第13話「千年後の君たちへ」

 ここは関東地方東京都安楽市あんらくし絶好町ぜっこうちょう

 そして、ここは「カンドービル」の地下一階、「雪岡ゆきおか研究所ラボ」。

 都市伝説化する程に有名なマッドサイエンティスト、雪岡ゆきおか 純子じゅんこの根城であり、日々噂を聞き付けた哀れな実験台こひつじたちがやって来ては身体を弄られている。

 さらに、彼女の実験体である化け物がうろつき、コレクションが陳列され、殺人人形「相沢あいざわ しん」や魔剣士「雫野しずくの るい」に真狂祖「雫野しずくの みどり」と言った一癖も二癖もある疑似家族が住まう、この世の魔窟でもある。


「《香理かり 里桜りお氏、新種の元素「ステリウム」の実用化に成功》かぁ……相変わらず凄い事してるね~、里桜ちゃん」


 そんな雪岡研究所のリビングルームにて、純子は新聞を読みながらポツリと呟いた。科学者である彼女だが、実は魔術師でもあるので、こうした紙媒体の物を好んでいる。一方、純粋な科学者である里桜はネット媒体を好んでおり、新聞紙はあれば読む程度でしかない。

 だが、引きこもりがちの純子に対して里桜は結構アグレッシブと、色々と反対の二人である。同じマッドサイエンティストなのに、ここまで個人差が出るのも面白い関係と言えるだろう。


「さ~てと、出掛けようかな~」


 と、純子が新聞を畳んで立ち上がった。目の前には冷めかけのコーヒーカップが置かれている。そこそこ値の張るアンティークなテーブルだ。その正面には、これまたお高いソファーが置いてあり、二人の男女が座っている。純子の疑似家族、相沢あいざわ しん雫野 しずくのみどりである。仲良く育成RPGをしている最中だ。残りの一人たる雫野しずくの るいは更にその後ろ側でヘッドギア型のバーチャフォンで電脳世界にトリップしている。


「うん? 何処に行くんだ?」


 ゲームを中断した真が、純子に尋ねた。闇よりも黒い髪に蒼いメッシュが入った、人形のように整った顔立ちの少年である。何時も改造した学生服を着ており、傍らには彼の愛銃「じゃじゃ馬ならし」が置かれている。


「ふぇ~、純姉じゅんねえが外出なんて珍しいねェ?」


 続いてみどりが疑問を投げ掛けた。紺色寄りの黒髪に碧のメッシュが入ったロングヘアーの女の子で、宝石を思わせる模様の描かれたワンピースを常着している。彼女は後から入ったメンバーだが、結構仲良くやっており、真からは妹のように思われているようだ。

 二人共、引きこもりの純子が何処かに出掛ける事が気になって仕方ないようである(※トリップ中の累は考えない物とする)。


「うん、ちょっと閻魔えんま県までね」

「ああ、里桜に会いに行くのか……」


 その一言で、真は全てを察した。


「そ~そ~、ちょっとしたサプライズがあるんだってー」

「ふーん」

「真くんも一緒に行く?」

「絶対に嫌だ」

「……相変わらず里桜ちゃんが苦手なんだね~」


 真は過去に一悶着あったせいで、里桜が大嫌いなのであった。


「ふぇ~、みどりの知らない人だ。名前だけは聞いた事あるけど」

「だろうね。折角だから、一緒に行く?」

「OK!」


 しかし、みどりは里桜の事を全く知らないので、全然問題ナッシングだった。


「累くんは……」

「よし、そこです! セイバーッ!」

「……聞いてないね」


 累は聞いて無かった。


「それじゃ、二人で東北旅行と洒落込も~!」

「お~!」


 そういう事に為った。


「あ、そうだ。物はついでに――――――」


 ◆◆◆◆◆◆


 ここは東北地方閻魔県要衣市かなめいし古角町こかくちょう、峠高校の屋上――――――「里桜リオ研究所ラボ」。古代樹林の中心に聳え立つ巨木が入口であり、そこへ至るまでに様々な試練が待ち受けている。里桜が趣味で集めたり造ったりしたモンスターが蔓延っていたり、方向感覚を狂わせるナノマシンが散布されていたりと、とても案内人無しでは辿り着けない。


「久し振りに来たな~」

「はへ~、ここがそうなのかァ。……ト○ロとか居そう」


 だが、純子もみどりも普通じゃないので、何の問題も無かった。流石は不死身の魔術師と無限の転生者。


『わー、ここがそうなんだねー!』


 しかも、今回は妙ちくりんな同行者が一人……というか、一株。鉢植えに美少女の生首が花開らいているという、悪趣味な実験体「せつな」だ。彼女は元々“見た目はおっさん、頭脳は美少女”という性同一性障害トランスジェンダーの男性(その上引きこもりのニート)だったのだが、本人の望みでこうなった。“美少女”かつ“ニート”も楽しめるという意味では、間違ってはいないのかもしれない。


「……処で純姉、何でせつなまで連れて来たの?」

「実はね、ここには彼女のお友達が居るんだよ!」

「えっ、鉢植え生首が居るって事?」

その通りでございますイグザクトリー!」

「世界は広く、そして狭い……」


 まさかの理由だった。そこまでピンポイントな存在が他に居るとは驚きである。


「とりあえず、お邪魔しようか~。“42363死に晒せ”と」

「とんでもない暗証番号!」


 里桜がポチポチとボタンを押すと、ラボへの入り口が開いた。如何にも何か出て来そうな雰囲気だが、


「おや、純子か。……それと、誰だそいつ?」『ビバ~?』


 水先案内人の説子せつこが、ビバルディを抱いて現れた。


「ふわわわ~、何それ、可愛い~♪」

「そうだろう、そうだろう! ……で、結局誰なん?」

「あ、雫野しずくの みどりって言います。純姉の所でお世話になってるんですよ~」

「そっか……」


 興味無さそう。


「――――――真は来てないのか?」

「来る訳無いでしょ~?」

「だろうな」


 説子からしても、真が来ないのは想定内だったようだ。


「そうだ、悦子ちゃん、居る~? せつなちゃんと会わせたいんだけど」

「ああ、最近悦子がチャットしてる相手か。こっちだ」


 とりあえず、目的の一つであるせつなと悦子を引き合わせる。


『こんにちは! せつなだよ!』

『あ、どうも、悦子です。生で会うのは初めてですね』

「生首なだけに?」

「純姉、下らない事言うなって……」


 という事で、メインルームの傍らに植えられている悦子に、せつながご対面した。鉢植え生首が二つ並ぶ様は、実にシュールである。


「……そんで、お久し振りだねぇ、里桜ちゃん♪」

「おう、久し振り。何年経つかねー?」

「多分、二年ぐらいじゃないかな~? お互い、色々あったしね~」


 そして、顔を合わせる二人のマッドサイエンティスト。白衣の悪魔が並ぶ姿は、この世の終わりを告げるかのようだ。


「壮観だな」

「ヤバい絵面だねェ」


 それは闇色の水先案内人と真狂祖から見ても同じらしい。世も末である。


「そんでそんで、“サプライズ”とやらは、何なのかな~?」


 早速、純子が本題を切り出した。


「――――――これだよ」


 すると、里桜が腕時計らしき物を差し出す。


「それ付けて、「変身」って言ってみな」

「おっ、そのノリは変身アイテムって事だね。どれどれ……変身☆!」


 さらに、それを身に付けた純子が妙なポーズで「変身」と叫ぶと、ピクセル光が彼女を包み込み、金色の鎧を纏ったメタルヒーローに変身した。蜂に悪魔を混ぜ込んだ、蟲人型のスーツだ。



◆『識別コード:DCBMS-001』

◆『機体名:マッド・ギャガン』



『わ~ぉ、何これ~?』

「そいつは「マッド・ギャガン」。「ステリウム」を動力にした有機ナノメタルで変身する、蒸着人型決戦兵器さ」

『「ステリウム」って、あの「ステリウム」? そんなレア物が使われてるの、これ?』


 里桜の言葉に、説子が驚く。

 「ステリウム」とは、里桜が打ち上げたワープ航行式探査装置が持ち帰って来た新元素で、僅かな量で莫大なエネルギーに無駄なく変換出来る、夢のような代物である。当然、希少価値が高く、市場はおろか富裕層も殆ど手を出せない、里桜の独占状態だ。

 そんな珍しく貴重な物を惜しみなく使うとは、太っ腹にも程がある。ケチ臭い里桜にしては珍しい行為だろう。というか普通はあり得ないし、何なら説子に対してもあり得ない。相棒なのに。


「なぁに、お前と私の仲じゃないか。そいつを装着しているだけで、お前が使う“原子破壊”もし易くなるだろう。……ついでにデータも取らせて貰えると嬉しいなぁ」

『ようするに、実験台って事ね?』

「そうとも言う。ま、安心しなよ。既にプロトタイプで実験済みだから」


 ※苺に施した改造の事を言っています。


「しかも驚く事無かれ、電子戦にも対応出来るんだぜぇ」

『わ~、そりゃ凄い』


 純子は精神攻撃にある程度の耐性はあるが完全ではなく、そこを補えるというだけでも、非常に画期的な発明と言えるだろう。


「――――――という事で、ちょっと“対戦”してみようか」

『対戦?』

「家には丁度良い小悪魔が居るんでね」


 そして、提案される対戦カード。お相手はリオラボのナビゲーターこと、ディヴァ子ちゃんである。


《おやおや~、そんな事をしちゃって、良いのかな~?》

「黙れ雑魚。お前は黙って実験台になってれば良いんだよ」

《酷い言われ様。……ならば、悪魔の本気、見せちゃるぞ~!》


 里桜の挑発に、ディヴァ子が燃え上がる。あわよくば純子の身体を乗っ取ってやろうという魂胆が見え見えだ。雑魚の三下乙(笑)。


「アタシらはどうすりゃ良いのかな~?」

「安心しろ。お前は私が相手をしてやる。有難く思え」

「ボクは?」

「雑用してろ」

「雑な扱い……」


 さらに、里桜とみどりが手合わせする事となり、説子は双方のサポートをする雑用と為った。相棒の扱いが酷い……。


『ビバビ~♪』

『私たちは観戦でもしてましょうか』

『どっちも頑張ってー!』


 外野だけが癒しだった。鉢植え生首とカエルのぬいぐるみだけど。


 ◆◆◆◆◆◆


「……おっ?」


 純子が目を覚ますと、そこは広大な電脳空間でしたー。


「いやー、良く出来てるねぇ。五感もしっかりあるし、「オススメ11」を超えてるんじゃない?」


 純子が周りを見回しながら、呟く。

 煌めく夜空、乾いた空気、赤茶けた冷たい荒野。感じる全てが美しくリアルな、小綺麗な亜空間である。映像ならまだしも五感までは未だに再現不可能な中で、これ程の演算処理が出来るとは、一体どういう仕掛けなのだろうか。


《ヤッホ~イ☆♪ おはこんばんにちは~♪ ディヴァ子ちゃんの、電脳バトル配信、始まるよ~ん!》

「おっと、君がディヴァ子ちゃんか。対戦、よろしくね~」


 いや、それよりもディヴァ子との対決が先だろう。何せ里桜が用意してくれた、決戦のバトルフィールドなのだから。


《ヘイヘ~イ、里桜の友達だか何だか知らないが、貴女の身体、お借りします!》

「そんなウ○トラマンオーブみたいな事を言われても……丁重にお断りするよ!」


 ディヴァ子が大鎌を召喚し、純子は徒手空拳の構えを取る。先ずは互いに様子見の、肉弾戦からだ。その方が・・・・都合が良い・・・・・


《そい!》


 ディヴァ子の大鎌が月夜を切り裂く。当たれば一刀両断されるだろう。当たらなければ、どうという事も無いが。


「ほっ、はっ、てぃっ!」


 純子は素早い身の熟しで躱しつつ、カポエイラの体勢に入り、キックを連続で叩き込む。大鎌は一撃が強力な分、連携には不向きで、ディヴァ子は刃を盾に防ぐのに手いっぱいだった。


《ハァッ!》

「おっと!」


 ここでディヴァ子が飛び道具を解禁した。暗黒のエネルギーを固めた光弾である。


《どりゃあっ!》


 その上、刃にも闇を宿し、それを飛ぶ斬撃として放って来た。これには純子も距離を取る。

 しかし、ディヴァ子が有利かというと、そうでもない。先に飛び道具に頼ったという事は、肉弾戦では不利だと悟った事に他ならないのだから。

 しかも、純子には全弾避けられた上に、まだ手札を一つも切っていないのだ。これは早々に勝負あったか?


《うぬぬぬ~、ちょいとピンチかも! 信者たちよ、応援してちょ~い!》


 と、ディヴァ子がファンに応援を求め始めた。何気に配信で枠を取っていたのである。



 ――――――バキィイイン、バシュゥッ!



 すると、彼女の頭上に魔法陣が浮かび、一瞬にして別の姿に変身した。


《グヴァァアアアヴォッ!》


 如何にも悪魔然とした、黒紫色のフルメタル装甲に包まれている。これがディヴァ子の戦闘形態なのだろう。胸に輝く流星が、不釣り合いに綺麗だった。



◆『分類及び種族名称:電子生命体=悪魔嬢ディヴァ子

◆『弱点:胸部エネルギーコア』



《グルヴァッ!》


 変化したディヴァ子が、先程までとは比べ物にならないくらいの速度で距離を詰めて来る。それはつまり、今の状態なら接近戦でも勝てると踏んだ、という事だ。


「……ていやーっ!」


 これはそろそろ手抜きはマズいと思ったか、純子が腕から内臓や骨格の混じり合った“第二の腕”を伸ばす。このグロテスクな技こそが彼女の“殺し技”で、意思一つで変幻自在・臨機応変に敵を絡め取れる為、非常に汎用性が高い。

 だが、これは更なる必殺技の布石に過ぎず、純子自身も捕縛を優先して、放射状に展開している。案の定、ディヴァ子は包み込まれ、彼女の必殺技――――――「原子分解」に晒された。文字通り原子そのものを分解してしまう技であり、食らったが最後、光になって消えてしまうのである。


《ヴルァッ!》

「およよよ!?」


 しかし、消し飛ばしたと思ったディヴァ子が、何と純子の背後に現れた。即座に反撃するも、何故かディヴァ子とは正反対の方向に投網を広げてしまい、ミドルキックを真面に食らう。


「幻覚……? いや、方向感覚を狂わされてるのか~」


 その一交で、純子はタネを理解する。ディヴァ子は精神干渉で方向感覚をあべこべにしているのだ。幻覚などの直接的な物と違い、かなり感覚的な干渉なので、防ぎ難いのである。


(これは、早速お試しって事かな~?)


 一応、対抗出来ない事も無いが、純子はこれが試験運用である事を思い出し、早速変身してみる事にした。


「変身!」


 そして、純子の姿が今、変わる。蒸着人型決戦兵器「マッド・ギャガン」、運用開始だ!


 ◆◆◆◆◆◆


「ふぇ~、ここがリオラボの訓練施設かァ」

「そうだ。ここなら核弾頭を炸裂させても問題ないぞ?」

「それはアタシに問題あるかなァ……」


 一方その頃、みどりは里桜の案内で訓練スペースに移動していた。骨のように白い壁に覆われた、ドーム状の空間である。


「ほれ、掛かって来いや、お嬢ちゃん」

「……上等!」


 対峙するや否や盛大に煽られたので、みどりは最初から本気で行く事にした。彼女は純子と違い、飛び道具と精神攻撃を主体とした遠距離戦タイプであり、弾幕に唸らせ幻影に囚わせた上で薙刀で止めを刺すのが常套手段だ。


「行ったれ、「人食い蛍」!」


 だので、凶暴な肉食の蛍火を雨あられと放つ、「人食い蛍」を発射したのだが、


「フム、火力はそこそこか。悪くないな」

「うぇーい!?」


 里桜は傷一つ付かない処か、普通に吸収してしまった。


「だが、力不足だ。普段は味わえない、圧倒的理不尽という物を教えてやろう》


 さらに、メキメキと身体が変形し、巨大な化け物に為った。全身が漆黒の甲殻で覆われ、長い腕と趾行性の脚に長い尻尾を持ち、頭部には曲がった二本の角が生えている。顔には大きな単眼と四対の複眼があり、大きく裂けた口には鋭利な牙が並んでいた。

 何処からどう見てもラスボスです、本当にありがとうございました。



◆『識別コード:DMGB-666』

◆『個体名:ゼクスマキナ』



「ば、ばばばば、化け物だァ!?」

《違うね。私は悪魔だ》

「キェァァシャベッタァアッ!?」

《そりゃあそうだろう。まぁ、精々頑張れ》


 そして、魔王と化した里桜が襲い掛かってくる。


「くっそーっ、これでも食らえ! ……って、折れたァ!?」


 対するみどりは異空間から薙刀を召喚し、霊力の結晶を纏わせた刃で切り掛るも、あっさりと折れた。それはもう、ガラス細工のように。里桜の甲殻は、そこらの合金とはレベルが違うらしい。こりゃ駄目だ~♪


《あーあー、みどり、聞こえるかー?》


 と、何処からともなく説子のアナウンスが。そう言えば、彼女は雑用をしているんだった。


「説子さん!? 今忙しいんだけどな!?」

《そうか。なら手短に言うが、里桜は熱で活性化し、二酸化炭素から酸素を分離して、それを更に微小化してエネルギーに変換している。つまり、熱攻撃は敵に塩を送るだけだから、しない方が良いぞ》

「もっと早く言ってよ!?」


 今更遅い、遅過ぎる!


《ガァアアアヴィイアアアッ!》


 すると、里桜が角にバチバチと電撃を迸らせ、



 ――――――キィイイイイイイン!



 まるでジェット機のエンジンのような音と共に、赤紫色の破壊光線を吐き出してきた。


「ドワォッ!」


 みどりはギリギリで回避して、床が肩代わりする。


「と、融けてやがる! しかも、ただ熱いだけじゃない……!」


 その有様は酷い物で、ジュウジュウと粒子の煙を上げながら、昇華していた。


《ああ、それは微小化した酸素を圧縮した粒子光線だ。食らうと分子結合が破壊されて融けるから気を付けろー》

「何純姉みたいな事してんの!? そんな物、訓練で撃っちゃ駄目でしょ!?」

《ボクは何時も撃たれてるが?》

「お疲れ様です」


 説子の言葉に、みどりは何故真が里桜を嫌っているのか理解した。きっと、同じような事をされたのだろう。


「ち、ちなみに、精神攻撃とかは?」

《効かない処か逆に侵食されるから、おススメしないな》

「オワター\(^o^)/」


 理不尽、ここに極まれり。みどりが弱い訳では無いものの、致命的に相性が悪かった。何故カードを組ませたし……苛められるからか(確信)。


《仕方ない。ボクも手伝ってやるよ……っと! 真みたいにトラウマになられても困るんでね」

「おおー、有難~い!」


 だからなのか、説子が手伝いに参戦した。流石に酷過ぎるからね、仕方ないね。


《ガァァギィイイングヴウウウウン!》

「行くぞ、みどり!」「合点だーい!」


 こうして、里桜VS説子&みどりのカードが切って落とされた。


 ◆◆◆◆◆◆


《グルヴァアアヴッ!》

《せぇい!》


 変身したディヴァ子と純子が激突する。その瞬間、空間が書き換わり、時計の歯車や針が飛び交う、上も下も右も左も無い異世界と化した。

 だが、問題ない。今の純子に精神攻撃は通用しないのだから。ここからはガチンコの勝負である。


《ゴヴァッ! キシャアアッ!》


 ディヴァ子が無数の大鎌と光弾を手裏剣の如く飛ばし、純子を膾切りにしようとする。


《無駄無駄無駄ァッ!》


 対する純子は、サイバネティックな魔法の杖に魔力の刃を形成し、魔法剣にして切り払った。


《ボラボラボラァッ!》

《ブルヴァォヴゥッ!?》


 さらに、接近戦に持ち込み、パンチとキックの連打を浴びせる。ディヴァ子も必死に反撃するが、どうにもならない。鎌は空を切り、光弾は明後日の場所を破壊するなど、完全に置いてきぼりを食らっていた。


《「ステリウム光線」!》

《グギャァアアアアッ!》


 そして、原子破壊の力をビームに変えた、純子の必殺光線を浴びて爆発四散する。ゲームセットだ。


 ◆◆◆◆◆◆



 ―――――――キィイイイイイイン!



「危ねっ!」「わきゃー!」


 里桜の「微小化酸素粒子光線ラスタービーム」が白亜の壁を薙ぐ。当たったら即死する破壊光線だ。


「シャアアッ!』


 紙一重で躱した説子が、洋間と化しつつ取って返し、爪で切り付けた。シィィィっという音を立てながら。


《グヴヴヴゥゥン!》

「ちゃんと切れた!?」


 すると、今まで傷一つ付かなかった里桜の甲殻に爪痕が付いた。


『超音波で爪を振動させた。これなら多少硬くても分子ごと切断出来る。連発出来ないのが欠点だがな』

「何でどいつもこいつも原子や分子を破壊したがるんだ」


 皆だけズルい。みどりは不満をタラタラに流した。


《ガァアアヴィイイアアアッ!》

「再生しましたが!?」


 しかし、当たり前のように再生された。里桜は本当に理不尽。


《グヴヴゥゥゥウン!》

『わぉ』「説子の首が吹っ飛んだ!?」


 さらに、先端が鎌になった長大尻尾によるテールスイングで、説子の首を撥ね飛ばす。


『フンッ!』

《グルゥ!》


 だが、説子も説子で、飛んだ首を自らキャッチして押し付け、そのまま戦闘を続行した。リオラボの人間は化け物か……化け物だわ。


『おい、みどり! 「人食い蛍」を撃て!』

「えっ、でも……」

『いいから撃て!』

「分かりましたよーだ! ていやァーっ!」


 説子の無茶振りに、みどりが「人食い蛍」で応える。当然、里桜に吸収され、更なるパワーアップを促す事に為ったのだが、


『……熱吸収は一見無敵に見えるけどな。“吸収”という隙があるし、進化を許す前に“それ以上”を叩き込めば良いんだよ』


 そう言って、説子は体内でエネルギーを暴走させ、後光のような烈火を纏いつつ、


『ゴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

「人間って言うか、生物の出していい火力じゃねェッ!」


 普段とは比較にもならない、太陽すら焦がす勢いの爆炎を吐いた。


『ビバルディ、システム起動!』

《ビバビ~♪》

《……チッ、ここまでか」


 そして、ビバルディが起動した瞬間冷却システム(絶対零度)で冷やされた里桜が変身を解き、訓練はお開きとなる。


「閻魔県、こえェ~」


 これだけの事をしても戦闘を中断させただけの里桜を見て、みどりは恐れ戦くのだった……。


 ◆◆◆◆◆◆


「いや~、良い汗掻いたね~」

「こっちは冷えたけどな」

「アタシは肝が冷えたぜい」

《酷い目に遭ったなり~》

「はぁ……」


 色々と終わった一行が、メインルームに再度集結した。五者五様の反応を示している。しれっとディヴァ子が復活しているが、電子生命体である彼女を根絶する事は不可能なのだろう。


「今日はどうする? 帰るのか?」

「う~ん、でも来たばっかりだし……あ、そうだ、折角だから、前から計画してたゲームソフトの内容を煮詰めようよ!」

「それもそうだな。説子、そいつらの相手を頼むぞ」

「へいへい」


 純子も里桜も疲れ知らずのようで、そのままゲームの企画会議を開き出した。お前ら、そんな事も考えてたのか……。


《じゃあ、アタシはスリープしまーす》


 ディヴァ子は疲れを知らない筈だが、電脳世界で戦った故に精神的に疲れたらしく、スリープモードになってしまった。わざわざ「ZZZzzz」と寝息を立てている。


「お前はどうする?」

「……アタシは癒し枠と戯れてるぜィ」

『いらっしゃいませ~♪』『お疲れさままま!』『オビバ~♪』


 身も心も疲れ切ったみどりは、カエルのぬいぐるみで癒され出した。


「……ボクも寝るか」


 面倒臭くなった説子は、不貞寝し始めた。

 こうして、純子たちは一晩をラボで明かし、翌日には無事に帰りましたとさ。めでたしめでたし。


「また来ようね~、みどりちゃん?」

「二度と行きたくねェッス……」

「あらままま」

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