第4話(2)ゴブリン撃退

「ええっ⁉」


 四人が荷台から顔を出す。


「ケーケッケッ!」


「うわっ! なにこいつら⁉」


「ゴブリンだっぺ!」


「ゴ、ゴブリン⁉」


 小柄な体で、頭は禿げ上がり、耳は尖っていて、鼻はワシ鼻、目はギョロっとしており、薄緑色の全身に腰巻き一枚を巻いて、短剣を手にしたゴブリンの集団が俺たちを取り囲んでいる。少し距離の離れたところで、黒いローブに身を包んだ人もゴブリン数体に迫られている。フードで顔を覆っているからよく分からないが、体つきから見て女性だろう。


「なんとかしなくては!」


「って、スグル! なんでどこか他人事なんだべ!」


「今の俺は馬車の御者だ! 戦闘能力は皆無に等しい!」


「せめて元の姿に戻れないっぺか⁉」


「一度その姿になると、元に戻るにはそれなりに時間がかかる!」


「ああ、そうだったぺね!」


 ティッペは頷く。


「これでも時間はある程度短縮出来るようになったのだが……」


「うむう……!」


「仮に戻れたとしても!」


「え?」


「この場からすぐ立ち去るには、御者の姿のままの方がスムーズだ!」


「それはそうだっぺね!」


「だから……大変心苦しいが……」


「ん?」


「皆さんのスキルでなんとか切り抜けてくれないか⁉」


 俺は女性陣になんとも情けないお願いをする。


「お、男としてそれはどうなんだっぺ⁉」


「情けないのは自分がよく分かっている!」


「ううむ……」


「ティッペ!」


「結構な数に囲まれているから、このまま逃げるのは難しいっぺ……一戦交えるしかなさそうだっぺねえ……」


「た、戦うんですか?」


 天が不安そうに尋ねる。


「見たところ、下級のゴブリンだっぺ、なんとかなるっぺ!」


「ほ、本当に?」


「……多分!」


「た、多分って⁉」


「天、とにかくやるしかないでしょう……」


「け、けど、瑠璃さん! 武器も無いのに……!」


「天、お前のスキルを活かすんだ!」


「!」


 俺の言葉に天がハッとする。鶯さんが尋ねる。


「なにか打開策が⁉」


「ええ! これなら!」


「お、おっと!」


 天が紙にペンを走らせると、鶯さんの手元に突然ギターが現れる。鶯さんは慌ててそれを落とさないように抱える。天が眼鏡をクイっと上げて叫ぶ。


「それです!」


「そ、それって、このギターをどうしろと⁉」


「なんでもいいから演奏してみて下さい!」


「ええっと……~♪」


「グエッ!」


 ゴブリンたちが倒れていく。鶯さんが戸惑う。


「ど、どういうこと⁉」


「なるほどスキル【演奏】にはこういう効果もあるっぺか!」


「こういう効果⁉」


「心が正しきものには、心地よいメロディーとして聞こえ、また心が邪なものには、苦しめられるメロディーとして聞こえるんだっぺ!」


 ティッペが鶯さんに説明する。瑠璃さんが声を上げる。


「それならウチのスキルも活かせそうね! 天!」


「は、はい!」


 天が再び紙にペンを走らせ、メガホンを出現させる。瑠璃さんがそれを取って叫ぶ。


「ウチの歌に酔いしれなさい! ~~♪」


「ギエッ!」


 瑠璃さんの歌声に圧され、ゴブリンたちが倒れ込んでいく。ロビンさんも声を上げる。


「ボクも続くよ~天ちゃん、よろしく!」


「わ、分かりました!」


 天が三度紙にペンを走らせ、硬度のありそうな手甲と靴を出現させる。ロビンさんは手甲を手にはめ、靴をはく。


「ちょっと重いけど……踊るよ! ~~~♪」


「ゲエッ!」


 ロビンさんの軽やかなダンスから繰り出されるパンチとキックが当たり、ゴブリンたちはばったばったと倒れ込む。気が付くと、馬車を包囲していたゴブリンたちは全て倒すことが出来た。ロビンさんが汗を拭う。


「ふう……ざっとこんなもんよ」


「【演奏】、【歌唱】、【舞踊】をこのように用いるとは驚きだっぺね……」


「ええ、栄光さんの発想がなければ、危なかったですね……」


「まだだ!」


 俺が叫ぶ。


「え⁉」


「あの人を助けなければ!」


 俺は少し離れたところにいる人を指差す。今にもゴブリンに襲われそうになっている。ロビンさんが叫ぶ。


「た、大変! 鶯姉、瑠璃姉! 音圧であのゴブリンたちを吹っ飛ばして!」


「や、やっているけど……」


「ここからだと少し距離があり過ぎるわ!」


「くっ!」


「ここは俺がいく!」


「栄光さん⁉」


「天……を頼む!」


「! わ、分かりました!」


「キエエ!」


「きゃあっ……!」


「おらあ!」


「ゴエッ!」


「⁉」


 俺が馬で突っ込み、ゴブリンたちを吹っ飛ばす。馬の頭には天が描いた角が生えている。


「即席のユニコーンアタック……うまくいったな」


「あ……」


「大丈夫ですか?」


「そ、その声は栄光優……?」


「! なんで俺の名前を……?」


「自分のこと、知らないか?」


 女性がフードを外す。俺はその顔を見て驚く。


「あ、貴女は、アニメ監督の黄恵秋きめぐみあきさん⁉」

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