第12話(4)インタビュー
「クラウディア先生、本日はあらためてインタビュー、どうぞよろしくお願いします」
雑誌の編集者が頭を下げる。
「ああ、よろしく頼む……」
「ご著書の大ヒット、どのようにお感じですか?」
「まだまだ戸惑いの方が大きいな……」
「著書の中に描かれた場所を巡る、『聖地巡礼』も好評ですが……」
「『聖地』ってなんだろうかとついつい考えてしまうな……」
「そうですか?」
「ああ、これで良いのだろうかともな……」
クラウディアが腕を組む。
「ですが、つい先日、先生も参加されるツアーが実施されたそうですね?」
「そうだな」
「応募者が殺到したと聞いています」
「参加者は少ないだろうと思ったが……正直ホッとした」
「読者との交流はいかがでしたか?」
「悪くはなかったな……」
「今後、魔王軍の親善大使に任命されるというお話も伺っていますが……」
「本末転倒な気もしないでもないが……魔王様の命なら謹んでお受けする」
♢
「ザビーネ先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく……」
ザビーネが頭を下げる。
「ご著書を原作とした舞台、大好評でしたね」
「お陰様でな……毎回、満員御礼だった」
「キャスティングについてもかなりこだわられたようですね」
「まあ、自分なりのイメージがあるからな……」
「特別合宿もあったとか……」
「騎士団を演じるわけだからな、生兵法は大怪我の元とも言う。しっかりと訓練を積む必要があると感じた」
「キャストと寝食をともにしたとか……」
「寝床は別だ……やはり自分という騎士と過ごせば、役のイメージも掴みやすいだろうと思ってな。決して他意はないぞ」
ザビーネは首を振る。
「キャストの皆さんは揃って『合宿はキツかった』とおっしゃっていました」
「ついつい指導に熱が入ってしまった……」
「地方でも公演をして欲しいという声も聞かれます」
「地方巡業の旅……悪くはないな」
ザビーネが顎に手を当てる。編集者が首を傾げる。
「はい?」
「い、いや、前向きに検討したいと考えている……」
♢
「ヘレン先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「は~い、お願いね~」
ヘレンがヒラヒラと手を振る。
「ご著書を原作とした着ぐるみのショー、たいへん好評でしたね」
「ね~嬉しいことだわ」
「お客さんはお子さんが多いようですが……」
「ええ」
「ショーは見に行かれたんですか?」
「お忍びだけど、もう十回は見に行ったんじゃないかしら?」
ヘレンが首を傾げる。編集者が驚く。
「十回ですか! 原作者としてそこまでお気に召すショーだったのですね?」
「ああ、ショーはほとんど見てないのよ」
ヘレンが手を振る。
「……え?」
「いや、もちろんショーは素晴らしかったわよ、ただね、それを見る子供たちのリアクションがも~う、いちいち可愛くて!」
「ああ……」
「それを見に行っていたようなものね」
「なるほど……」
「ああいうのを見ると……」
「見ると?」
「ああ、アタシにもこんな純粋な時期があったんだな……って思うのよ」
「え、あったんですか?」
「あったわよ! ……うる覚えだけど」
♢
「ヨハンナ先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
「ご著書の大ヒットについてはどのようにお考えですか?」
「う~ん、皆さん思った以上に、人魚に対して興味がおありだったんだなって……」
「作中の人魚のファッションを真似する人間の方も増えています」
「それは嬉しい限りですわね。互いの文化への理解がさらに進めば良いと思っています」
ヨハンナが微笑む。
「先日は海の家の一日店長もされましたよね?」
「はい、しました」
「いかがでしたか?」
「貴重な経験をさせて頂いて、大変感謝しております」
「読者の方も多く詰めかけたそうですが?」
「そうですね」
「そのお陰か、記録的な客入りだったようですね」
「本当にありがたいことです……」
ヨハンナは胸の前で両手を合わせて深く頷く。
「今度は海中で海の家をオープンするという噂も聞こえてきますが?」
「ふふっ、面白いお話ですけど、安全面などで難しいかと……でも、海の中の素晴らしさをもっと知ってもらえたら良いですね……」
♢
「マルガリータ先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「お、お願いします……」
マルガリータは緊張気味に頭を下げる。
「ご著書の大ヒット、どうお思いですか?」
「そうですね、題材がマニアックかなと思ったんですが、分からないものですね」
マルガリータは笑顔を見せる。
「プロレスも人気を集めていますが、そのことに関しては?」
「嬉しい限りです」
「プロレスがさらに人気になれば、作品との相乗効果も見込めますね?」
「商業的な話はボクには分かりかねます……」
マルガリータは苦笑気味に答える。
「そうですか……」
「ただ……」
「ただ?」
「エンターテイメント業界が全体的に盛り上がれば、それはとっても素晴らしいことだと思います」
「そういえば、先日、先生自らリングに上がられましたよね?」
「え? ああ、は、はい……」
「ああいうこともまたご期待して良いのでしょうか?」
「ま、まあ、どうなるか……スケジュール次第ですかね?」
♢
「アンジェラ先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「よろしくっす!」
アンジェラは元気よく返事をする。
「ご著書の大ヒットに伴い、コラボ商品も数多く発売されました」
「そうっすね!」
「中でもお気に入りというのはありますか?」
「う~ん、やっぱり、食品系ですかね?」
「なるほど」
「美味しいから。ついつい食べすぎちゃって……」
アンジェラは苦笑しながら、自らのお腹をさする。編集者も笑う。
「確かに美味しいですよね。他に気に入っているのはありますか?」
「……抱き枕っすかね?」
アンジェラは腕を組みながら答える。
「あ~抱き枕! あちらも大好評ですよね」
「最初は正直どうかな?って思ったんすけど……」
「実際にフェンリルの毛を使うこだわりぶりが凄いなと感じました」
「実は……次も考えているんすよ」
「え? 次ですか?」
「はい、フェニックスの抱き枕っす……」
「ええ⁉ フェニックスの羽毛なんて、手に入れるのが大変じゃないですか?」
「そこはフェンリルの時と同様、信頼出来る編集者さんにお願いしたいと思っているっす」
♢
「ルーシー先生、本日はどうぞよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
ルーシーが丁寧に頭を下げる。
「まずご著書の大ヒットですが、どのように捉えていますか?」
「まだまだ実感が湧かないというのが正直な所です。多くの読者の方に届いたことは嬉しく思っております」
「周囲の反応はいかがですか?」
「家族や友達も皆、自分のことのように喜んでくれています」
「それは良かったですね」
「ええ、本当に……」
ルーシーが笑みを浮かべる。
「先日、漫画化もされました。こちらも大好評です。このことについては?」
「活字に苦手意識を持っている方もいらっしゃると思うので、そういう方にも作品を知って頂ければ良いなと思っております」
「漫画版の出来については?」
「それはもちろん、大満足です!」
「ご著書が出版されたばかりの時も取材させて頂きましたが……」
「はい、そうでしたね」
「その時は『自分が作家なんて信じられない』とおっしゃっていました」
ルーシーが苦笑する。
「ああそうですか、それは今もそう思っています」
「同じように、『過去の自分に伝えてあげたい』ともおっしゃっていました」
「ええ、そうですね、『諦めないで』、『まず一歩を踏み出してみて』ということを過去のもがいている自分に伝えたいですね」
♢
「モリさん、本日はどうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……あの、本当に私で良いんですか?」
「ええ、今やモリさんは敏腕編集者ですから」
「そ、そんなことはありませんよ……」
モリは照れくさそうに後頭部を掻く。
「ここまでヒット作を量産出来る秘訣はなんですか?」
「秘訣……なんでしょう? こちらが教えて欲しいです」
モリは笑いながら答える。
「少し意地悪な質問かもしれませんが……」
「どうぞ」
「スキル【編集】の影響もあるのではないでしょうか?」
「ああ、それも多少はあるかもしれませんが……でもやっぱり……」
「やっぱり?」
「作家さんそれぞれの努力の賜物だと思います」
「努力ですか」
「ええ、結局はそれです」
モリが深く頷く。
「いわゆる才能とかでもなくて?」
「もちろん、文章を紡ぐ才能などもそれぞれ持ち合わせていらっしゃると思いますが……努力することもまた才能だと思います」
「ふむ……」
「ちょっと偉そうですかね?」
その後もモリは編集者の質問にいくつか答える。
「……それでは最後の質問です。今後の野望は?」
「野望ですか……そんな大それたことは言えませんが、とりあえずフェニックスの羽毛を探してきます」
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