第1話(3)得意分野
「こ、これは……」
ティッペも困惑している。俺は尋ねる。
「演技ってなんだ⁉ それでどうやって戦う⁉」
「そんなのこっちが聞きたいっぺ!」
「逆ギレすんな!」
「シャー!」
「はっ!」
トカゲのようなものたちの一匹が飛びかかってきたが、俺はなんとかそれをかわす。ティッペが感心しながら、俺の左肩に再び乗る。
「ほう……よくかわしたっぺ」
「感心している場合か! どうすれば良い⁉」
「こうなったらこれしかないっぺねえ……」
「え?」
「その拳で!」
「おおっ!」
「その脚で!」
「うむっ!」
「殴ったり蹴ったりするっぺ!」
「いや、出来るか!」
「ええっ⁉」
「驚くな! ケンカもまともにしたことがないのに、そんなこと出来るわけないだろう!」
「困ったっぺねえ……」
「困るな!」
「もう打つ手は無いっぺ……」
「とんだ指南役だな!」
「いやあ……」
「褒めてないぞ、全然!」
俺は何故か照れくさそうにするティッペに声を荒げる。
「シャー! シャー!」
「くっ!」
トカゲのようなものたちが今度は二匹同時に飛びかかってきたが、俺はこれもなんとか左右にぴょんぴょんと飛んでかわす。
「結構、やるっぺねえ!」
「俺もそう思う!」
「しかし、このままでは防戦一方だっぺ!」
「そうだな、逃げるか⁉」
「囲まれていることを忘れているっぺ!」
「ちっ、そうだったか……」
俺は後方で隙を伺っているトカゲのようなものに目をやって舌打ちする。
「仮にこの包囲網を突破しても、すぐに追いつかれるっぺ!」
「それはそうだろうな……」
「さて、どうするっぺねえ……」
ティッペが首を傾げる。
「考えている暇はないぞ!」
「考える必要はあるっぺ!」
「是非とも有効な解決策を提示して欲しいものだ!」
「う~ん……」
「……」
トカゲのようなものたちがゆっくりと俺の周囲を回り出す。
「おいおい、いよいよヤバくないか……?」
「う~む……」
ティッペはなおも考えている。俺は不安そうに尋ねる。
「だ、大丈夫なのか……?」
「演技……」
「おい!」
「うるさいっぺ!」
「うるさくもなる! 異世界に転移させられて、わけもわからないまま、トカゲのようなもののエサになりそうなんだぞ!」
「もう少し待つっぺ!」
「もう少しって……」
俺は片手で側頭部を抑える。ティッペが声を上げる。
「演技……分かった、これだっぺ!」
「えっ⁉」
「ふふふ……」
「分かったってマジか⁉」
「……多分!」
「冗談を言っている場合じゃないんだよ!」
「まあ、待つっぺ! それ!」
「⁉」
ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。
「これを見るっぺ!」
「こ、これは……絵?」
「そう、かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の一人、『赤髪の勇者』を描いた絵だっぺ!」
「そ、そうなのか……」
「さあ!」
「い、いや、さあ!じゃない! これを見せられてどうすれば良いんだ⁉」
「……恐らく、スキル【演技】とは、その者になりきることが出来るスキル!」
「!」
「だから、お前さんがそのスキルを発動させれば、この勇者になれるっぺ!」
「ほ、本当か⁉」
「多分!」
「不確定なのかよ!」
「演技というスキルなんて見たことも聞いたこともないっぺ……ただ、戦闘に用いられるとすれば、こういう方法しか思いつかないっぺ……」
ティッペが淡々と語る。
「……!」
トカゲのようなものたちが動き出そうとする。
「ただ、お前さん、えっと……」
「優だ」
「スグル、お前さんに果たして演技の素養があるのか……それが問題だっぺ……」
「はははっ!」
「! な、なんだっぺ、急に笑い出して……」
「素養も何も……得意分野だ!」
「⁉」
「『七色の美声』の持ち主だぞ?」
「な、七色⁉」
「この者を演じれば良いんだろう! 容易いことだ!」
「おおっ、頼もしい!」
「どうすればそのスキルとやらは発動するんだ?」
「ま、まあ、とりあえず強く念じてみるっぺ!」
「分かった!」
「‼」
次の瞬間、俺の姿が変わった。槍を持った、いささかみすぼらしい恰好の男に……。
「こ、これが勇者か……?」
「い、いや、それは、その絵に描かれている平民兵だっぺ! 勇者は隣の赤毛の方! こう言っちゃ悪いが、その男は歴史上に見ても完全なモブキャラだっぺ!」
「ええっ⁉」
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