第31話 あー死んだわコレ……


 おもちとだいふくの元気を回復させるためには、ダンジョンにいかなければならないらしい。

 二匹は俺と一緒にいるために、普段は人間のエリアでいっしょに生活している。

 だが、彼らにとってみれば、ダンジョンこそが故郷なのだ。

 そりゃあ、ダンジョンにいたほうが元気にもなるよなぁ。

 

 ということで、今日はダンジョンにやってきたよ。


「先輩! 今日は頑張りましょう!」

「おう! お前の戦力には期待してるからな!」


 後輩の駆動区カレンも一緒だ。

 今日はダンジョンでカレンとコラボ配信をすることになっている。

 俺だけでダンジョンに潜るのはどうにも不安だったからな。

 それに、カレンとはもっとコラボをしようと話していたところだ。

 カレンは底辺ダンチューバー時代から、ダンジョンに潜る配信を主にしていた。

 なので、それなりに戦えるのだ。


「よし、さっそくいくぞ!」


 まずは上層からの攻略だ。

 とはいっても、別に中層や下層にまでいこうという気はないんだけれど。

 目的はあくまで、おもちとだいふくを運動させ、魔力を回復することだ。

 それに、カレンも中層クラスまでしか戦えない。

 下層まではまずいかないだろうな。


『おおー今日はダンジョンからの配信かー』

『気をつけろよー』

『おもちちゃんとだいふくちゃんのためにダンジョン潜るらしいな』

『まじかさすがは辻おじ。優しいな』

『おもちちゃんだいふくちゃん元気だせー!』

『カレンさん応援してます』


 そんなコメントが流れる。

 俺とカレンの恋仲を噂するようなものはないようだ。

 やはりな。

 カレンとのコラボはまたしても成功のようだ。


 コメント欄に応援されながら、俺たちは上層を進む。

 上層の敵はカレンが難なく倒していく。


「さすがだな、カレン。やるな」

「まあ、このくらいは余裕ですよ」


『おおーカレンさんすごい!』

『カレンネキは強いからな』

『おじさんなんもしてなくて草』


 うるせえ。

 カレンもチャンネル登録者がかなり増え、今や15万人ほどだ。

 コメント欄にはカレンのほうのファンも多くやってきていた。


 ダンジョンの広いところまでやってくる。

 おもちとだいふくは、そこらじゅうを駆けまわった。


「はは、よろこんでるな」

「二匹が元気になって、よかったです」


 洞窟のエリア内を、二匹は我が家のように駆けまわる。

 ていうか、もともとこいつらの我が家か。


「ぴきゅー!」

「がうがうー♪」


 やっぱり、ダンジョンがいいんだな。

 そりゃあそうか、モンスターはダンジョンで生まれて、ダンジョンで死んでいく。

 今まで俺の家で暮らしていたのがおかしかったんだ。

 もしかしたら、二匹のためにもこいつらはダンジョンで暮らすべきなのかもな。

 俺は腰をおとして、二匹と同じ目線になって問いかける。


「なあ、お前たちがそうしたいんなら、このままダンジョンで暮らしてもいいんだぞ? 俺のことは置いておいてさ。今までいっしょにいて楽しかったけど……お前たちがそうしたいんなら……」


 俺がそう言うと、

 二匹は俺の言葉を正確に理解しているのか。

 俺の言葉を遮るように鳴きだした。


「ぴきゅいー!」

「がうがうー!」


 そしておもちは俺のひざの上にのってきた。

 だいふくも俺のひざに体をすりすりしてくる。

 どうやら二匹は、俺と離れる気はなさそうだ。


「はは……そうだよな……。ありがとう。俺も、お前らとまだ一緒にいたいよ」

「きゅいー!」

「がうー!」


 どうやら二匹とも、ダンジョンで暮らすことよりも、俺と暮らすことを選んでくれるみたいだ。

 ほんとうに、俺は愛されていて幸せだな。

 二匹のことがとっても可愛くて、愛おしい。

 コメント欄も、感動的なこの光景に、盛り上がりを見せる。


『おおー! 主愛されてる!』

『やっぱご主人と一緒がいいよな』

『かわいいなぁ』

『俺も愛されてえよ』

『おもちとだいふくは離れたくないってさ』

『おじさんと一緒がいいよねぇ』


 そんな微笑ましい光景もつかの間。

 ダンジョンの奥から、なにやら不穏な音が響いてくる。


 ――ドーン。

 ――ドーン。


「なんだ……!? 急に……」

「わかりません……先輩、下がってください」


 すると、ダンジョンの奥から現れたのは、巨大なオーガだった。


「オーガ……!?」


 オーガはグレートオーガよりはまだましな部類だ。

 しかし、それでもオーガは下層のモンスターだ。

 グレートオーガが下層最強格だとすれば、オーガは下層の雑魚モンスターといったところか。

 それでも、今の俺たちにはオーガですらなすすべがない。


「イレギュラー……!?」


『うおおおおおおおおおおお!? イレギュラー来た』

『二人とも逃げて!』

『これはまずいって』

『なんでイレギュラー!?』

『おじさん運悪すぎ』

『あー死んだわコレ……』

『上層にオーガとかヤバい……』

『死ぬ死ぬ逃げろ』


 これは……まずいな……。

 俺はろくに戦えないし、カレンも下層のモンスターなんか相手にしたことないだろう。

 おもちとだいふくもいるし……二匹に怪我をさせるのだけは避けたい。

 くそ……どうすれば……。

 逃げるか……!?

 いや、逃げれるのか……!?


「先輩、私の後ろに下がってください……!」


 カレンは俺の前の立ちはだかる。

 どうやらオーガと戦う気らしい。


「やめろ! 無理だ! 逃げるぞ……!」

「でも……! オーガは早いです! 私がひきつけるので、先輩はおもちちゃんとだいふくちゃんを連れて逃げてください!」

「馬鹿……! お前はどうすんだ……!」

「私は攻撃をくいとめながら逃げます!」

「無理だ……!」


 そうこうしているうちに、オーガはどんどん迫ってくる。


「オガーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「先輩……! 私が守る……!」


 確かに、オーガは動きもはやく、とてもじゃないがこのままおもちとだいふくを連れて、二人で逃げるのは無理そうだ。

 しかし、カレンが……。


 カレンは、迫りくるオーガに立ち向かう。


「オガ―!!!!!」

「きゃあ……!」


 オーガの攻撃で、カレンが吹っ飛ばされる。


「カレン…………!!!!!」


 

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