第13話 レベル8

 今度は、オレが首を横に振ってイザベルの言葉を否定する。


「それこそ大きな間違いだ。オレのことを過大評価している。パーティの実力ってやつは、実力者が1人パーティに入ったからって劇的に上がるようなもんじゃねぇ。ましてや、オレは戦闘じゃなんの役にも立たないただのポーターだぜ? オレがパーティに入ったところで、なにも変わらねぇよ」


 認めるのは癪だが、クロヴィスたち『切り裂く闇』をはじめ、オレをパーティから追放した冒険者パーティは、相応の実力を持っていた。レベル6以上に至ったのは、彼らの実力があったからだ。オレは少しのアドバイスをしただけ。オレにできるのはそれくらいだ。


「いいえ。この場合、貴方が自分のことをどう評価していようが関係ないのよ」

「あん?」


 よく分からねぇな。イザベルはなにが言いたいんだ?


「つまり、どういうことでしょう?」


 エレオノールもイザベルの話が見えないのか、小首をかしげている。


「大事なのは、周囲の評価なのよ。この冒険者の聖地とまで呼ばれる王都でも3人しかいないレベル8認定冒険者“育て屋”のアベルさん?」

「うそっ!? レベル8っ!?」

「高名な方とはイザベルから聞いていましたが……まさか、それほどとは……」

「すごぃ……」


 イザベルの言葉に、ジゼルも、エレオノールも、ひょっこりと顔を出したリディも驚愕の表情を浮かべる。どうやら、知らなかったみたいだ。


「すごいでしょっ!」


 そして、なぜかクロエが我がことのように腰に手を当て、胸を張って誇らしげな表情を浮かべていた。


「たしかに、オレの認定冒険者レベルは8だが……」


 自分でもなぜそうなったのか理解ができないが、オレの冒険者としてのレベルは8もある。イザベルの言うように、レベル8ってのはかなり高いレベルで、かつ希少だ。だが……。


「オレはそんなスゲー奴じゃない。同じレベル8の“雷導”や“悪食”の奴を見てみろ。アイツらなんてレベル8ダンジョンを単独で攻略できるような化け物だぜ? オレがそんな奴らと同じレベルなんてなにかの間違いだ」


 当然だが、オレにそんな力は無い。オレが単独で攻略できるダンジョンなんて、せいぜいレベル2くらいだろう。まったく、なんでこんなことになっているんだか……。


「たしかに、“雷導”や“悪食”は圧倒的な強さという分かりやすいレベル8だとは思うけど、貴方もそれに匹敵する力を持っていると冒険者ギルドは認めているのよ。冒険者の育成能力という貴方の特異な力をね」

「オレのギフトはただの【収納】だ。オレにそんな特殊な力なんて無い」


 オレはイザベルの言葉を否定する。しかし、イザベルの虹の視線は、真っすぐにオレを見て離さない。


「冒険者の認定レベルというのは、たしかに個人の強さも重要だけど、どれだけ冒険者ギルドに貢献したかというのも大きな指標なの。どうして貴方がそこまで自分に対して卑屈なのかは分からないけど、冒険者ギルドは、周囲の冒険者は貴方を認めているのよ?」

「まさか……」


 オレは肩をすくめてイザベルに応える。


 イザベルにここまで言われても、オレは自分のことをレベル8に認定されるような冒険者とは思えなかったし、周囲がそこまでオレを評価しているとも思えなかった。


 オレは、マジックバッグに性能で劣るようなギフトしか持っていないただのポーターだ。これまで三度も所属していたパーティから追放されるような間抜け。皆、【収納】のギフトが便利だからオレを持て囃すが、オレよりも性能が良いマジックバッグを手に入れたら、手のひらを返したようにオレを捨てる。


 答えはもう三度も出ているのだ。


「こちらがイライラしてくるほど自虐的ね」


 イザベルはそう吐き捨てると、落ち着くためにか目を閉じて深呼吸をした。そして、見開いた虹の瞳は、再びオレを射抜く。


「いいでしょう。別の切り口からいくわ。私たちは、まだレベル2ダンジョンを攻略したばかりの未熟な冒険者パーティでしかないの。そんな駆け出しのパーティが、レベル8の冒険者を7人目としてこき使ってたら、印象最悪だとは思わないかしら?」

「ふむ……」


 今度のイザベルの言葉には頷ける部分があった。


「だが、他でもないオレ自身が7人目でもいいと言ってるんだ。ならいいだろう?」

「どうしてそこまで貴方が7人目に拘るのか分からないけど、これは貴方個人の問題ではなくて、周囲に与える影響が問題なのよ。高レベルの冒険者は、他の冒険者や王都に住む人々にとって、一種のアイドルのような存在なのよ。そんな貴方を蔑ろにするようなマネをしたら、私たちが貴方のファンから誹謗中傷を受けるわ。だから、貴方は6人目としてパーティに入るべきなの」

「オレにファンなんて居ないだろ?」


 こんな無精ヒゲを生やした冴えないおっさんがアイドルなんて冗談だろ。


「貴方は、自分を卑下し過ぎて自分を客観視できていないわ」


 そう力強く断言するイザベル。


 未熟な子どもじゃないんだ。自身の客観視ぐらいできていると思うが……。


「これ以上は私から言っても無駄ね。後は、他の冒険者や冒険者ギルドの人間に確認するといいわ」


 オレが納得いっていないのを察したのだろう。イザベルは溜息と共に疲れたように話を終わりにした。その様子は、なんだか聞き分けのない子どもを相手にした母親のようだった。

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