第8話(1)独特な占い
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「ふむ……」
今、私は巷で女性を中心に話題の『アババの占い館』に来ている。占いにはそんなに興味はない。あくまでも取材である。担当するはずであった女性社員が体調不良で休みの為、急遽私がくることになった。会社から意外と近かったので、それは良かった。
「……お待たせしました」
ベールで顔を覆った女性がゆっくりと部屋に入ってくる。この方がアババさんか。おお、やっぱりなんだかそれっぽい雰囲気はあるな……。女性が私の対面の席に座ると、口を開く。
「本日はどうやって占いましょうか?」
「は、はい……え?」
「え?」
「ど、どうやってですか?」
「え、ええ……」
「こ、こういうのって、何を占うか聞くものじゃないんですか?」
「ああ、わたくしのやり方は少々異なりまして……」
「はあ……」
「様々な占い方を用いて占うのです」
「ほう……」
「それでどうされますか?」
「……例えば、どんな占い方があるんですか?」
「そうですね、こういうものを使ったものですとか……」
アババさんが手のひら大くらいの水晶玉を机に置く。
「これは水晶占いですか?」
「そうです」
またベタな奴だな。まあ良いか。
「では、とりあえずこれで占ってもらえますか?」
「分かりました……はあ~」
アババさんが水晶玉の上に両手をかざす。
「……」
「はあ~!」
水晶玉にヒビが入った。私は驚く。
「ええっ⁉」
「……落ち着いてください」
「い、いや、落ち着けないですよ! 絶対良くないことでしょう⁉」
「これがわたくしの占いです」
「ええ……?」
「水晶玉の割れ方によって、吉凶を見るのです……」
アババさんが説明する。そういえばそんな占い方をする部族がいると聞いたことがあるが……あれは動物の骨を使ったりしなかったか? とにかく私はアババさんに尋ねてみる。
「それで……どうなのでしょうか?」
「良くないことが起こりますね」
「良くないこと?」
「ええ、水晶玉が割れましたから」
「割れ方で吉凶を見るとか言ってなかったですか?」
「とにかく、良くありません」
「はあ……具体的には?」
「女難に見舞われますね」
「女難? お、女の方ですか?」
「そうです」
アババさんが頷く。
「そ、そうですか……」
「いかがなされますか?」
「えっと……せっかくだから他の占いも体験してみたいのですが……」
「分かりました……!」
「あっ!」
アババさんが水晶玉を乱暴に脇に投げる。商売道具じゃないのか。首を傾げていると、アババさんが机の上にカードを何枚も並べている。これはあれか。カード占いか。
「……分かりました」
「へ?」
私が間抜けな声を発する。アババさんが首を傾げる。
「いかがしましたか?」
「い、いや……並び方とかで占うんじゃないですか? 今はざっとカードを並べて、適当にめくったようにしか見えないのですが……」
「……おっしゃる通り、適当にめくりました」
「ええ?」
「わたくしはフィーリングを大事にする方なので……」
「いやいや……」
戸惑う私をよそにアババさんが何枚かめくったカードを見つめて呟く。
「見たところ、仕事運が良くありませんね……」
「あ、そ、そうですか……」
「注意した方がよろしいかと思います」
注意するもなにも、この仕事が外れのような気がするんだが……。ん、待てよ? ということは当たっているのか。私は顎に手を当てながら頷く。
「ふむ……」
「いかがなされましたか?」
「あ、いや……なんでもないです」
私は首を振る。
「……では、どうしましょうか?」
「……せっかくですから、もう一種類くらい、占って欲しいですね」
「分かりました。最近女性に人気のあるやり方がありますが……」
「ああ、ではそれで……」
「はい……」
アババさんが虫眼鏡を取り出す。なるほど、手相を見るのか。これもベタだな。
「……」
「………」
「え⁉」
私は驚く。アババさんが私の顔を覗き込んできたからだ。アババさんが首を捻る。
「なにか?」
「い、いや、人相を見るんですか? 虫眼鏡要りますか?」
「ええ、欠かせません。毛穴の状態を見る占いですから」
「本当に女性に人気あります⁉」
「これが意外と……ふむ、分かりました」
「……どうですか?」
「金運がよくありませんね。浪費などしない方が賢明です」
「そ、そうですか……それじゃあ、そろそろ失礼します」
「お帰りですか? それではお代ですが……こちらです」
「ええっ⁉ 聞いていた値段より随分高いんですが⁉」
「割れた水晶玉分も込みです」
「割ったの貴女でしょう⁉」
「お支払い頂けないのであれば……」
アババさんが後ろの方に目をやる。これはマズいパターンだ。
「わ、分かりました! 払います……」
私は占いの館を後にする。なんてこった、取材費オーバーだ……とんでも占い師じゃないか……しかし、待てよ? ある意味これも仕事運が悪いということか? じゃあ当たっているのか? いやいや馬鹿馬鹿しい。私は会社に戻る。
「…………」
七人の女性が一斉に私を見つめてくる。私は慌てて手帳を確認する……あ、しまった、皆の打ち合わせを同じ日にしてしまっていた……ひょっとしてこれが女難か?
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