そのリスもどき、助けちゃダメ!〜魔法少女は百合だが、ブラックなお仕事かも?

ライデン

第1話夏休みは避暑地で

「きゃは」「きゃはははははは…」「きゃーはっはっー」


 巨大で異形いぎょうのもの達が群れて、狂ったように高笑いしている。


 街を見渡すと…ほうぼうから煙が立ち昇り、崩れていたり今にも崩れそうなビルや橋もたくさんある。車は渋滞状態で一向に動く気配がなく、道路脇から人がゾロゾロと避難中。

 子供の鳴き声。誰かの名前らしきものを叫びながらあたりをさまよい歩く大人たち。


 何かが焼け爛れたような粉塵まじりの匂い。


♠️

「ハァハァ…」

 夏の木漏れ日の下で、私・後光御幸ごこうみゆきは目を覚ました。

 いつもと違う天井。息が荒く、鼓動も速い。全身汗びっしょりだ。


 夢を見ていた。温度や湿度、感触や匂いまで感じるようなとてもリアルな夢だった。


(予知夢?……まさかね)


 ラノベとかアニメの見過ぎだろう。苦笑しつつ起き上がる。


 昨日から別荘に来ている。

 私は、ここが大好きだ。森に囲まれていて静かで、普段の喧噪けんそうを忘れられる。今朝の寝起きは、最悪に近いが。


 時計を見る。まだ朝の6時半前。中学校の夏休み中だというのに、登校時とほぼ同じ時間に目を覚ましてしまった。

 両親は、日頃の激務を代償するかのように、あと3時間は熟睡するだろう。朝食はその後だ。


(体を拭いて、森の中でも散歩しようかな?)


♠️

 服に着替えて森を散策する。人が少なく静かだということ以外にも、普段住んでいる地域より格段に涼しいという点も私がここを気にいっているポイント。空気も澄んでるし。


 舗装された道をてくてく歩いていると…


 ガサガサっ。


 草むらから何かが近づいてくる。


(鹿?猪?まさか…熊…じゃないよね?)


 ここらへんで猪や熊に遭遇したとか聞いたことがないが…。こういう時に最悪なことを想定する性分なのだ。


 私は、身構えた。



♠️

 いよいよ、私の前に何かが出てくる。


(ものによっては、ダッシュで逃げよう)


 心構えはできてる。だが、〝逃げ切れる!〟とは言ってない。自慢じゃないが、運動は苦手なのだ。足も遅いし。


 ヨタヨタと何かが出てきて、どさりと倒れた。


(大きさ的に…熊、じゃないわね)


 鹿でも猪でもない。小動物って所だろう。

 その物体を凝視してみる。茶色くて黒の縞模様。太い尻尾。


(……リス?)


 リスにしてはイメージの倍くらい縦横に大きいような。…まぁ、どんぐりとか、たくさんありそうだし。栄養過多で減量推奨なだけという線も無くは無い。


「きゅー」


 その動物——リス。あるいはリスもどきは苦しげにうめいている。リスが「きゅー」と鳴くかどうかは、知らない。


 (なんで苦しそうなの?)とよく観察してみると、ズタボロで身体中怪我だらけなのだ。何にやられたのか知らないが…爪?鋭い刃物?銃跡みたいなのもある気がする。


(人とか猟犬とかに狩られかけて、逃げてきたのかしら?)


 リスって何のために狩るんだろう??鹿や猪、熊なんかは食べるために狩るのかもしれないが…。


「かわいそう」


 狩られる理由がわからないものが倒れている。その事実はモヤモヤする。お肉は、私も食べるのだけど…リスは食べたこと無いし。多分。

 市販のものや、ファーストフードや、ファミレスのハンバーグ等にこっそり混入してるかもしれないが…。


 野生の動物に触るのも怖い。だけど、放っておけない。



♠️

 私は別荘に帰って、自分の部屋に拾ってきた動物を寝かした。


 消毒箱や包帯を持ってきて、応急処置をほどこす。


(獣医さんのところへ届けたほうがいいのかなぁ?)


 そんなことを考えていると…


「朝ご飯よー」

 母親の呼ぶ声がした。いつのまにか朝食の時間になっていたらしい。


♠️

 その日の朝食は、BLTサンドと目玉焼き。フルーツヨーグルトや紅茶だった。

 別荘で食べる晴れた日の朝食は、お庭で食べるのが我が家流なんだ。

 なんとなく、拾った動物のことは言い出せなかった。


「リスって、なんのために狩るの?」

 お父さんに聞いてみた。


「なんだい?急に」


「さっき、傷だらけのリスをみたの」


「あー…。木の実しか食べないから美味しいみたい。欧米とかではよく狩るらしいよ」

 


「フフっ、イベリコ豚みたいなものね」

 お母さんは、微笑しながら高級食材を例えにだした。


 イベリコ豚を想像すると食欲が湧いてくる。不思議なものだ。夕飯、豚がいいなぁ。トンテキあたりかな?キャベツ大盛りで、マヨネーズもたっぷり。トンカツは油っぽすぎるからノーサンキュー。


「ふーん」


「気のない返事だね」


「いや、リスって美味しいのか…と思って。でもあえて食べたいとも思わないかも。今日は散歩もしたし、部屋で宿題したり読書したりするね」


 そう言って、私はサンドイッチを食べおえて食器をキッチンに持っていった。


 あの動物は、なんとなく食べるために狩られたのではない気がする。傷が多すぎる気がするのだ。残逆にいたぶられたような…。なんで、そんなことをするのか?嫌な気分だ。


「バカンスなんだ。御幸の好きにするといい」

 お父さんは、そう答える。放任主義なのだ。


 夏休みももうすぐ終わる。宿題は…まぁ、ちょっと残ってる。ちょっとだけ、ね。


(怪我は、そんなに早く治らないだろうなー)


 あの動物の件は、少しだけ様子をみてから両親に相談しようと思った。

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