第11話 ドラゴンだよー

 事情も粗方分かったし、となればこんなところに長居するのもどうかと思う。僕は三人組と双子を促し、出入口へと向かわせる。

 ゴールドドラゴンについては明日にしよう。さすがにこの状況、この人達だけ返したら僕が怒られる。一応助けに入った時点でもう当事者なんだから、最低限ギルドに報告するところまではご一緒しないとね。

 

「いや、マジで助かったぜ杭打ちさん! 噂に聞いてたけどアンタ、マジ強いんだな!!」

「…………」

「あっ、そういやまだ名乗ってなかったな、俺はレオン! レオン・アルステラ・マルキゴスだ! こないだから学生しながら冒険者やってんだ、よろしくな杭打ち!!」

「…………」

 

 イケメン冒険者くんことレオンくんにちょ~距離を詰めてこられている。怖いよー。すごいグイグイ来るんだけどこの人、距離感についての考え方が僕とは違うー。

 しかも名前から察するにこの人、お貴族様じゃん。あっぶなー、余計なこと口走らなくて助かったよー。たとえば一言"馬鹿じゃないの? "とか言ってたら、下手したら後日貴族とことを構える羽目になっちゃってた。

 さすがにそれは面倒くさいしね。"杭打ち"として他人と会話する時、口数が減るのが習性になっててよかった。本当に良かったー。

 

「何やってんだお前ら、命の恩人に名乗るくらいしないと!」

「わかってるわよ! ……あー、改めてありがとね、杭打ちさん。私はそこの馬鹿の古馴染み、同じく学生冒険者のノノ・ノーデンよ。よろしくね」

「ぁ、ぁぅぅ……ま、マナ・レゾナンスですぅ……」

「…………よろしく」

 

 黒髪の子とプリーストの子もそれぞれ名乗ってくれるけど、こちらの二人は平民のようだ。お貴族ハーレムパーティーじゃないか、ウハウハしてるなあ。

 

 ちなみに同じハーレムパーティーでもオーランドくんは純然たる平民だ。でもたしか、生徒会長と副会長がお貴族様だったと記憶してるからそういう意味ではこのパーティーとは間逆なわけだね。

 おーこわ、お貴族様の令嬢を侍らせるとか、S級冒険者の息子さんじゃなかったら不審死ものだよ。それを考えると、想うだけだったとはいえ会長に懸想していた僕も大概命知らずではあったんだけどねー。

 

 出入口に着いた。まずは双子から脱出するよう言うと、ヒカリちゃん、ヤミくんの順でえっちらおっちらと穴を登り始める。

 そんな急な斜面でないにしろ、アトラクションの滑り台みたいにうねったりしてるからね、気をつけて登ってほしい。

 

「よし、じゃあ次はマナだ。今さらだけど悪かったよ、お前の制止も聞かずに……」

「ごめんね、マナ。私達が馬鹿だった。反省してるわ……」

「ぁぅ……こ、こちらこそぉ……! な、泣いてばかりでごめんなしゃいぃ……!!」

 

 順番的に次、マナちゃんを先に脱出させるらしい三人組が、何やら互いに反省しきりに謝り倒している。

 まあ、生きてるんだしいいんじゃないかなー? 死んだらそこまでだけど、生きてればいつでもそこから始まるんだし。

 

 マナちゃん、ノノさんの順で女性陣が穴を登る。殿にレオンくん、僕と続く形になるね。

 ちなみに女性陣の最後尾、ノノさんは短パンに今はモンスターの血まみれ肉まみれなので登ってる最中、見上げたところでグロテスクなものしか拝めない。残念だったねレオンくん!

 

「よし、じゃあお先に失礼するぜ、杭打ち」

「…………」

「へへっ。あんた無口だけどなんか、嫌な感じがしないから不思議だ……帰ったらステーキでも奢らせてくれよ。最高級のを振る舞うぜ」

「!!」

 

 おおっステーキ! しかも最高級とは!

 コクコクと力強く頷く。やったー! ホントに素敵なステーキだよー!

 

 依頼遂行って点では紛れもなく無駄足だったけど、これは思わぬ収穫だ。自分の金じゃあステーキなんて、二の足踏んじゃうからねー。

 助けに入ってよかったー。もう帰るのに、今からテンション上がってきたよー。今ならゴールドドラゴンの100体でも200体でもいくらでもぶち抜けそうだ。

 

「────グルゥゥゥゥゥゥゥゥオオオアアァァァッ!!」

「なっ!?」

「!」

 

 と、そんな時だ。噂をすれば影がさすというか、強烈な叫び声が迷宮に響き渡った。慣れっこの僕はともかく、レオンくんが気圧されてその場にへたり込む。

 凶悪モンスターともなればその叫び、その視線一つにも威圧を込めてくるからなー。大体地下20階を降りたあたりからは、そうした威圧に対して耐性を身に付けないと冒険どころじゃなかったりするのだ。

 

 新人さん冒険者のレオンくんは、だからこんな階層にまで足を踏み入れるべきじゃなかったんだよ。

 むしろ意識があるのが大したものなくらいだ。彼は顔を青ざめさせて、震える声でつぶやいた。

 

「こ、これ……さっきの化け物に、睨まれた時と同じ……!」

「…………」

 

 さっき襲われてた時にも似たような目に遭っていたのか。それでも生き延びているあたり、本当に運がいいなー。

 冒険者には何より必要な素質だ。どれだけ実力が高くとも、どれだけ経験があろうとも、運が悪ければそれだけで簡単に人生は終わりを迎えるんだから。

 

 やっぱり、見込みがあるなー……思わずして将来有望な冒険者さんに出会えたこと、そしてその危機を救えたことになんだか鼻が高くなるよ。

 だから、ついつい僕もこんなことを言ってしまうのでした。

 

「……見ていて」

「え、あ? 杭、打ち?」

「迷宮の深くに潜るなら、このくらいはできるようにならないといけない……一つの目標として。この戦いを、見ていて」

「……!!」

 

 今でなくともいつの日か。すぐでなくともいつか必ず。

 今度はたしかな実力を備えて、彼らがここに来ることを信じて。

 

「ぐるぅぅぅぅぅぅァァァああああああっ!!」

「…………!!」

 

 少なくとも数歩は先を行っている先輩冒険者として、僕は杭打機を構えて。

 一足に空高く、遠くから姿を見せた巨大なモンスターへと殴りかかった!

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