第41話 初恋が蘇ったよー!?(歓喜)

 謎の美少女を助け、そのまま恋愛関係に発展していくラブストーリー。

 そんな王道のボーイミーツガールを地で行っちゃってるらしいオーランドくんとマーテルさんに、全身が震え戦慄くほどの衝撃を覚える僕は、もうそろそろいいかなとリンダ先輩への威圧を解きつつ剣から手を離し、その場を離脱しようと動き出した。

 あまりに居た堪れないのとあまりに羨ましすぎて、もう一分一秒だってこの場にいたくなかったのだ。

 

「…………」

 

 ズルすぎるよー……泣けてくるほど羨ましいよー。

 たまたま助けたのが美少女で、しかもめっちゃ好感度高くて懐いてきて?

 自分のいいところを伸ばして悪いところを諌めようとしてくれて、支えようとしてくれて? え、何それ女神か何かです?

 

 この世に神様ってやつがいるなら今すぐ出てきてほしい、全身全霊力の限りを尽くして叫ぶから、不公平だーって!

 こっちはこの3ヶ月で10回失恋してるんですよ! こないだのサクラさんへの告白だって華麗にスルーされたし、それ含めたら通算11回だ! だのにオーランドくんはハーレムパーティーを結成して挙げ句、コッテコテのボーイミーツガールー!?

 何それ何それ! ズルいよズルいよズールーいーよー!!

 

「マーテル……俺、やり直せるかな。マーテルと一緒になら……」

「やり直せます。私や、私だけでなくみんながいてくれますもの。ね?」

「っ…………」

「…………!!」

 

 ああああ僕よりよっぽど青春してるうううう!

 挫折から女の子達に支えられつつ再起するってマジそれ僕がやってみたかったやつうううう!!

 

 後ろで繰り広げられている心底羨ましいアオハル風景を、僕はとてもじゃないけど見ていられない。視界に入れたら本当に死ぬかもしれない、耳に入ってくるやり取りだけで血反吐が出そうなのにー。

 うう、うううー。僕は結局、死ぬまで一人で杭を打つしかないのだろうか? 調査戦隊の頃や孤児院以前の時期じゃあるまいし、もうそろそろ血と肉片と迷宮色でしかない青春とか嫌なんですけどー!

 

 …………でもまあ、仕方ないよねー。僕なんて、そもそも生まれ育ちからしておかしいもの。調査戦隊のみんなにいろいろ常識とか普通を教わったけど、根っこのところはやっぱり異常なんだもの。

 誰にも相手されないのも当然だよねー。うへー、しんどいよー……

 

「…………」

 

 あまりにアオハルが遠すぎて、いよいよネガティブモードに浸りかけていた僕。

 自分で自分を痛めつけるのって、密やかで昏い慰めになるんだよねー……こういうことしてるから駄目なんだって、分かってるんだけどねー。

 

「どうされました、杭打ちさん。もしかして何か、落ち込んでいらっしゃいます?」

「…………、……………………?」

 

 と、そんな時だった。唐突に声がかけられて、僕は振り向きたくもない後ろをチラッとだけ振り向く。敵意はなさそうだけど、念のため迎撃の準備を即座に整えながら。

 するとそこには、先程オーランドくんにガチ説教をかましたシアン生徒会長その人が。僕のほうに悠々と歩いてきて、なぜかやたら親しげに手を振っている!?

 

「……………………!?」

「うふふ、お帰りになられるのでしょう? ご一緒させていただいてもいいでしょうか……いろいろ、お話したいこともありますし。ね?」

「!!」

 

 まさかのお誘い! 嘘ぉ!? 一度目の初恋が不死鳥のごとく蘇ったー!?

 慌てて力強く何度も頷く僕。そんな姿に、シアン会長はクスクス笑って僕に寄ってきた。

 ああああ憧れの生徒会長が至近距離いいいい! めっちゃ綺麗でお美しいしいい匂いするし瞳が透き通るような空の色だ! うわー! うわわー!!

 

「ふふ、それでは一緒に帰りましょう……それでは皆様、私達はこれにて。今までありがとうございました」

「か、会長……!」

「し、シアン様……っ」

「さ、行きましょう杭打ちさん」

「!」

 

 最後に元パーティーに別れを告げつつ、シアン会長は僕を促した。すぐに頷き、僕は彼女と歩き出す!

 わーいデート……じゃないけど帰り道をご一緒だー! 迷宮でも学校でも帰路は帰路だし、ドキドキの青春の一幕だよー!

 

 まさに夢心地、天にも昇る心地ってこういうことかもしれない。幸せな気持ちで胸が一杯になりながら、僕はシアン会長と迷宮の来た道を戻り始めた。

 道中も当たり前ながらモンスターは寄ってこない。今日ほど威圧法を体得していてよかったと思えた日はないよ。だって迷宮の外まで会長をエスコートするのにうってつけの、安全安心の迷宮攻略法だものー!

 

「……! ……!」

「どうされましたか? 何か、嬉しそうですね?」

「! …………」

 

 人生稀に見るはしゃぎっぷりの内面が、外にも漏れちゃってたんだろうか。シアン会長が僕を見て、ひどく優しくもいたずらっぽい笑顔を向けてくる。

 ああああ嬉しいけど恥ずかしいよおおおお! すぐにスンッ……と静かにすると、何がおかしいのかまたしてもクスクスと会長に笑われてしまった。

 

「フフフッ! なんだか楽しそうで嬉しいです、杭打ちさん。お顔は見えませんが、不思議と気持ちが伝わってくるのは……あなたの素振りがそれだけ純粋で、感情表現が率直なのかなと私には思えます」

「……………………」

「誰もが大人になっていくにつれて隠したり、なかったことにしようとしたりする大切なものを、杭打ちさんはなんの衒いもなく、精一杯に表現し続けているのですね。素敵だと思います、本当に」

「!!」

 

 す、素敵! ステーキじゃなくて素敵! シアン会長が、僕のことを素敵ってー!?

 

 衝撃に次ぐ衝撃。あまりに嬉しい、夢のようなことが立て続けに起きてもう、これが夢か現実か分かんなくなってきちゃったよー……

 クラクラしそうな茹だる頭で、それでもどうにか迷宮の帰路を辿る僕と会長さんでした!

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