試奏と契約
「わあっ、凄いよこのギター! これ、クロックイレブンのギターのシグネチャーモデルとそっくりじゃない!?」
「……うわ、マジじゃん。めっちゃ完成度高えな」
濃淡の入り混じった緑のボディが特徴のPLS系のギター。
シャープでかつ力強いサウンドの出せる第三の王道ブランドなんて言われている。
「二人とも目の付け所が良いわね。もしかして、楽器経験者かしら?」
「はい! アタシはギターでケイはドラムやってます」
「なるほど。通りでリアル寄りの楽器ばかりに視線がいってたわけね」
まあ、ゲーム攻略は眼中に無いしな。
重要なのは性能よりも見た目と音だ。
「あーっ! ケイ、見て見て! このギター、テラキャスだよ!」
好物を前にした子供みたいにコトがキラキラと目を輝かせる先にあるのは、平らで厚い板をぶった切って作ったような無骨な黒いボディのギターだ。
小ぶりな片側六連のヘッド、大小二基のピックアップ、3wayのセレクタ。
完全にテラキャスの特徴と一致している。
「ひゃあ、ゲーム内でもテラキャスに触れるとか感動!」
「お前、無類のテラキャス好きだもんな」
「良かったら、試しに弾いてみても良いわよ」
「え、いいんですか!?」
「ええ。好きなだけどうぞ」
「なら、遠慮なく」
餓狼丸からギターを受け取り、コトは近くの椅子に腰を降ろす。
「……あ、そうだ。念の為。スラップしても大丈夫ですか?」
「問題ないけど……」
「ありがとうございます。じゃあ……!」
弦が力強く叩きつけられると、テラキャス特有の鋭いアタック音にコシのある低音域が響いた。
そのまま弾いているのに、アンプを通したような音色がしたことに少しだけ驚く。
それはコトも同様だったが、すぐに気を取り直してギターを弾き続ける。
グルーヴ感のある十六分のフレーズを一巡させた後、次に繰り出すのは人差し指をピックのようにして弾く高速のカッティングとスキッピングを織り交ぜた疾走感のあるリフ。
これぞテラキャスといった歯切れの良い高音域が耳を突き抜ける。
最後にもう一度、跳ね感満載のグルーヴのスラップで締めると、コトは満足げに手の甲で額の汗を拭う仕草をしてみせた。
「ふい〜、弾いた弾いた! 滅茶苦茶私の好みの音だよ、これ!」
「おコトちゃん、凄いじゃない! とっても上手よ!」
「えへへ、ありがとうございます!」
目を丸くしてパチパチと拍手を送る餓狼丸に笑顔で応えるコト。
俺はいつも部室で聴いているから慣れているが、初見でコトの演奏を聴いたら驚くのも当然か。
贔屓目無しにしてもコトの演奏技術は高校生レベルじゃないし。
なんならそこらの大人よりも段違いでコトの方が上手いまである。
「本当に凄いわね。まるで日本刀のような切れ味のある音色だったわ!」
「そんなに褒めたって何も出ないですよ〜♪ あ、そうだ! このギター気に入ったので買いたいんですけど、幾らくらいします?」
コトが訊ねると、餓狼丸の表情に翳りがかかった。
餓狼丸は、少し言いあぐねるように逡巡したが、申し訳なさそうに答える。
「そうねえ……。初めてのお客さんだし、安くしたいのは山々なのだけど……それでも十五万ガルといったところかしら」
「ガッ!! ……じ、じゅう、ごまん!?」
「ええ。一応、商売なものでね。これでも二割カットしてるのよ……」
一応、メニュー画面からステータス画面を確認してみる。
————————————
PN:ケイガ Lv.5
所持金:2254ガル
ジョブ:音楽士/適正:打
パラメーターポイント:30
スキルポイント:30
【パラメーター】
HP(体力):30(0)
MP(魔力):15(0)
STR(筋力):10(+4)
VIT(頑丈):10(+5)
INT(知力):10(+3)
RES(抵抗):10(0)
DEX(器用):110(0)
AGI(敏捷):10(0)
LUK(幸運):5(0)
【装備】
武器(左右):入門用のバチ
武器:装備不可
頭:-
胸:村人の服
腕:-
腰:村人のズボン
脚:村人の靴
アクセサリ:-
【スキル】
・対魔の調べ【打】
・渾身一打
————————————
……余裕で足んねえな。
仮に折半するにしても、これの三十倍以上の金を集めなきゃならない。
というか、俺も地味にレベル上がってたんだな。
後でパラメーターポイントってのを割り振っておかないと。
隣ではコトもステータス画面を開いており、確認を終えると涙目でこっちを向いてくる。
「ケイ〜!」
「言っとくが金は出さねえぞ。自分で貯めろ」
「ぶー、ケイのケチー!!」
「はいはい」
適当に流しつつ、俺は餓狼丸に訊ねる。
「……すんません。一括では払えないっすけど、分割で払うことは可能だったりしますか? 頭金として俺らの所持金全部ここに置いていくので」
「あら、出さないと言ったばかりなのに。優しいのね、貴方。でも……それじゃあダメね。担保になるものが足りないわ」
「だったら、どうすれば……?」
「これにサインをしてくれるかしら?」
餓狼丸がメニューを操作し、インベントリから取り出したのは一枚の羊皮紙だ。
「これは……?」
「
「……だってよ。どうする、サインするか?」
「うん、する!!」
即答するコトに対し、餓狼丸は苦笑を浮かべる。
「ありがとう。……でも、おコトちゃん。即決してくれるのは嬉しいけど、時には慎重になることも必要よ。もし、あたしが悪い大人だったら酷い契約を持ちかけるかもしれなかったんだから」
「……ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。アタシ、人を見る目には自信がありますし、本当に危ない時はケイが引き止めてくれますから!」
眩しい笑顔でコトが応えると、餓狼丸は微笑ましいものを見るようにしてフッと目を細めた。
「……ケイくん、とても信頼されているのね。分かったわ。それじゃあ、これから条件を記載するからちょっと待っていて頂戴。それと、おコトちゃんは自分でも契約内容にちゃんと目を通すのよ」
そして、キーボードウィンドウを呼び出し、
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