増えただけだっぺ! 勇者が何を臆することがあるっぺ!」
「良いことを言うな! 行くぞ!」
俺はアラに向かって勢いよく斬りかかる。
「はあ……」
「……⁉」
アラが両手を交差させながらかざすと、俺の動きがピタッと止まる。
「私のスキルは【時止め】……貴方に勝ち目はない……」
アラから衝撃の言葉が俺の耳に入ってくる。
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