第5話(4)青髪のお天馬姫
「お、女になった……?」
「ティッペ! また性別が変わっているではありませんこと⁉ うん?」
俺は自分の口調に首を傾げる。
「さすがは『七色の美声』、お嬢様を演じても違和感が無いっぺ……」
「感心している場合ではありませんわよ!」
「ええっ⁉」
「な、何故『赤髪の勇者』の絵を渡さないのです⁉ なんなのですか、この恰好は⁉」
「い、いや、かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の一人、『青髪のお天馬姫』を描いた絵を渡したっぺ!」
「お天馬姫? ……ああ、ペガサスの天馬とお転婆をかけたのですね……って、やかましいですわよ!」
俺は慣れないノリツッコミをする。
「オ、オラに言われても! 文句は昔の人に言ってくれっぺ!」
「……それで?」
「え?」
「何故にこの恰好なのですか?」
「いや、相手がドラゴンならペガサスに乗った方が相性良いと思ったっぺ……」
「なるほど、理には適っていますね……」
俺は顎に手を当てて頷く。ティッペが得意げに胸を張る。
「だっぺ?」
「お手柄です、ティッペ、褒めて差し上げます」
俺はティッペの頭を撫でてやる。
「な、なんか癪にさわるっぺ!」
「何を嫌がっているのですか?」
「そ、その上から目線が気にくわないっぺ!」
「高貴な振る舞いと言って下さいませ」
「は?」
「姫なのだから仕方がないでしょう……」
俺は胸に手を当てる。
「うむむ……」
「さあ、存分に敬いなさい……」
「お断りだっぺ!」
「まあ、困った妖怪さんですこと」
「妖精だっぺ!」
「どっちでもいいわよ!」
「ん?」
俺が視線を向けると、ドラゴンに跨ったモーグが震えている。
「ひ、人のことをすっかり無視してくれちゃって……」
「いえ、決してそのようなことはありません」
「は?」
「忘れておりました」
「! な、舐めるのもいい加減にしなさい!」
モーグがドラゴンをこちらに向かわせてくる。
「ペガサスを上手く乗りこなすっぺ!」
「言われなくても!」
「む!」
俺はペガサスを操り、ドラゴンの頭上に素早く回る。
「武器は……この弓ですわね!」
俺は背中に背負った弓を取り、矢を番える。ティッペが心配そうに声をかけてくる。
「こ、この速度で動いて、正確に狙えるっぺか⁉」
「心配……ご無用!」
「ギャア!」
俺の放った弓がドラゴンの片目を射抜く。
「もう片方も!」
「ちっ、調子に乗らないで!」
「おっと!」
ドラゴンが口から火を放つ。俺は慌ててペガサスに回避させる。
「ふふん!」
ドラゴンが続けざまに火を放ってくる。こちらは回避行動を続ける。
「くっ!」
「ふふっ、逃げ回るだけ⁉」
「炎のリーチが長い……これでは近寄れませんし、この体勢では矢で射るのも困難ですわ」
「どうするっぺ⁉」
「それを今考えております!」
「考える暇なんか与えないわよ!」
ドラゴンが素早い動きでこちらの前に出る。意表を突かれてしまった。
「‼」
「もらったわ! 燃やしてやりなさい!」
「ぐっ!」
「……」
「?」
「ど、どうしたの?」
モーグが急に沈黙したドラゴンの顔を覗き込む。
「グ、グギャア!」
「【推し活】ならぬ、【押し勝つ】!」
ドラゴンの……いわゆる肛門あたりから金色の球体が飛び出してくる。
「なっ⁉」
モーグが驚き、ドラゴンは体勢を崩す。
「今よ!」
俺は矢でドラゴンのもう片方の目を射抜く。
「ギャア!」
「もう一本!」
「に、逃げるわよ!」
モーグがドラゴンを叱咤する。ドラゴンは苦しそうにしながらも急いで飛び去る。
「な、なんて飛行速度……」
「とりあえずは追い払えたことを良しとすべきだっぺ……」
「それもそうですわね……」
「問題はあれだっぺ……」
ティッペは地面に落下した金色の球体に目をやる。
「まったくもってそうですわね……」
俺は地上に降下する。しばらくして、変化は解け、元の姿に戻った。ティッペが呟く。
「あれは本当になんだっぺ……」
「分からんが、さっきは人の声がしたな……」
俺は金色の球体に近づく。
「……もしや、そのお声! 栄光優さまですか⁉」
「え、あ、は、はい……」
球体の中から女性の声がする。俺はあまりの勢いに思わず頷いてしまった。
「ああ、嘘みたい!」
「⁉」
金色の球体が割れ、中から黒いワンピース姿の女性が現れる。
「ああ、異世界へ転移して、ドラゴンに呑み込まれたときはどうなることかと思いました!」
「えっと……貴女はどなたですか?」
「え、わ、わたしですか? えっと……
「青輪さん……ああ、いつもファンレターを下さっている方ですか?」
「お、推しに認知されていた! ああ、もう〇んでもいい……」
「ちょ、ちょっと! 青輪さん⁉」
倒れ込みそうになる青輪さんを俺は慌てて抱きかかえる。
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