第3話(3)セクシーダイナマイト

「か、硬いですか……」


「はい、内容はこの世界で数百年前にあった戦国時代を題材にしていますね」


「ええ、そうです」


「その時期に活躍したが、あまりスポットの当たらなかった方を主役に据えている……」


「マ、マイナー過ぎるかなと思ったのですが、ボクはその方のことが好きなので……」


「先ほども申し上げましたが……」


「はい」


「読み応えはありました。マイナーな主人公ということを忘れるくらい」


「あ、そ、そうですか……」


「ですが」


 私は右手を掲げる。


「は、はい……」


「これは読者層がかなり限られます……」


「え……?」


「いわゆる『時代』ものというだけで、ほとんどの読者が敬遠します。書店でもあらすじだけさっと目を通して、棚に戻してしまうでしょう」


「!」


 マルさんが目を丸くする。


「せめてもう少しエンターテインメント性があればと思うのですが……」


「エンターテインメント性……」


「繰り返しになりますが、ここまで硬派な内容ですと……」


「はあ……」


「これは例えばの話なのですが……」


 私は右手を挙げる。


「はい」


「オリジナルのキャラクターを出すことは出来ませんか?」


「オ、オリジナルですか?」


「ええ、狂言回し的なキャラクターというか……」


「う、う~ん……」


「あるいは」


「あるいは?」


「読者の目線に立ったキャラクターを主役に据えるとか」


「ど、読者目線のキャラですか?」


「ええ、それで大分分かりやすくなるかと思いますが」


「う~ん……」


 マルさんは腕を組んで考え込む。


「……もしくは」


「も、もしくは?」


「物語を彩るキャラが欲しいですね」


「い、彩るキャラ?」


「ええ、そうです」


「た、例えば?」


「そうですね……謎の女とか」


「な、謎の女⁉」


「はい、謎の女」


 私は頷く。


「そ、それはどんな謎を持っているんですか?」


「……さあ?」


「さ、さあって⁉」


 私の言葉にマルさんが戸惑う。


「そういうミステリアスなところが読者の興味を惹きつけるのです」


「ふ、ふむ……」


「さらに……」


「さらに?」


「セクシーであれば言うことはありません」


「セ、セクシー⁉」


「はい、セクシーダイナマイトです」


「ダ、ダイナマイト⁉」


「そうです」


「セ、セクシーダイナマイトとは例えばどんな方でしょうか?」


「う~ん、セクシーさがダイナマイトのように爆発しているのでしょうね」


「セクシーさが爆発している……?」


 マルさんが首を傾げる。


「マルさんが思い浮かべているセクシーさがこの机の高さくらいだとします」


 私は腹部あたりの高さの机を軽く叩く。それを見てマルさんも頷く。


「は、はい、そのくらい……」


「ダイナマイトとは、この部屋の天井くらいです!」


 私は天井をビシっと指差す。マルさんが驚く。


「そ、そんなに⁉」


「当然です。セクシーダイナマイツなのですから」


「え? ダイナマイトですか? ダイナマイツですか?」


「それはどうでもよろしい」


「え、ええ……」


「とにかくそういったキャラを出せば、男性読者が食いつくでしょう」


「く、食いつきますか?」


「食いつきます」


「だ、断言されますね……」


「男なんてどこの世界でもそんなものです」


「モ、モリさんもそうなんですか?」


「……ノーコメントです」


「あ、逃げた……」


 私は話を変える。


「イケメンキャラも必要ですね」


「イ、イケメンですか?」


「はい、女性読者を獲得する為です」


「イケメンですか、難しいな……」


「イケメンが五人くらい欲しいですね」


「お、多すぎませんか⁉」


「一人ではサービスが悪いです」


「サ、サービス?」


「タイプの異なったイケメンを大量投入すれば、女性読者のハートを鷲摑みですよ」


「……」


「これらはあくまで一例ですが、そういう方向性で進めてもらって……」


「ボ、ボクはそういう話は書きたくありません!」


「‼」


「あ、す、すみません……ただ、ボクはこの世界の戦国時代が好きなんです。戦いはもちろんよくないものですけど、そこから見えてくるもの、学べるものがあるはずです。好きなものについてより深く知ってもらうというのはダメなんですか?」


 マルさんが私に尋ねてくる。やや間を空けてから私は答える。


「……好きばかりでは売り物になりません」


「⁉」


 マルさんが目を見開いてこちらを見る。


「皆さんどこかで妥協というか、折り合いをつけて作品作りに取り掛かっています」


「……自分の嫌いな題材でも書くということですか?」


「少し極端な話ですが、まあ、中にはそういう方もいらっしゃいますね、プロとして」


「それがプロだというなら、ボクには無理かも……」


「いやそう言わずにもう少し……ん?」


 その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またこれだ。

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