第29話 私ともデートしましょうよ


【ひかるんとの写真みましたよ。大変でしたね……】


 サリナさんから、そんなLINEが届いていた。


【ええまあ、ありがとうございます。なんとかなりましたよ……】


 サリナさんから来た次のメッセージで、俺は飲んでいた紅茶をこぼしてしまう。


【じゃあ、私ともデートしましょうよ】


「ぶふーーーーーーーー!!!!」


 俺は盛大に紅茶を噴き出す。

 なにが「じゃあ」なのか全然わからない。

 サリナさんとデート……!?

 それなんてご褒美ですか……?



 ◇



 と、まあそんなやり取りが昨夜あり……。

 俺はサリナさんとデートすることになってしまった。

 おもちとだいふくを連れて、駅前で待ち合わせする。

 俺はまたしても着なれないスーツ姿で、駅前で突っ立っている。


 おもちとだいふくを連れてこいというのは、サリナさんからの指示だった。

 まあ、きっとサリナさんも愛犬のマロンを連れてくるのだろう。

 しばらく待っていると、マロンを連れたサリナさんが現れた。

 サリナさんはめちゃくちゃおしゃれな恰好をしていて、俺なんかとは不釣り合いなほどだった。


「お待たせしました」

「い、いえ……俺も今来たところです」


 などと、お決まりのセリフを交わす。

 今来たというのは真っ赤な嘘である。

 真っ赤な嘘というのは比喩で、嘘に色はない。

 俺は1時間も前から駅前で待っていた。

 またしても楽しみにしすぎだろ、俺。


「ていうか、スーツ姿なんですね笑」

「え、ええまあ……デートって言われたんで……」

「デートだとスーツなんですか? 面白いですね」

「あはは……」


 なんだかあらかじめデートだと言われていると、こうも緊張するものかと思う。


「それで……なんで今回はデートに誘ってくれたんですか……?」

「ああ、それはですね。そのほうが、炎上対策にもなるかなって思いまして」

「え……?」

「今回、ひかるんとだけデートしたから、あんなことになったんですよね。だったら、私ともデートしたらいいじゃないですか。そうすれば、ひかるんとも変な噂たたないでしょう?」

「た、たしかに……」


 ようは、俺がカレンにやったのと同じ理由だった。

 せっかくサリナさんからデートに誘われたと浮かれていたのに、そういう理由だったか……と少し肩を落とす。


「俺のために、考えてくれたんですね。ありがとうございます」

「それに。普通に辻風さんとデートしたかったのは本心ですよ? さっきのきっかけ……っていうか、自分への言い訳にすぎません。なかなかデートって誘うのハードル高いですからね笑」

「え…………」


 不覚にも、そんなことを言われて、ドキッとしてしまう。

 俺とデートしたかったのは本心って……どこまで真に受けていいのだろうか……。

 サリナさんはなかなか積極的な女性だなぁ。


「それで、今日はどこにいくんですか?」

「ドッグランです」

「ドッグラン……!」


 なるほど、だからおもちとだいふくを連れてこいってことだったんだな。

 俺たちはそこからマロンとだいふくをならんで散歩させながら、ドッグランまでやってきた。

 ドッグランにはたくさんのペットたちがいた。


「さあ、マロン! 遊んでおいで!」

「わうわう!」


 俺も、だいふくをマロンといっしょに放す。


「ようし、だいふく。いい子にするんだぞ」

「がうがう!」


 二匹が戯れる姿は非常にほほえましかった。

 他の犬たちも混ざって、非常に平和な光景だ。


「ドッグランに連れてきてくれて、ありがとうございます。俺一人じゃ、なかなかこういうところにこようとは思いませんでしたから……。だいふくも、喜んでいます」

「よかったです。だいふくちゃん喜んでくれて。ふふ」


 俺とサリナさんは飲み物を飲みながら、談笑する。

 おもちは俺の頭の上だ。

 しばらくそうしていると……。


「がうがうがうー!!!!」


 別の飼い主の犬が、マロンに吠えかかった。

 もしかしたら、犬同士での喧嘩かもしれない。

 身体の大きな犬で、凶暴そうだ。


「マロン……!?」


 その瞬間だった。

 マロンがその大きな犬にガブリと噛まれてしまった。

 マロンは足から出血する。


「わうぅん…………」

「マロン……!」


 サリナさんが急いでマロンに駆け寄る。


「がうがうがう!!!!」


 噛んだデカい犬に、だいふくが吠えておいかえす。

 だいふくに吠えられて、デカい犬はひるんで下がっていったようだ。

 すぐさまデカい犬の飼い主が現れて、血相を変えて謝罪する。


「す、すみません……! うちのブルが……!」

「ど、どうしましょう……」


 血を流すマロンを抱えて、サリナさんが不安そうな顔をする。

 俺はすかさず、マロンにヒールをかける。


「大丈夫ですよサリナさん。俺がなんとかします……! えい……! ヒール!」

「辻風さん……!」


 俺がヒールすると、マロンの傷はあっというまにふさがった。


「よかった……」

「辻風さん……本当にありがとうございます……!」

「いえいえ、当然のことですよ」


 その後、デカい犬の飼い主からめちゃくちゃ謝罪を受けた。

 デカい犬はドッグランを出禁になったみたいだ。

 まあ、マロンに何事もなくてよかった。


「だいふく、マロンを守ろうとしたんだな。偉いぞ」

「がうがう♪」


 俺はマロンを守っただいふくを褒めてやる。

 なでなでしたら、尻尾を振ってよろこんだ。


「辻風さん……今日は本当にありがとうございました……」

「いえいえ、こちらこそですよ」


 帰り際に、サリナさんからお礼を言われる。


「今日の写真、SNSにあげてもいいですか?」

「もちろんです。俺もあげますね」


 今日はみんなで、たくさん写真をとった。

 サリナさんともこうしてどうどうとデートをして写真をあげることで、ひかるんとの炎上対策になるだろう。

 特定の異性と仲良くするからガチ恋勢が騒ぐんであって、いろんな異性と仲良くしておけば、いろいろ言われることも少なくなるだろう。


「それと……辻風さん……」

「はい」

「こんどから、ハヤテくんって呼んでもいいですか……?」


 上目遣いでそうきかれて、俺は思わずドキッとしてしまう。


「も、もちろんです……サリナさん……」

「じゃあ、またデートしましょうね? ハヤテくん」

「はい、もちろん……!」


 そう言って、俺はサリナさんと別れる。

 今日は、いい日だったな……。


 SNSに写真を上げたところ、いろいろなコメントが届いた。

 どうやらさりーにゃさんにはあまりガチ恋勢というものがいないみたいで、厄介なコメントは少なかった。

 さりーにゃさんはガチ恋勢とか厄介ファンが生まれないように、うまく立ち回っているようだ。

 なんというか、けっこうサバサバ系なところがある人だからな。


 サリナさんは、俺たちの写真とともに、以下の文面をTwitterに投稿した。


【今日は辻ヒールおじさんとデートしました!マロンが怪我しちゃったけど、ヒールで治してくれました!さすがは辻ヒールおじさん!ありがとうございます!神です!】


『お、辻おじ今度はさりーにゃとデートかw』

『辻おじモテモテだな』

『マロンとだいふく可愛い!』

『ドッグランいいね!』

『辻おじまたヒールで救ったのかさすがだな』

『ナイス辻おじ!』

『辻おじなんか堅いなw』

『さりーにゃとデート裏山』

『さりーにゃ美人だなぁ』

『マロンよかったね!』

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