第7話(2)暴食注意報

「着いた……静、この町にトーマがいるのか?」


「その可能性は高いと思う。断定は出来ないけどね」


 俺の問いに対し、静は肩をすくめる。俺は町の様子をうかがう。


「かなり静かだな……」


「トーマの武力を目の当たりにしてしまったからね。もっとも、トーマもそれほど手荒な真似をしたというわけではないけど」


「騒いだりして変に目立つと処罰を受ける可能性があると?」


「そうだね」


 鶯さんの問いに静が頷く。


「!」


 骸骨兵士たちが町を歩いている。俺たちは物陰にさっと隠れる。瑠璃さんが呟く。


「パトロールってやつ?」


「そのようですね……」


「どうする?」


 監督が俺に尋ねてくる。


「骸骨兵士たちが大勢いたら厄介です。奴らに見つからないようにトーマのもとに行ければ良いのですが……しかし……」


「しかし?」


「この町にトーマがいるとは言い切れません」


「なるほど、治安維持の為に置いているのか。ということは下手に仕掛けると面倒かもね」


「そういうことです」


「あ……」


 ロビンさんが声を発する。鶯さんが尋ねる。


「どうしたの、ロビン?」


「い、いや、あの人……」


 ロビンさんが指差した先には丸坊主の小太りな男性が立っていた。


「誰だ? 町民か?」


「……スゥ~」


「⁉」


 その丸坊主が口を開くと、骸骨兵士たちがあっという間に吸い込まれてしまった。俺たちは一様に驚く。監督が頭を抑える。


「これはこれは……」


「ティッペ、ひょっとして……」


「ああ……」


「ああ、まだ腹減ったなあ~スゥ~~!」


「おわっ⁉」


 俺たちが隠れていた酒樽や木箱の山も丸坊主に吸い込まれてしまった。俺たちはすっかり丸見えの状態である。丸坊主がこちらに気付く。


「ん~?」


「……『グラトニーのパウル』……転移者だっぺ」


「……もう少し早く言って欲しかったな」


「お前ら、もしかして……」


 パウルが大きなまん丸い眼でこちらを見つめてくる。俺は再びティッペに問う。


「奴もチートスキル持ちか?」


「ああ、そうだっぺ……」


「スキルは二つ名そのままで【暴食】か?」


「いや……」


「なにをごちゃごちゃと言っているんだ~?」


 パウルがゆっくりとこちらに近づいてくる。俺たちは身構える。


「……」


「ん~? 警戒心を露にしているんだな~。お前らも転移者か?」


「そうだ」


「そうか、お前ら、オイラの下に来い」


「断る!」


 俺はよく通る声で答える。


「それはこっちの台詞なんだな」


「え?」


「え?じゃないんだな、野郎はお呼びでない。空気を読むんだな」


 パウルは俺に向けて、シッシッというジェスチャーをしてくる。


「なっ……」


「女が一杯いるんだな~」


「分かりやすく鼻の下を伸ばしているが、オレは頭数に入っているのかな?」


「し、静さん、呑気なことを言っている場合ではないかと……」


 天が静の呟きに反応する。


「お~い、女ども! そんな冴えない男と不気味な妖精なんか放っておいて、オイラのところさ来るんだな~うめえもん一杯食わしてやるぞ~?」


「さ、冴えない⁉ そのまん丸お目目は節穴⁉ 栄光さまのどこが冴えないっていうの⁉ ティッペだって、見ようによっては愛嬌があるわよ!」


「全然フォローになってないっぺ!」


 ティッペが声を上げる。俺は声をかける。


「青輪さん、下がって!」


「なんだお前……?」


「この世界の英雄になる予定の者だ。お前のような悪い転移者を懲らしめてな……」


「ああん⁉」


 パウルの顔色が変わる。俺は小声で呟く。


「来るか……」


「生意気な野郎だな! オラのスキルの前にひれ伏せ!」


「強烈な吸引力に注意すれば……!」


「違うっぺ! スグル!」


「なに⁉」


「ふん!」


「なっ⁉」


 パウルが腕を振るうと、俺の体に蔦が絡まる。ティッペが叫ぶ。


「奴のスキルは【複製】! 食べたものの力を自由に扱えるっぺ!」


「こ、この蔦はどういうわけだ⁉」


「お、恐らく、さっきの木箱に入っていた芋の蔦だっぺ……」


「ご名答なんだな、妖精……」


 パウルがニヤリと笑う。俺が戸惑う。


「くっ、蔦が絡まって……」


「それっ!」


「うおっ⁉」


 パウルが蔦を引っ張り、俺は建物の壁に激しく打ち付けられる。


「ふふん……」


「ぐっ……」


「お次はこれでとどめといこうかな~」


「む⁉」


 パウルが槍を発生させる。先ほど吸い込んだ骸骨兵士の槍だ。


「さてと……」


「ぬおっ⁉」


 蔦に絡まった俺の体がズルズルと引きずられる。パウルが槍を掲げて笑う。


「はっはっは、これで串刺しなんだな~」


「ティッペ!」


「ああ!」


 ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺は手を伸ばしてそれを掴む。


「絵を見て……念じる!」


「むっ⁉」


「こ、これは⁉」


 パウルも俺も驚く。俺が藍色のショートボブの女性に変化したからだ。

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