第36話 大掃除と猫との出会い


 6月1日。9:00。

久しぶりの1人休暇である。

理由は昨日、サプライズ動画が公開され、今日、スメラ嬢とディア王女はコラボ動画撮影のため、新しくできたスラム国事務所にいるのだ。

そしてみさきさんは、今日の晩ご飯のための買い出しに行っている。

本当にいろいろと、みさきさんは何から何まで命の恩人だろう。


「とはいえ、何をすればいいでしょうか……仕方ありません。

私ができることをやりましょう」


私はおもむろに脱衣所に向かう。

そこには前に、雑巾やバスタオルなどの。、位置を教えてもらっていた。

ディア王女様の使用人であるこの私ができることはたった1つ……

掃除である。

ということで、私は雑巾とほうきを持ってくる。


「ではやっていきましょうか!!」


私は早速2階の窓から掃除を始める。

掃除の基本、上からする。

もし仮に、下から掃除をやってしまうと、上から下にごみが落ちていくので、結局もう1回する羽目になるから。

だから上から下に掃除をするのが当たり前なのだ。


「結構きれいですね……昔私が掃除したお城は大きくて……1部屋するだけでも平均1日はかかっていましたが……」


そうこの家は昔のお城と違って、かなり部屋が小さいので掃除するのがものすごく楽なのだ。

ちなみにお城の掃除は、普通ならば使用人ではなくメイドの役割なのだが、私はディア王女様の専属使用人として雇われたので、掃除も1人でこなしていた。

その成果もあってか、わずか1時間ほどで、終わらせてしまった。


しかし油断をしてはいけない。

ここでごみ1つでも残してしまうと、私たちはもしかしたら追い出されるかもしれない。

みさきさんは、私たちにとっては王様的な立場なのだ。

最終確認は怠らない。


「よし!大丈夫ですね。次の部屋に行きましょう。1部屋にかかった時間は……1時間半……昼過ぎには終わるでしょうか」


昔から私の掃除スピードと綺麗さはメイド1と呼ばれるくらい掃除には自信があった。

まぁ……みんなが私のことをそう呼んでいるだけで、私自身は私の掃除をしているだけなのだけど……。

そう呼ばれていたので、よくみんなの掃除をした場所の最終確認を任されていた。

ゴミが残っていれば指摘し掃除させる。

一応メイドの中でもリーダー的な扱いだった。

実際はメイド立場ではないですが。


そうして私は、2階をの掃除を終え1階に向かう。

今の時点でもう3時間ほどが経過していた。

その理由はというと、2階の寝室……私たちが使っている部屋がまぁ広いのはもちろんなのだが、私たち3人分の布団が敷きっぱなしになっていたので、それを片づけたりいろいろしたりして結局、この時間までかかってしまったというわけである。


「思った以上に私たちの部屋は忙しかったですね……しかし、これもお城に比べれば、まだましなほうです!さて!ラスト1階行きましょうか!」


ここからが本番である。

1階には2階と違い、お皿やトイレ、脱衣所など細かい繊細な作業が求められる。

私は何回もお皿を洗う時、持った瞬間、握力で割ってしまっている。

皿を割らずに移動させるだけでも大変である。


そのせいで、1階全部終わった時にはもう午後5時頃までもつれ込んでいた。


「ふう~終わりました~」


私は改めて自分が掃除したところを見て回る。

本当に新築なんじゃないか?と思うほどに仲はピカピカになっていた。


「にゃー」

「!!?この鳴き声はまさか魔物!!?」


玄関前を掃いている私は手を止め玄関の中に入る。

この鳴き声は昔、私の村を襲った魔物、エレメントウルフにそっくりなのだ。

私はゆっくりと、ほうきを持ちながらドアを開く。

しかし、エレメントウルフのような巨大な生き物はいなかった。


「確かに声は聞こえたはず……いったいどこに……」


と私は下向いた瞬間。

下には小さな生き物がいた。


「にゃー」

「この鳴き声はあなたですか?」

「にゃー」


確かに言われてみると少しトーンが違うような……気もする。


「はぁ……まったく警戒させないでください」

「にゃー?」

「それにしても……」


その小さい生き物は私の足に近づき……そのまま首を挙げて足に擦りついてきた。

目はうっとりとした表情を浮かべて。


(かわいい。とてもかわいい!こんな生物がこの世にいたなんて)


「んはあ~あ~!ヨシヨシ~かわいいー!ぁ!そっち言ったらだめ~!わしゃわしゃ!どうだ~!あ~かわいい~もっと見せて~!」

「にゃ~」

「こっちがいいの~!?もう~しょうがないにゃ~!すりすり~かわいい~!!」


完全にこの生物にとらわれてしまった私なのであった。


「ねぇねぇ!もっと~ほら~抱きついておいで~お~!きた!かわいいなぁもう!すりすり!!」

「……」

「にゃん」

「え~?なに~?どうしたの~?後ろなんか向いちゃって~……んあ”!!!?」

「えっと……フィナリア……だよね??」


帰ってきたのか、私の後ろにはみさきが目を丸くして立ち尽くしていた。


「えっと……これは……違うんです……その魔物が……出たので……退治しようと……」

「にゃ~」

「魔物退治にしてはずいぶん、撫でてるじゃん」

「……///」


顔が赤くなってしまう……

まさかここまで私の自我といいますか……理性といいますか……が飛ぶなんて思わなかった。

背後に立たれていたのに気づかないなんて……

ディア王女の護衛係失格になる。

実は私は昔からかわいい生き物が大好きで、幼いころよく森に遊びに行っては戯れていた。

けどまさか……

ここで、しかも久しぶりにそれが出てしまうなんて……


「あの2人には……」

「大丈夫大丈夫!!内緒にしてあげるよ!けどまさかフィナリアが猫が好きなんてね」

「猫っていうのですね……私昔から実はかわいい生き物が大好きなのです……」

「いいんじゃない?今まで、使用人として気を張ってばかりだったと思うから、体も娯楽を求めていたんだと思う!日本は平和だからね!」


私は撫でている猫を見る。

肝心の猫は……


「にゃ~」


うっとりしている。

可愛い。

まだまだ撫でていたい。


「まぁ、あと少しで2人戻ってくるけど……」

「!!!」


私は慌てて猫を下ろしそのまま猫の背中を押す。

猫は満足したのかその場から走り去っていった。

もう猫は来ませんように……けど来てほしい……

ディア王女様とスメラ嬢がいるときは来ませんように。


私はその後、風呂に入りずっと布団で丸くなり、2人にばれないよう小声で、可愛かったを連呼していたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る