ボス戦を終えて
「と言うわけで、勝利を祝して〜ファンファーレいっきまーす!」
コトは変形ギターから演奏用のテラキャスに持ち替え、昔有名だったRPGの戦闘勝利BGMのワンフレーズを演奏する。
ずっと重く歪んだ音色ばかり聴いてたからか、鋭くエッジの利いたサウンドがより尖鋭に聴こえる。
それとコトのギターアレンジが素直にカッコいい。
VRゲーだと基本BGMが存在しないから、ちょっとだけテンションが上がる。
プレイ中、様々な楽曲を楽しめるってのは、ディスプレイゲーの良い文化ではあるよな。
「いえい!」
演奏を終えると、コトが俺を向いて右手を挙げる。
俺も右手を挙げると、パンッ、とハイタッチを交わした。
「それにしても……マジで勝てるとは思いもしなかったな」
「だよねー。正直言うと、ボスが出てきた時はデスを覚悟してたよ。トラップ踏んで動揺しちゃってたし」
「だろうな。というか、コトはやらかした時に落ち込みすぎだ。もっと気楽に構えても問題ないと思うぞ」
図太いようで意外と繊細なんだよな。
まあ、そこが良いところでもあるんだけど。
「……そうかな?」
「ああ。失敗しても、いつも俺を振り回してる時くらい図々しくいてくれた方が俺としても気が楽だ」
「ねえ、それフォローになってないんですけど。その言い方だとアタシがワガママみたいじゃん」
「いや、普通に我が儘だろ」
そもそも、俺がこのゲーム始めたのもコトが強引に誘ったのが原因な訳だし。
コトは咄嗟に反論しようとするも自覚があるからか、ぐぬぬと歯噛みするだけで留まっていた。
「……ま、いつもそれくらいが丁度いいってことだ」
言って、俺はフロアの真ん中に向かって歩き出す。
巨大シャコ——正式名称は白碧の青龍蝦だったか——を撃破したことで、中央に魔法陣が展開されていた。
恐らく帰還用のものだろう。
他に帰り道もなさそうだしな。
「あ、ケイ。待って!」
途中、コトに呼び止められて振り返ると、
「帰る前に記念撮影するよ! 折角、綺麗なところに来たわけだしさ!」
「……はいはい」
ちょっとだけ面倒だなとは思いつつも、どことなく安心感を覚える。
それにさっき我が儘で良いなんて言った手前、断るわけにもいかないので少しだけ付き合ってから街に戻ることにした。
グラシアに帰還し、道具屋の前を通りかかった時だ。
「——あ、そうだ。ケイ、ダンジョンで手に入れたアイテムどうする?」
コトがふと思い出したように訊ねてきた。
「アイテム?」
「うん。ほら色々ゲットしたじゃん。モンスターの素材とか、ダンジョンのクリア報酬とか」
「……ああ。そういやそうだったな」
インベントリを開き、ダンジョンで入手したアイテムを確認する。
「まあ……全部売却でいいだろ。俺らが持ってても使い道ねえし」
「ケイならそう言うと思ったよ。アタシもそれでいいかなーって思ってるんだけど、ボスの撃破報酬で手に入ったレアそうなやつはどうするつもり?」
「そうだな……」
確か、月下真煌の腕輪と無空衝打の書……だったか。
一応、効果は確認しておくか。
————————————
『月下真煌の腕輪』
・STR+20、VIT+20、INT+20、RES+20
・月光を浴びている間、HP自動回復、MP自動回復量UP付与
・空きスロット
『無空衝打の書』
・使用することでスキル無空衝打を習得
・スキル効果:強力な打撃攻撃+周囲に衝撃波を飛ばす+前方へ空気の弾丸を放つ
————————————
うん、普通に強そうな……というかめちゃくちゃ優秀な効果だな。
四種のステータスが20も上がって、条件付きとはいえリジェネがついて、おまけに何やら拡張性もあるってかなり優秀な装備じゃねえか?
それと無空衝打の書——これって多分、巨大シャコが繰り出してた強烈パンチのことだよな。
遠近どちらも対応可能だったあの技が使えるようになるって普通にやべえな。
——でもまあ、最初から答えは決まってるんだけど。
「どっちも売る。俺らの目的とは関係ないし」
言い切ると、
「やっぱそう言うかー。ケイのそういう思い切りの良さは凄いし、長所だと思うんだけどさ、それはちょっと考え直さない?」
「……売ることをか?」
「うん。だってわざわざガロちゃんから無理してまで武器を新調したのって、格上相手でも戦えるようにする為じゃん。借金返済も大事だけど、折角強い装備が手に入ったんなら有効活用するべきだよ。今後を見据えるなら尚更ね」
……確かに、コトの言うことも一理ある。
というか、普通に考えればそっちの方が賢明か。
攻略に興味が無いとはいえ、大陸移動する際にはダンジョン攻略が必須になる。
DEX極振りを継続する以上、他の四種のステータスを補える装備はあって損はないどころか戦力の底上げになるし、俺も遠隔攻撃できるようになれば戦術の幅は大きく広がる。
(——流石に金策優先して売るって判断は、浅慮が過ぎたか)
急がば回れ、なんて言葉もある。
ここは素直にコトの意見を受け入れた方が良さそうだ。
「……そうだな。ボスの撃破報酬は、このまま持っておくとするか」
「うんうん、その方が絶対良いって。ま、アタシはスキルの書は売るけど」
「おい」
「だってアタシの戦闘スタイル的に合わないし」
「ギターでぶん殴れば良いじゃん。物理的な破壊もロックなんだし」
「そんなロックは求めてません! ほら、売りに行くよ!」
コトに腕を引っ張られるように道具屋に入店し、今日の探索で手に入れたアイテムを売り払った後、その日はログアウトしたのだった。
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