第4話(4)黄色髪の魔法剣士

「ふむ……今回はまともか……って、また『赤髪の勇者』じゃないのか……」


 俺はティッペに文句を言う。


「い、いや、今回はこの姿が相性良さそうかなと思ったっぺ……」


「相性って……これは……」


 俺は自分の背中に背負っている大きな剣に気が付く。


「気が付いたっぺか」


「そりゃあ気付くだろう……なんだ? 『黄色髪の大剣使い』か?」


「いや、今回は……」


「おらあっ!」


「む!」


 ディオンが飛び込んできた為、俺は横に飛んでかわす。地面がディオンの拳で砕ける。


「顔かたちだけでなく、姿を変えるスキルか……はっきり言って羨ましいぜ」


「ははっ、出来ることならば譲ってあげたいけど……」


「なんだ、その口調……?」


「ああ、気に障ったのなら申し訳ない」


 俺は口元を抑える。


「なんかイケメンぶりが腹立つぜ!」


「おっと!」


 ディオンが再び飛び込んできたが、俺はなんとかそれもかわす。嫉妬がむき出しになってきたな……。俺の左肩に乗ったティッペが呟く。


「さすがは『七色の美声』、若干嫌味なイケメンを演じても違和感がまったく無いっぺ……」


「俺の攻撃を二度もかわすとは……てめえ、なにもんだ?」


「僕かい? この世界の英雄になる予定の者だ……」


 何故か、俺は丁寧にセットされた髪を撫で上げながら答える。なるほど、若干嫌味だな。


「! 英雄だと⁉ はっはっは! 何を言うかと思えば……」


「君たちのような悪い転移者をこらしめてね……」


「!」


 ディオンの顔色がはっきりと変わる。必要以上に挑発してしまっていないか、俺?


「そういう物言い、決まっているっぺ」


「そうかい、ティッペ君? まあ、よく言われるよ」


 再び髪を撫で上げながら答える。こういう振る舞いがこの姿では自然なようだ。


「ぶっ潰す!」


「‼」


「うおおっ!」


「ぐっ!」


 俺は背中の大剣を抜いて、ディオンの拳を受け止める。勢いに圧されるが、転倒はせずに、後方に少し飛ばされただけで済んだ。細身だが、それなりの力は持っているようだ。


「耐えやがっただと……生意気な!」


「くっ!」


 ディオンがパンチのラッシュを浴びせてくる。俺は大剣を器用に扱い、その攻撃を受けるが、正直しのぐだけで精一杯だ。ディオンが笑う。


「ははっ! どうした、どうした! その大剣は飾りか⁉」


「ティ、ティッペ君、これは一体どういうことかな……?」


「い、いや、かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の一人、『黄色髪の魔法剣士』を描いた絵を渡したっぺ!」


「ま、魔法剣士⁉」


「そう、大剣さばきもなかなかだったそうだっぺが、本領は魔法を織り交ぜた戦い方で発揮されたそうだっぺ!」


「そ、そういうことはもっと早く言ってもらえないかな⁉」


「言おうとしたっぺ!」


「ま、まあいい……なるほど、魔法なら物理攻撃との相性も良さそうだ……」


「はい、どうぞと使わせると思うか⁉」


「だ、だろうね!」


「うおりゃあ!」


「うぐっ!」


 ディオンの強烈な拳が俺の左肩を叩く。俺は思わず大剣を落としてしまう。


「妖怪!」


 監督が俺の左肩から飛び立ったティッペに声をかける。


「妖精だっぺ!」


「これも小耳にはさんだことだが、君らがスキルを見極めることが出来るそうだな!」


「ああ、そうだっぺ!」


「ならば、自分のスキルを見極めてくれ!」


「ええ⁉ わ、分かったっぺ!」


 ティッペが監督の目の前に向かう。監督が問う。


「どうだい?」


「う~ん……分かったっぺ! お前さんのスキルは……だっぺ!」


「ごちゃごちゃ言っているが、そう慌てるな、こいつを片付けたらてめえらの番だ!」


「!」


 ディオンが思い切り拳を振り上げる。俺は舌打ちする。


「ちっ!」


「【演出】!」


「なっ⁉」


 どこからか勇ましくも軽快な音楽が流れてくる。ディオンの動きがスローモーションのように見える。こ、これはもしかして……。監督の叫びが聞こえる。


「逆転勝利の演出だ! 勝利用BGMのオマケつきだよ!」


「な、なんだと⁉」


「不思議に力がみなぎってくる!」


 俺は落としていた大剣を拾い、振りかざす。監督のディレクションが聞こえる。


「そこで魔法を帯びた大剣での一撃だ!」


「はっ! スキルに溺れず、鍛えに鍛えてんだ! 一撃くらい耐えてみせらあ!」


 ディオンが叫ぶ。監督が呟く。


「そこに派手なエフェクトをひとつまみ……」


「うおっ⁉」


「おわっ⁉」


 俺の振るった大剣がディオンの体に当たると、大きな爆発が起こる。ディオンは堪らず倒れ込み、俺は目を疑った。監督は淡々と呟く。


「エフェクトによって魔法の威力が増せるみたいだね……」


「ケェー⁉」


 ゴブリンたちが慌てたようにディオンを運んで逃げる。追撃したかったが、天たちも気になるだけに、ここは見逃した。もっとも、疲れも蓄積していたが。俺は監督に礼を言う。


「お陰で助かりました。ありがとうございます」


「なに、恩返しだよ、気にするな」


「え? 恩返し?」


 俺は首を傾げる。監督は口を開く。


「数年前の自分は……小さくまとまっていてね」


「え……」


「そんな時、ある現場で大御所監督相手にも臆せず、自分の意見を言う声優がいたんだ……」


「あ……」


「そんな恐れ知らずの姿を見て、なんというか……自信を分け与えてもらってね、お陰で殻を破ることが出来たと思っている」


「そ、そうだったのですか……」


「だから、いつか恩返しがしたいと思っていたのだよ」


「はあ、なんか恥ずかしいな……」


「栄光くん、君は英雄になるというようなことを言っていたが……その目標、自分に演出さえてはもらえないだろうか? この世界、行く当てもない……連れていってほしい」


 監督が頭を下げてくる。


「……同じ世界の方が一緒なのは心強い、こちらこそお願いします」


 俺は監督にお辞儀を返すのだった。

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