能力と旅立ちの朝
仕方なく部屋に帰った俺は、いまだ興奮冷めやらぬ頭をフル回転させる。
「さっき書いた設定が反映されてるのか?」
そして手帳をパラパラとめくってみるが、書いた文字が全て消えていた。
その非現実的な状況に、否応なしにここが物語の中である事を気付かされる。
この世界は俺の書いたそのものの世界なんだ。
彼らが育った家なんて、冒頭の「それじゃぁ出発するか!」の一言で、扉を開けるシーンくらいしか書かなかったわけだし、特に他の記述は無かった。
だから木で出来ているイメージくらいしかなくて、あんなチープな作りになってたのか。
そして、俺がこの手帳にそれを書き込んだことで、この世界に「設定」が反映された……
どんどんしっかりとした設定を書き足していけば、もっと素晴らしい世界に生まれ変わるんじゃないだろうか?
俺はきっとそのためにここに転生したんだ!
この話を書く前に色々な小説を読んできた。
しかし日本のファンタジーとなると、指輪○語のような世界観を踏襲したものか、ドラゴン○エストのどちらかが基本で、自分で世界を構築した話は少ない。
その理由は簡単。
説明が面倒だから。
みんなが知っている世界観だったらわざわざ説明しなくて良いからだ。
"エルフがいた"と書くだけで、耳が長い美形の生き物が浮かんでくるわけで。
"ぽめらっちょがいた"って書いただけじゃ、全く通じないからやりたがらない。
なんだよぽめらっちょって。
逆に言うと、読者の知識やイメージに委ねている部分が多いんだ。
"主人公は木造の一軒家に住んでいました"
と書いただけで、読者に勝手に間取りまで考えてくれって投げてる。
確かに、床板は樫、壁はパイン材を使って、天井は貼っていない。なんて細かく書いても誰も興味無いだろうけどさ、作者的に考えておいても悪くはない。
例えば、急に盗賊が村を焼き払おうとしたときに、簡単に焼けてしまう家なのか。"扉を蹴破り侵入"が可能なのかさえ、素材に影響される。
俺は勢いだけで物語を書き進んだ事を恥じた。
「よく考えれば、こんな人口10人くらいの街ってのもあり得ないし、そこに王様がいるのもおかしい話じゃないか?」
そう、よく考えればひどい話だ。
その王様という人物も、何をどうして主人公を勇者認定して、魔王と戦わせようとしたのかすら分からない。
しかもその路銀がお小遣い程度。
王の守備隊の鎧や武器を渡した方がよっぽど助かるんじゃないか?
この辺はゲームを参考にしたが、いざ世界に入り込むと矛盾だらけだ。
「うん。ここはちゃんと書いておこう」
自分のやるべきことがはっきりしたからか、頭が冴えている気がする。
今だったら、しっかり物語を考えることができそうなんだよね。
「まず王様は却下、村長で良い。だったら街も村に格下げだ」
さっそく俺は改正案をメモ帳に書き綴った。
「明日の朝が楽しみだぜ!」
もう更けてしまった夜が、朝に近づくまで俺はただ机にかじりついたのだった。
こっちに来る前も、徹夜で小説を書いたのを思い出しながら。
チュンチュン
鳥の声で目が覚める。
どうやら机に突っ伏して寝ていたようだ、他人ん家の机にヨダレの跡つけちゃった。
「体痛ぇ……」
文句を言いながら開いた手帳に書きかけの文章はない。
取り敢えずキリの良いところまでは設定したと思う。
「おーい、いつまで寝てんだ預言者さんよぉ、メシにするぞ!」
階下から勇者アドルフの声がする。
俺のために食事を作ってくれたんだろうか?
案外良いやつだ。
俺は椅子を戻すと、よろよろと階段を降りていった。
「お、すげぇ顔だなぁ。緊張して眠れなかったか?」
アドルフは、勇者の装備のままエプロンを装着して朝食を運んでいる。
「まぁな」
そういう勇者はよく寝れたようで、血色が良い。
「このメシはアドルフが作ったのか?」
「そりゃぁそうだろうよ、俺しか居ないんだからな」
彼が食事を作れるという設定を考えたつもりはないんだけど。
彼の両親は10年前に魔物に殺されたという設定を書き加えたのを思い出した。
そりゃ、10年も一人で生活してりゃメシも作れるわな。
ひとつの設定に、思わぬ副産物。
いや、「必然」か。
こういうこともあるんだな。
なんて考えながら、彼が作ったフレンチトーストっぽい朝食をいただく。
「今日は朝から出発するのか?」
俺は食後のなんかよく分からないお茶を飲みながら聞いてみた。
なんかよく分からないというのは、お茶の定義が「葉っぱを乾燥させて煮出したもの」くらいのイメージだったので、そんな感じのものが出てきたのだろう。
まぁ飲んでダメなものは出さないだろうけど、俺の知っているお茶ではない。
まだまだ認識の甘い場所は多いようだが、大きな問題ではないか。
先程の質問に、食器を片付け終わった勇者が答える。
「ああ、あの日から、俺は出発することは決めてある」
うん? なんか意味深なことを言い出したぞ?
これはあれだな、両親が親に殺された日に、魔族を皆殺しにすると誓ったって事だよな。
主人公ってたまに含みのある言い方するよな。
まぁ、ここは面倒だし乗っておこう。
「そうだな、まずは隣街へ向かう感じだろ」
「ああ、今日中に隣街のセカンドの街へ!」
すまん、街の名前は適当なままだったわ。
☆★☆作者の一言☆★☆
ようやく出発ですね。
いつも思うのですが、何で初期の町の回りの敵は弱くて、話が進むと勝手に強くなるのだろう?
話の最後の町の住人なら、ドラゴンくらいパンチで倒せないと生活できなくない?
ま、そういうのをお約束とか、ご都合主義って言うんですけどね。
ドラゴンをパンチで倒せる方は
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とか言ったらいつまで経っても入らんやろな。
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