第57話 案の定だよー(呆)

 予感的中、だけど困惑は普通にしてしまう。意外と近くにいるものなんだね、超古代文明からの使者さんって。

 マーテルさんという名前のその人は以前、オーランドくんのパーティーの一員としてお見かけした人だ。僕を庇ってオーランドくんを更生させようとしていた、女神級に心やさしい美人さんだねー。

 

 なんでも、オーランドくんに助けてもらったことでハーレムパーティー入りしたーみたいなことをこないだのやり取りから察することはできたけど、まさか何万年ぶりの寝起きに迷宮を遭難していたところを助けられましたーなんてのは予想外だよー。

 戸惑う僕に、シアンさんが続けて経緯を説明した。

 

「先週、ソウマくんに会った翌日です。暴言を吐いたグレイタスくんやリンダ・ガルともどもジンダイ先生からレクチャー受けた次の日に、私達はまた迷宮に潜りました」

「……そこでその、マーテルさんを見かけたと?」

「ええ。ひどく弱っていたこともありましたから、グレイタスくんは彼女をすぐさま救助しました。さすがに緊急時だと悪癖も発露せず、助け終えてから美貌に見惚れていましたね、彼」

「普段からそのくらい自重できていれば、まだもうちょい立場に見合った見られ方をしてるでござろうに。もったいないでござるなー」

 

 サクラさんが呆れた口調でオーランドくんを評する。こないだシアンさんも言ってたけど、どうやら本当に彼は私心抜きにマーテルさんを救助したらしい。

 美人と見ればすかさず手を付けにかかるコナかけ癖も、人命の前にはひとまず収まるわけだね。冒険者として立派なんだけど、言われてるように普段からそうしていてくれないかなーって言わざるを得ない。

 

 特に僕なんか8回も彼のお手つき癖で失恋してるからねー。シアンさんは誤解だったけど、うううー。思い出したら涙が出そうだよー。

 

「オーランド・グレイタス……チャールズとミランダの息子か。親バカにすっかり甘やかされて、年にも実力にも見合わぬAランクとして放蕩三昧と聞いていたが」

「概ね合ってるでござるよギルド長。少なくとも冒険者としては素人同然、意気込みとプライドだけのボンクラ息子でござるね」

「……まあ、人助けしたのは冒険者として、人として立派ですし。ランクについては、そもそもなんでギルドが認めたのかってところから疑問ですよ、ベルアニーさん」

 

 あんまりボロカス言われてるから、ついフォローに入っちゃったよー。

 サクラさんはいいにしても、ギルド長は彼にAランク冒険者ライセンスを与えた組織の長としてそこはあんまり人のこと、言えないんじゃないかなー?

 

 ちょっと気になったしツッコんでみる。偉い人相手だからってスルーするわけないんだよね、冒険者的には。

 サクラさんもシアンさんも、なんならシミラ卿もそこは同意なのかじーっとギルド長を見つめる。彼は汗を垂らして若干、焦った調子で弁明した。

 

「私じゃあない、よそのギルドでAランク認定を取らせたんだよ、あの夫妻は。このギルドだと何があってもそんなことは許容しないが、他のギルドだとままある……金を積めばSランクは無理にせよ、AだのBだのまでは認可してしまうという馬鹿な事態がな」

「ヒノモトでもそんな話は罷り通ってるでござるが、まったく呆れた話でござるよ……実力以上の評価をされたところで、ボロが出ないはずもないのに」

「グレイタス夫妻は実力、人格、評判も揃って上々のよくできたSランク夫妻だが、身内のことになると途端に馬鹿になってしまうのがな……杭打ちくんやワルンフォルース卿にも覚えはあると思うが」

「……………………」

「私からはなんとも。あの夫妻には過日、世話になっていますので」

 

 僕もシミラ卿も、そっぽを向いてノーコメントの体勢だ。

 かつての仲間を内心でどう思っていようが口に出したくはないからね……まあ、言い換えるとつまりはそうしないといけないくらいあの人達、親としててんでダメなわけなんだけどねー。

 

 調査戦隊にいた頃も常々、いかに自分の倅が可愛いか最高かひたすら主張してたもんなー。

 その時はオーランドくんがまさかこんな感じになるとは思ってなかったし、はいはいごちそうさまーって感じで他のメンバーも苦笑いで済ませていたんだけれど……さすがにギルドに金を積んでAランクライセンスを買い与えるのはやりすぎだよね。

 

「コホン。グレイタス夫妻のことはそこそこにして、件の女マーテルがオーランドのパーティーにいるのはたしかだ。そして国からは双子の代わりに、彼女を確保して持ち帰るように指示が下りている」

「研究、実験のためですか……それで、シミラ卿はギルドに協力を依頼しにでも来たとか?」

「この間の今日でそんな恥知らずなことはできるか……と言いたいがな。そこも国の指示だ」

 

 ため息を噛み殺しつつ、シミラ卿が答えた。もはや苦悩とか鬱憤を通り越した、本当になんだか吹っ切れた顔をしてるよー……

 生真面目で神経質なこの人が、こういう顔をしだすと大分危ない。調査戦隊時代も何度があったけど、腹を括るとそれまでの我慢から一転して大爆発するタイプの人だからね。

 

 たぶん、もう心境的には覚悟を決めちゃってるんだろうなー。

 それを感じ取ってか、ギルド長もチラチラとシミラ卿を伺うようにしつつ、しかし国を相手に鼻で笑って言った。

 

「双子を見逃してやるのだからマーテル確保には協力しろ、と。金も出すのだから文句はあるまい、とそういう理屈らしい。相変わらず冒険者もギルドも舐め腐ってくれているようで何よりだ」

「うわぁ」

「冒険者をなんだと思ってるんでござるかねえ」

 

 案の定って感じだけど、本当に下に見てくるなあ、国の連中。双子を見逃してやるって、あの場で見逃してあげたのはむしろ冒険者側のほうだと思うんだけどねー。

 ギルド長が明かす国の言い分に、僕もサクラさんもシアンさんも呆れた顔を隠せずにいるのだった。

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