第69話 記者会見


 魔女の家で3日間修行し、俺はついに転移魔法を習得した。

 これで、俺はいったことのある場所なら、いつでもどこにでも転移することができるようになった。

 あとは地球に戻って、亜人症の子をこっちに連れてくるだけだ。


「よし、ひかるん、一度地球に戻ろうか」

「そうですね」


 転移魔法を覚えたので、地球に戻るのもすぐだ。

 そしてすぐにこちらへ戻ってこられる。

 またあのダンジョンを攻略しなくてもいいってことだな。


 ダンカメも返してもらって、俺たちは地球へ転移した。



 ◇



 地球の、俺の家へ転移する。

 そして、家から出ると――。

 そこには、とんでもない数のテレビカメラや、記者たちがいた。


「あへ……?」

「辻風ハヤテさんですよね……! 異世界はどうでしたか!? 取材させてください!」

「ちょ、ちょっと……!」


 とんでもない人の海に、俺は戸惑う。

 やべえ、このままじゃ、外に出ることもできん。

 まあ、でもそりゃあそうか。

 世界初、ダンジョンを攻略し、異世界にいった男だもんな。

 そりゃあ、これくらいのことにもなるか……。


「辻風ハヤテさん、チャンネル登録者1000万人おめでとうございます!」

「えぇ……!? そんなにいってたんですか……!?」


 記者から言われて、初めて知る。

 そういえば異世界にいってから自分のチャンネル登録者確認してなかったな。


「ひかるん、異世界はどうでしたか……!? ひかるんは亜人症なんですか……!?」

「え、えーっと……困ります……」


 ひかるんもマイクを向けられるが、困惑するばかりだ。

 このままじゃ、らちが明かない。

 とりあえず、俺はこの場を離れることにした。


「ちょ、ちょっと……これ以上は困ります。いったん、転移……! えい!」

「あ、ちょっと……! 辻風さん……!」


 俺は転移をつかった。

 そして、とりあえず、最寄りのネカフェへと移動する。

 顔を隠しながら、ネカフェの広めの部屋をとる。


「はぁ……。とんでもないことになってるな……」

「もう、普通に生活できませんね……」


 とりあえず一息つく。

 そしてネカフェのパソコンで、いろいろニュースを調べてみる。

 ここ数日地球にいなかったからな。

 向こうでも一応スマホは使えたが、腰を落ち着けてニュースを見るのは久しぶりだ。


 さっそく、さっきのことが記事になっていた。


【辻風ハヤテ氏とひかるん、異世界から帰還か!?】


 うーん、仕事がはやい……。

 他にもいろいろ、自分のことについて調べてみる。

 どうやら、俺とひかるんは世界中で超有名人になっているみたいだ。

 亜人症の子を向こうに連れていこうと思って戻ってきたが、これは日常生活を送るのにも一苦労だぞ……。


 とりあえず、どうすればいいかひかるんといろいろと相談する。

 そして、俺たちは一度記者会見をすることにした。

 いろいろ憶測で嗅ぎまわられるより、こちらからきちんと説明したほうがいいだろう。

 ということで、大手のテレビ局に電話をかけて、記者会見をセッティングしてもらう。


 記者会見は、今日の6時からとなった。

 俺たちは約束の時間に、テレビ局へと転移で出向く。


 記者会見がはじまる。

 多くのカメラが向けられ、世界中へと配信されている。

 俺は、緊張しながらくちを開いた。


「えーっと、辻風ハヤテです。今日は、異世界であったことについて、話します。配信でも一部知っているとは思いますが、俺の口からあらためてお話します」


 視線が集まる。


「俺たちが異世界にいった理由、それは、亜人症の子を治すためです。亜人症は、0歳から5歳の子供に突然、発症する、原因不明の病です。それは、ダンジョンがこの世界にあらわれた15年前から起こるようになりました。亜人症の子は、20歳までに死にます。運が悪ければ、15歳でも死に至ります。ひかるんだって、いつまで元気でいられるかわからない……。亜人症の寿命は、テロメアによって20歳までということがわかっています。このことは、みなさんご存じのとおりです」


 記者の一人が、挙手をして質問を投げかけてくる。


「それで、亜人症の寿命の原因はわかったのですか?」

「ええ、亜人症の寿命の原因は、魔素という物質の不足でした。これを解決するための方法もあります。詳しくは言えませんが、異世界にいけば、魔素を注入してもらい、解決することができます。そこで、私は提案します。世界中の亜人症の子を、私が異世界に連れていき、治療します。賛同していただける亜人症の人は、すぐにでも向こうに連れていきます。費用はいりません。ぜひ、連絡をお待ちしております」

「そ、それはつまり……。亜人症の子をボランティアで治療するということでしょうか……!?」

「そうです。俺はなにも求めません。俺は、亜人症の子の寿命を延ばしたいだけです」


 俺がそういうと、会場は拍手に包まれた。

 すぐに、テレビ局の電話対応がいっぱいになったという。

 世界中で、亜人症の子は526人いる。

 一人ずつ異世界に連れていって、治療したとして、2,3日はかかるだろう。

 下手をすれば、1週間、いや、もっとかかるかもしれない。


 一日に使える転移魔法の回数にも、限度がある。

 俺の魔力量的には問題ないのだが、転移魔法には魔素が必要だ。

 なので、俺も定期的に魔女から魔素を注入してもらう必要がある。

 魔素の注入はかなり体力もいるし、そう何度も行えるものではないらしい。

 それ相応に、身体に負荷がかかる。

 だけど、俺は全員の治療が済むまでは、転移を繰り返すつもりだ。


 それから数か月して、完全に亜人症の子たちへの魔素の注入が終わった。

 俺は国連や、医療団体から表彰されることになった。

 アメリカ大統領や、天皇陛下からも賞状をもらい、会食をすることになった。

 噂では、ノーベル平和賞の候補にもなっているらしい。


 あと、魔女はあれから、ダンジョンへの魔素の注入も行っている。

 亜人症の子が生まれるのは、ダンジョンから魔力が漏れ出たことで、地球の空気に魔力が含まれるようになったせいだ。

 そして、魔素がないせいで、寿命の短い子が生まれてしまう。

 だから、ダンジョンにあらかじめ魔素を注入しておくことによって、地球にも魔素を送ろうということらしい。

 そうすることで、今後生まれてくる亜人症の子たちの寿命を、あらかじめ伸ばすことができるという。

 つまり、今後はいちいち治療しなくてよくなるそうだ。

 ただ、魔女曰く、このダンジョンを魔素で満たすには、かなりのエネルギーが必要だそう。

 だが、自分のまいた種だから、根気強くやるとのことだった。


 これにて、亜人症については一件落着、となった。

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