第61話 通りすがりの、辻ヒーラーですよ


 商人ハモンドに連れられて、俺たちはルグドという街までやってきた。

 ルグドはさまざまなギルドもあり、この国では主要な町のひとつらしい。

 街について、ハモンドや獣人とわかれて、俺とひかるんは二人になる。


 ちなみに、おもちはいつものように俺のあたまの上に乗っかってる。

 おもちはほとんど水分と空気でできているので、軽くてぜんぜん重くない。

 だいふくといなりは小さくなって俺たちのうしろをとことこ歩いてついてきている。

 よもぎはさすがに子供とはいえ、ドラゴンなので街の中に入ったらクソ目立つ。

 よもぎは村のときと同じように、上空を目立たないように飛んでついてきてもらっている。


 とりあえず、大通りを歩いてみる。

 

 どこも見なれない建物ばかりで、さすがは異世界って感じがする。

 村はまあ、原始的な木造の家ばかりだったが、町となると、建築様式ひとつとってみても、異国感がすごい。

 異国っていうか、異世界だけど。

 ヨーロッパのそれに似てはいるが、決定的に異質な感じがする。

 建築のことについて詳しくは知らないが、どこかやはり地球のものとは決定的に違っていた。


 街の人たちの顔や服装も、独特だ。

 出店に売られている食べ物や物品も、ぜんぜん見たこともないものばかりだった。

 それらをカメラがとらえて、コメント欄も盛り上がる。


『うおおおお異世界の街来た!』

『なんだこの食べ物……!?』

『ぜんぜん違う国って感じだな……』


 とりあえず、情報を集めるには冒険者ギルドにいくのがいいときいた。

 他にも情報屋などもあるようだが、それには金が必要だ。

 他にも、異世界にまだ滞在するのなら、宿や食事の用意も必要となってくるだろう。

 そうなれば、やはり金はいりようだ。

 魔女を見つけるためには、とりあえずこっちの世界の金がいる。


 異国のなんの身分もない俺たちがてっとりばやく金を稼ぐには、冒険者がてっとりばやいらしい。

 そう言った面からしても、やはり冒険者ギルドだ。

 俺とひかるんは街行く人にたずねながら、冒険者ギルドをみつけてやってきた。

 冒険者ギルドに入ると、そこにはファンタジーな、いかにもな感じの装備の冒険者たちがいた。


 いちおう、俺たちの世界にもダンジョンはあり、探索者はいる。

 だけど、俺たちの世界の装備品は、そこまでファンタジーな感じじゃなく、どこか現代的だ。

 それに、どうしても日本人がきるとコスプレ感が出てしまう。

 だが、こっちのは天然もの、やはり本場という感じがする。


『うおおおおマジもんの冒険者だ!』

『すげえ、怖い……』

『ガラ悪いなw』

『みんな酒のんでて草』

『強そうなやついるな』


 冒険者ギルド、みんな昼間から酒を飲んだり、ギャンブルしたりしている。

 でも、どこかにぎやかで楽しそうな雰囲気がある。

 なんだろう、この感じ、どこかで見たことあるな……。

 あ、そうだ。

 モンスターファンター、通称モンファンに出てくる集会所に似ているな。

 そんなことを思いながら、俺は冒険者ギルドの中に入っていく。

 

 まずは冒険登録が必要らしい。

 俺たちはギルドの受付嬢に話しかける。

 まあ、異世界転生ものなどでもよくある、お決まりの展開だ。

 てか、こっちの世界の身分証とかないけど、いいんだろうか?


「あの、冒険者登録をしたいのですが……」

「はい、ではこちらの書類に必要事項を記入してください」


 俺たちはとりあえず記入しようとする……。

 翻訳こんにゃくのおかげか、文字も意識せずに書くとすらすらと異世界の文字になった。


 それから、


「では、次に魔力を測りますので、こちらの水晶に手を……」

「は、はい……」


 なんか、どこかで見たことのあるやり取りなような……。

 こういうの、異世界ものの漫画ではお約束だよな。

 まさか自分がそれをやることになるとはな……。


 まずはひかるんから、水晶に手をやる。


「えい!」


 すると――。

 水晶は真っ赤に輝き、ヒビがはいった。

 受付嬢が驚きの声をあげる。

 オドロキオドラデク!


「す、すごいです……! これはギルド始まっていらいのことですよ……!? 魔力10万までは測れるこの水晶に、ひびが入るなんて……!」

「あはは……なんか、私やりすぎちゃったみたいです……?」


 ひかるんは、そもそもが優秀なダンジョン探索者で、魔力も申し分ない。

 それに加えて、俺にテイムされたことで、かなり魔力も増しているのだろう。

 異世界人の魔力の多さの基準がわからないが、こっち基準でもひかるんはすごいようだ。

 で、次は俺なわけだが……。


「いやな予感がするなぁ……」


 俺はおそるおそる、水晶に手を置いた。

 すると――。


 ――ズドーン!!!!


「は………………?」


 水晶からは謎の光線が飛び出した。

 謎の光線は、ギルドの中を駆け巡って、壁に穴を開けたりした。

 後ろのほうで飲んだくれていたモヒカンのおっさんのモヒカンを焦がしてしまった。

 すまん……おっさん……。


『なんかビームでてて草wwwwwww』

『辻おじwwwwwww』

『やべえええwwww』

『おいおい、ギルド破壊するなよwww』


 コメント欄にツッコミを入れられる。

 受付嬢さんは、口を大きくあけて言葉を失っていた。

 あーこれ、あれだわ。

 なんか、美寄教授が言ってたな。

 俺がテイムすると、テイムしたモンスターの魔力の分、俺の魔力もあがるのだとか。

 てことは、俺の魔力は今、ひかるん、おもち、だいふく、いなり、よもぎの分上乗せされているから……こんなとんでもないことに……。


「あ、ありえません……こんなこと……!」

「すみません……ギルド、破壊してしまって……」

「いやいや、そんなのどうでもいいですよ! いや、どうでもよくはないですけど……。あ、あなたたち……いったい何者なんですか……!?」


 何者なんですかときかれたら、異世界人ですと言うほかにはないだろうな。

 だが、そんなこと正直に言えるわけなく。

 俺は、こういうほかになかった。


「通りすがりの、辻ヒーラーですよ」

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