第45話 一世一代の告白……の、はずだったよー……

 レジェンダリーセブンの一人、リューゼリア・ラウドプラウズ。かつては調査戦隊の中でも特に僕と仲が良くて、今は遠くにある海洋国家で活動してたりする女傑だ。

 あいつがどうやら僕の正体を、シアン会長にバラしていたみたいだ。うーん、やってくれやがってたよー、思わず頭を抱える。

 

「何してんの、リューゼ……5年も前のことを今言うのもなんだけどー……」

「リューゼ……リューゼリア? "戦慄の冒険令嬢"リューゼリア・ラウドプラウズさんだったのですか、あの方が!」

「……お、おそらく。調査戦隊に、オッドアイはあいつしかいませんでしたし」

「すごいです! そんな方と、そんな風にお知り合いなんですね、グンダリくん!」

 

 瞳をキラキラさせてくる会長。かわいいよー。かわいいけど、反応に困るよー。

 当たり前のように"杭打ち"をグンダリと呼んできているけど、杭打ちスタイルでそれは止めてくれと言う他ないから困る。あと、どーせ呼ぶなら親しみと愛情をたっぷり込めてソウマって呼んでほしいです、切に!

 

「あ、あの……僕の名前をご存知な理由は分かりましたから、すみませんけど今は杭打ちとだけお呼びいただけないかな、と……」

「あ……ご、ごめんなさい。そうですよね、あなたは名と姿を隠して活動してらっしゃいますものね。失礼しました」

「いえ……ご理解いただいて、ありがたいです……」

 

 会話がぎこちないー。明らかに僕を意識してくれてる感じの会長さんと、どう反応すればいいのか分からない僕とでコミュニケーションがお互い難しい感じだよー。

 暫しの沈黙。どうしたものか、少し考える。

 

 たぶん、この様子だとシアン会長は僕の正体について、隠してくれと頼めばその通りにしてくれるだろうと思う。今の今までオーランドくん達にもバレてないのが証拠だし、何より僕は彼女にとって命の恩人らしいからね。

 なんなら学校では普通にソウマくんって愛を込めて囁いてくれても全然構わないわけだし、となるとこれは、僕にとってものすごいチャンスなのではないかと思うんだ。

 

 憧れの人にして一度目の初恋の人、シアン・フォン・エーデルライト様。

 信じられないことだ。僕は今、彼女とお近づきになれる絶好極まる機会を得ているんだよー! ジワジワ沸き起こる好機の実感と期待、そして裏腹の不安と焦燥を感じ取り、一筋汗を垂らす。

 

 こ、ここは慎重にことを運ぶんだ……シアン会長との縁を、これ限りで終わらせちゃいけない。繋ぐんだ、今後に、これからの学園生活に!

 シアン会長は3年生、今年度で卒業なんだ。この機会を逃したらきっともう二度と、この人と僕がこんな風に顔を合わせる機会なんてない。だからこそ、これが最初で最後のお近づきチャンスなんだ!

 

 紛れもなく一世一代の勝負どころだ。かつてこんなにも気合いを入れて誰かと向き合うなんてしたことがない。

 怖い、嫌われるかもしれない。でも怖がってもいられない、好かれたい。

 僕のそばにいてほしい、僕とお話ししてほしい。僕もそばにいたいから、僕ももっとお話したいから!

 

 好きな人達に囲まれて、少しでも楽しい人生を、青春を生きていきたいから! 

 だから、僕は勇気を振り絞って話しかけた!

 

「あ、あの──」

「お嬢様ーっ! お嬢様、シアンお嬢様ーっ!!」

「────っ!?」

 

 ああああまさかの横槍いいいい!?

 何!? なんなの誰!? ちょっと今大事なところなんでそーゆーの止めてもらっていいですかーっ!?

 

 信じたくないタイミングでの突然の横槍。いきなり遠くから聞こえてきた叫びに目を剥き、僕はそっちを振り向く。

 猛烈な勢いで馬車がまっすぐこっちに走ってきて、御者らしい執事服の少女……男装かな? が、大きな声で会長の名を呼んでいる。

 シアン会長が、手を振ってその声に応えた。

 

「サリア! 来てくれたのね、私の執事」

「お嬢様! あなたの第一の従者サリア・メルケルスがただいまお迎えに上がりました、シアンお嬢様っ!」

「…………」

 

 すごいハイテンションで、男装した少女執事、サリアさんが僕らの前に馬車を停めた。豪華な造りの馬車に背の高い、毛並みのよく整った馬が2頭。見るからにいいお家のものだと分かる高級馬車だね。

 そして会長の下まで降りてきて跪く彼女。金髪を後ろに結って、パッと見服装もあって中性的な美少年って感じだ。誤魔化せないくらいにはスタイルが豊かだから女性だって分かるけど。

 

「よく来てくれました。いつもありがとうね、サリア」

「もったいないお言葉! ところで……こちらの方は、察するところ冒険者"杭打ち"様とお見受けしました。ついにあの日のことをお伝えできたのですね、お嬢様」

「ええ。感謝を伝えるのに、5年もかけてしまいましたがようやく達成できました。やはりこの方は私の知る中で、一番素敵な冒険者ね」

「左様でございますか。お嬢様」

 

 結果的に僕の邪魔をする形になった美少女執事さんは、会長の事情を知っているのか満足げに頷いている。

 そしておもむろに立ち上がると僕の前にやってきて、優雅に一礼して礼儀正しい作法とともに、笑顔で言うのだった。

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